41話 クラーケンの足料理
クラーケンとの死闘を終え、俺たちは疲労が溜まりながらも、大きな達成感に包まれていた。
目の前には、戦利品である巨大なクラーケンの足、墨袋、真珠、そして祭壇に輝く人魚の涙。
「す、すごい……! これが人魚の涙……! なんて綺麗な魔力だ……!」
炎華が、人魚の涙を手に取り、うっとりと眺めている。鍛冶師として、これほど魅力的な素材はないだろう。
「そして、こっちがクラーケンの足ですね! うわー、大きい! タコやイカとは全然違いますね!」
レイナさんは、さっそく食材に興味津々だ。
その足は、一本だけでも大人の胴体ほどの太さがあり、表面はヌメっとしているが、身は引き締まっていそうだ。
「さて、と……。皆さん、お疲れのところ申し訳ないですが、せっかくの新鮮な素材、ここで料理しない手はないですよね?」
俺は、疲れた体に鞭打って、調理器具を取り出した。Aランクモンスターの素材なんて、滅多に手に入るものじゃない。
最高の状態で味わいたいのが、自称料理人の性である。
「ふん、当然だ。このクラーケン、どう料理するか、腕の見せ所だな、S」
一条シェフも疲れてはいるが、料理となると目が輝きだす。
「まずは、この足を捌かないと……。結構、硬そうだな」
クラーケンの足は、巨大なだけでなく、表面の皮も分厚く、捌くのは一苦労だ。
俺の安物ナイフでは歯が立たないかもしれない。
「貸してみろ、料理人。あたしのハンマーなら……いや、こっちの解体用のノコギリの方がいいか」
炎華が、リュックから自作の道具を取り出して手伝ってくれる。彼女の道具は、さすが鍛冶師が作っただけあって、切れ味抜群だ。
一条シェフも、的確な指示とナイフ捌きで協力してくれる。三人で力を合わせ、なんとか巨大な足を扱いやすい大きさに切り分けることができた。
今日のメニューは二品。
「ゲソの唐揚げ ネギ塩レモンだれ」
「クラーケン墨の真っ黒パスタ」
まずは唐揚げから調理開始だ。
切り分けたクラーケンの足の身は、驚くほどの弾力を持っている。これを一口大にカットし、特製の漬けダレ――生姜、ニンニク、醤油、酒、そして隠し味に少しだけ墨を混ぜた物に漬け込む。
そして、片栗粉をまぶして、高温の油でカラリと揚げていく。
ジュワァァァァ……!
水中のはずなのに、炎華のヘルメットのおかげで、特殊な空間が確保されている。
もう、これではどこぞのアニメや漫画に出てくるチートアイテムと変わらない。
香ばしい匂いが立ち込める。揚がった唐揚げは、見るからにプリップリで、ボリューム満点だ。仕上げに、刻みネギとゴマ、レモン汁をたっぷりとかけた特製の塩ダレを添える。
次にパスタだ。
クラーケンの墨袋から取り出した墨は、イカスミよりもさらに濃厚で、磯の香りが強い。これをオリーブオイルで炒めたニンニクと唐辛子、白ワインと合わせてソースを作る。
そして持参した茹で上げたパスタと絡めれば、見た目もインパクト大な真っ黒パスタの完成だ。
「できました! 深海の恵み、クラーケン料理二品です!」
目の前には、山盛りの唐揚げと漆黒のパスタ。
どちらも、見た目からして食欲をそそる。
(パスタは少し不気味だが)
激闘を終えたばかりの俺たちの胃袋は、すでに準備万端だ。




