37話 日常への帰還
極寒の雪山から無事に帰還した俺たち。
それぞれの日常へと戻り、ダンジョンでの冒険と成果を噛みしめていた。
俺は、久しぶりに自分のアパートのキッチンに立っていた。手には、先日ロイヤリティ収入で思い切って購入したピカピカの高級フライパン。熱伝導率が良く、どんな食材も均一に美味しく焼き上げてくれる優れものだ。
「ふふふ……やっぱり、良い道具はテンションが上がるな」
早速、近所のスーパーで買ってきた普通の豚肉を使って、生姜焼きを作る。
ジュワッと小気味良い音を立てて焼けていく豚肉。香ばしい匂いが部屋に広がる。
(うん、美味そうだ!)
ダンジョン飯もいいけれど、こういう普通の家庭料理も、たまに作るとホッとする。
……まあ、最近はレトルト生活が長かったから、普通の料理が逆に新鮮に感じるのかもしれないが。
ピンポーン、とインターホンが鳴る。
出てみると、そこには作業着姿の炎華が立っていた。手には、何やらゴツいハンマーを持っていた。
「よう、料理人。ちょっと頼みがある」
「え? 頼みって?」
「これ、氷晶鋼で作った試作品のハンマーなんだが、強度テストをしたい。何か、めちゃくちゃ硬い食材とか持ってないか? そうだな……アダマンタイト製の亀の甲羅とか」
「そんなものあるわけないだろ! 俺はただの料理人だぞ!? いや、サラリーマンだ!!」
相変わらず、無茶振りをしてくるやつだ。
でも、その顔はどこか誇らしげで、新しいハンマーの出来に満足しているのが伝わってくる。
氷晶鋼を手に入れたことで、彼女の鍛冶師としての道も、また一歩前進したのだろう。
一方、一条シェフは、自身のレストラン『Lecrin de Reve』の厨房で、イエティミルクを使った新メニュー開発に没頭していたらしい。
濃厚なミルクの風味を活かしたポタージュや繊細な味わいのブランマンジェなど、次々と試作品を生み出しているみたいだ。
そして、その度に俺のスマホに「S、意見を聞かせろ」というメッセージと共に、料理の写真が送られてくる。……正直、写真だけじゃ味は分からないのだが、彼の料理への情熱はひしひしと伝わってくる。
俺も負けていられないな、と思わされる。
そして、レイナさんはというと……。
『雪山で、ふわふわのイエティさんとお友達になりました♡ いただいたミルクで作ったプリン、絶品でした~! 料理人Sさん、いつもありがとう! #ダンジョンまんぷく飯 #イエティミルク #雪山スイーツ』
ちゃっかりSNSを更新している。
それがまたしても大きな反響を呼んでいた。
もちろんコメント欄には、
『イエティと友達!? さすがレイナ様!』
『イエティミルクプリン……だと……? 食べてみたい!』
『料理人S、ついに幻獣まで手懐けたか……』
『もうSは何者なんだ……神か?』
といった声が並んでいる。俺の神格化?は、とどまるところを知らないようだ。
まあ、もう慣れたけど……。
それぞれの場所で、それぞれの時間を過ごしながらも、俺たちの間には、ダンジョンと料理を通して生まれた、確かな繋がりが育まれている。




