32話 試食! 四者四様のリアクション
じっくりと煮込むこと約30分。
鍋からは、食欲をそそるスパイシーな香りが漂っている。
「よし、完成です! 灼熱サラマンダーの激辛チリコンカン風、召し上がれ!」
俺は深めの器に真っ赤なチリコンカン風を盛り付け、みんなの前に差し出した。
湯気と共に強烈な刺激臭が立ち上る。
「わぁー! 真っ赤ですね! 美味しそう!」
一番最初に手を伸ばしたのは、やはり激辛好きのレイナさんだった。
スプーンでたっぷりとすくい、ふーふーするのもそこそこに大きな口で頬張る。
「…………!!!!!」
一瞬、動きが止まる。そして、次の瞬間。
「か、か、辛ーーーーーい!!! でも、うまーーーーーい!!!」
レイナさんは、目を見開き、顔を真っ赤にしながらも、有頂天の表情を浮かべている。
「すっごい辛いけど、サラマンダーのお肉の旨味がぎゅーって詰まってて、豆のホクホク感と、トマトの酸味、スパイスの香りが絶妙にマッチしてます! 辛い! 辛いけど、スプーンが止まらない! これは……クセになりますね!」
額には玉のような汗を浮かべ、口からは「はー、はー」と熱い息を吐きながらも、彼女は夢中でチリコンカンを食べ進めている。
その姿は、もはや求道者のようだ。
「ふん、大袈裟なやつだな」
次にスプーンを取ったのは、一条シェフだ。
彼はプライドからか、あくまで平静を装っている。少量すくって、ゆっくりと口に運ぶ。
「…………っ!」
一口食べた瞬間、彼の眉がピクリと動き、額に青筋が浮かんだ。しかし、表情は崩さない。
「……な、なかなか……刺激的な味だ。悪くない。サラマンダーの個性を、見事に引き出していると言えるだろう。……ただ、少し、スパイスの配合に改善の余地があるかもしれんな……」
顔は真っ赤になり、首筋には汗がびっしょりと浮かんでいるが、あくまで冷静な批評をしようと努めている。強がる姿が、なんだか面白い。
「次は、あたしだ」
最後に炎華がスプーンを取った。
彼女も負けん気の強さからか、平気な顔をしようとしている。
「ふん、辛いだけだろ、どうせ……」
ぶっきらぼうに言いながら、一口パクリ。
「…………!!!!!」
炎華は、目を見開いたまま、固まった。
そして次の瞬間。
「か、か、か、辛ぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」
素直すぎるリアクション!
彼女は、口を押さえて悶絶している。
顔は髪の色と同じくらい真っ赤だ。
「な、なんだこれ!? 舌が燃える! でも……あれ? なんか……美味い……? 辛いのに、なんで……? くそっ、なんか、悔しいけど……美味いぞ、これ……!」
ツンデレ全開の食レポだ。
涙目で汗だくになりながらも、彼女もまたスプーンを止めることができないようだ。
「ははは……」
三者三様の面白いリアクションを見て、俺もつられて笑ってしまう。
そして、自分も一口。
「うおっ! やっぱり辛い! 自分で作っといてなんだが、これは本当に辛い! けど……確かに、美味い!」
強烈な辛さの向こう側にある深い旨味と複雑なスパイスの香り。そして、食べ進めるうちに体の芯からエネルギーが湧き上がってくるような感覚。
これが、サラマンダーの力なのか……!
俺たち四人は汗だくになり、ヒーヒー言いながらも、夢中で激辛チリコンカン風を平らげた。
火山ダンジョンの熱気と料理の熱気、そして辛さによる興奮で、その場のテンションは最高潮に達していた。




