30話 サラマンダー
炎華を加えた四人パーティー。
火山のダンジョン探索は、思った以上にスムーズに進んだ。
「この先の通路、壁が脆くなってる。落盤に注意しろ」
「あそこの溶岩溜まりの近くに、高純度の『火炎石』があるはずだ。後で回収しよう」
「チッ、隠し通路か……。あたしが見抜けなかったとはな」
炎華は、鍛冶師としての知識と経験から、鉱石の場所や地質の変化、隠された通路などを的確に見抜いている。
探索者としてのランクはCだが、ダンジョンに関する知識や洞察力は、Bランク。
俺たちよりも遥かに上かもしれない。
時折、小規模な火属性魔法を使って、暗い場所を照らしたり、モンスターの注意を引いたりするサポートも見せた。
「へえ、炎華ちゃん、すごいね!」
レイナさんが感心すると、炎華は「ふ、ふん! このくらい、当然だ!」と顔を赤くしてそっぽを向く。分かりやすいツンデレである。
一方、俺に対する態度は相変わらずだった。
「おい、料理人! もっとシャキシャキ歩け! 遅いぞ!」
「そんな重い荷物持って、足手まといじゃないのか?」
「本当に、あんた料理以外にできることあんのか?」
と、いちいち突っかかってくる。
俺も最初はムッとして言い返していたが、途中からはもう相手にするのも面倒になってきた。
しかし、そんな炎華の態度も、ある出来事をきっかけに少しずつ変化していく。
昼休憩の時、俺が手早く作った「岩塩プレートで焼いたファイアリザードのハーブ焼き」を食べた時だ。
「……!」
一口食べた瞬間、炎華の動きが止まった。
そして、目を丸くして、俺の顔をじっと見つめてきたのだ。
「……な、なんだよ」
「……う、美味い……。なんだこれ……。ただ焼いただけじゃないのか……?」
「まあ、ちょっと下味とハーブに工夫はしたけど……」
「……ふ、ふん! まあ、悪くはないんじゃないか……。あたしが腹減ってただけかもしれないしな!」
そう言いながらも、炎華は黙々と、そしてどこか幸せそうに、俺の料理を平らげていた。
それ以降、俺に対する当たりが、ほんの少しだけ柔らかくなったような気がした。料理の力って、すごい。
そして、ついに俺たちは、ダンジョンの最深部、広大な溶岩ドームへとたどり着いた。
ドームの中心、マグマが煮えたぎる池のような場所から、ひときわ巨大な影が姿を現した。
「グルルォォォォ……!!!」
全身が燃え盛る炎に包まれ、鋭い爪と牙を持つ、巨大なトカゲ。あれが、サラマンダーだ! その体からは、周囲の空気を歪ませるほどの高熱が放たれている。
「来たな……!」
一条シェフがナイフを構え、レイナさんが短剣を抜き放つ。炎華も、ハンマーと反対の手に、小さな火の玉を作り出して構える。
「行くぞ!」
一条シェフの合図で、戦闘が開始された。
レイナさんが、驚異的なスピードでサラマンダーに接近し、その猛攻を掻い潜りながら攻撃をする。
一条シェフは、冷静に戦況を分析し、的確な指示を出しながら、水の魔法やナイフでレイナさんをサポートに専念している。
炎華は、後方から火属性魔法を放ち、サラマンダーの注意を引きつけたり、動きを鈍らせたりする。
そして俺は……。
「よし、今のうちに調理の準備を……!」
安全な岩陰に隠れ、リュックから耐熱調理器具を取り出し、スパイスやら調味料やらを並べていた。戦闘は、完全にプロフェッショナルな三人に任せる。
俺には俺の戦いである料理があるのだ!
激しい戦闘の末、ついにサラマンダーは地に伏した。レイナさんと一条シェフの連携、そして炎華の効果的なサポートが見事に決まったのだ。
「やった……!」
「ふぅ、さすがに手強かったな」
「はぁ、はぁ……なんとか、なったな……」
三人は、息を切らしながらも、勝利を喜んだ。サラマンダーが消えた後には、燃えるような赤色の肉塊と、キラキラと輝く鉱石……炎竜鋼が残されていた。
「やった! 炎竜鋼だ!」
炎華が、目を輝かせて鉱石に駆け寄る。
「そして、こっちがサラマンダーのお肉ですね! うわー、本当に燃えそうなくらい赤い!」
レイナさんが、肉塊を興味津々で眺めている。
「よし、皆さん、お疲れ様でした! 早速、この新鮮なサラマンダー肉で、激辛料理を作りますよ!」
俺は、準備万端整った調理スペースから、自信満々に宣言した。




