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Sランクアイドルと作る絶品ダンジョン飯!~社畜Fランク探索者の俺が、料理スキルで成り上がるのはどう考えてもおかしい件~  作者: 咲月ねむと


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3話 国民的アイドルとの約束

「あ、俺は佐藤健太(さとうけんた)です。本職はしがないサラリーマン、副業でFランク探索者をやってます」


「佐藤さん、ですね! 私は……えっと、レイナです」


レイナと名乗った彼女。

どこかで聞いたことがあるような……いや、気のせいだろう。アイドルとか、そういう系の名前っぽい響きだけど。


「レイナさんも探索者なんですか? さっきの動き、すごかったですけど。ゴブリンが一瞬で……」


俺がそう言うと、レイナさんは少し慌てたように手を振った。


「あ、はい! 一応……。でも、まだまだなんです。たまたま、上手くいっただけで……。佐藤さんこそ、お料理すごくお上手ですね! ダンジョンの中でこんな美味しいものが食べられるなんて、びっくりしました!」


「いやいや、ただの趣味ですよ。お金がないから、ダンジョンで食材調達してるだけで。ダンジョン飯専門、みたいなもんです」


自嘲(じちょう)気味に言うと、レイナさんはキラキラした目で俺を見た。


「ダンジョン飯専門……! 素敵です! プロの料理人の方なんですか?」


「めっそうもない! 本当にただの社畜ですって」


「でも、すごいです! 私、感動しました!」


なんだか妙に褒められるな……。

レイナさんは、人を褒めて伸ばすタイプなのだろうか。それとも、単にお世辞が上手いのか。いや、さっきの食べっぷりを見る限り、本心から言ってくれているのかもしれない。


「そうだ!」


レイナさんが何かを思いついたようにポンと手を打った。


「佐藤さん、もしよかったら、また今度一緒にダンジョン行きませんか? 私、護衛しますから、佐藤さんは美味しいダンジョン飯作ってください!」


「えっ?」


予想外の提案に俺は目を丸くした。


「えっと……俺と、一緒にダンジョンに?」


聞き間違いかと思って、思わず聞き返した。

目の前の美少女レイナさんは、こくこくと力強く頷いてばかりだ。


「はい!私、強いモンスターがいるダンジョンにも行ってみたいですけど、一人だとちょっと不安で……荷物持ちとか、休憩中のご飯とか、そういうサポートがあったら心強いなって……。あ、もちろん、報酬はちゃんと払います!」


(いやいやいや、さっきの動き、どう見ても俺より遥かに強いでしょ……心強いって、むしろ俺が思う側では……?)


心の中でツッコミを入れるが、口には出さない。彼女がそう言うのだから、何か事情があるのかもしれないからだ。もしかしたら戦闘は得意だけど、索敵とか罠解除とか、そういうのが苦手なタイプなのかもしれない。


それなら、Fランクの俺でも多少は役に立てる……か? いやいや、無理だろ。


「それに、佐藤さんのダンジョン飯、もっと色々食べてみたいです!」


ぐいっと身を乗り出してくるレイナさん。

その瞳は純粋な好奇心と食欲に満ちているようだった。


(うーん……どうしようか)


正直、悪い話ではない。俺はFランク探索者。

ソロで潜れるのは、この『ゴブリンの巣』のような低ランクダンジョンが限界だ。もっと奥深く、レアな食材が手に入るようなダンジョンに行ってみたいという気持ちは常々あった。


オーク肉のステーキとか、コカトリスの卵とじとか、そういうのを一度作ってみたい。


彼女が本当に高ランク探索者なら、安全は確保されるだろう。俺は料理に専念できる。


まさにウィンウィン……なのでは?


ただ、気になる点が一つある。


「あのレイナさん。俺、本当に弱いですよ? Fランクですし、モンスターが出てきたら、真っ先に逃げる準備するレベルなんですけど……足手まといになる可能性、大なんですけど……」


「大丈夫です! 私が守りますから! 佐藤さんは、美味しいご飯のことだけ考えててください! いざとなったら、私が佐藤さんを担いで逃げます!」


なぜか、自信満々に胸を張るレイナさん。

その様子は妙に頼もしく……見えなくもない。


(担いで逃げるってのは、ちょっと情けないけど……まあ、いっか。こんな機会、滅多にないだろうし)


それに、彼女のあの食べっぷりを見ていると、もっと色々なダンジョン食材で料理を振る舞って、あの笑顔が見たい、という気持ちが湧いてくる。自称料理人としての血が騒ぐというやつだ。それに、もし本当に高ランク探索者なら、色々と勉強になることもあるかもしれない。


Sランクへの道は、まず情報収集からだ!


(はぁ……道のりは果てしなく遠いが)


「……わかりました。俺でよければ、ぜひ。その、足手まといにならないように、頑張ります……主に料理で」


「本当ですか!? やったー!」


レイナさんは、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでくれた。その無邪気な姿は、なんだか小動物のようで可愛らしい。

有名人とかじゃなくて、普通の、ちょっと変わった女の子なのかもしれない。


「じゃあ、連絡先、交換しませんか? 次に行くダンジョンの相談とかしたいです!」


そう言ってレイナさんはスマホを取り出した。


俺も慌てて自分のスマホを取り出す。

ごく普通のメッセージアプリで連絡先を交換する。


(……あれ? この子のアイコン、なんかキラキラしたステージ衣装の写真……? いや、気のせいか。友達とのコスプレ写真かもしれないしな)


一瞬、既視感を覚えたが、深くは考えないことにした。きっと、どこかのインフルエンサーか何かだろう。最近は綺麗な子が多いからな。


「じゃあ、今日は本当にありがとうございました! 佐藤さんのおかげで助かりましたし、美味しいご飯も食べられて、最高の1日でした! ゴブリン肉って、あんなに美味しいんですね!」


「いえいえ、こちらこそ。楽しかったです。それじゃあ、また連絡します」


「はい! 楽しみに待ってます! 次はどんなダンジョン飯が食べられるのかなー?」


レイナさんは最後まで食い意地を張りつつ、ぶんぶんと大きく手を振って、ダンジョンの出口へと向かっていった。その足取りは、来た時とは比べ物にならないほど軽い。


一人残された俺は、まだほんのり温かいフライパンを片付けながら、今日の出来事を思い返す。


(とんでもない出会いだったな……)


謎の腹ペコ美少女、レイナさん。

彼女との出会いは、俺の平凡な社畜兼底辺探索者ライフに何か新しい風を吹き込んでくれるのだろうか。


とりあえず、次のダンジョン飯のメニューを考えておくか。彼女、何が好きかな……。


やっぱり肉だろうか?


それとも、意外と魚介系とか?


まずは、もう少し安全かつゴブリンよりはマシな食材が手に入るダンジョンを探すところからだな。


そんなことを考えながら、俺もダンジョンを後にした。


夜空には、満月が輝いていた。


明日も仕事か……と少し憂鬱になりながらも、心は不思議と軽かった。

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