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Sランクアイドルと作る絶品ダンジョン飯!~社畜Fランク探索者の俺が、料理スキルで成り上がるのはどう考えてもおかしい件~  作者: 咲月ねむと


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24話 幻惑の森と料理対決?

俺、レイナさん、そして一条シェフの三人が向かったのは、Cランクダンジョン【幻惑の森】。その名の通り、特殊な胞子を飛ばす植物や幻覚を見せるキノコなどが多く自生しており、方向感覚を失いやすく、精神的な疲労も大きいとされるトリッキーなダンジョンだ。


「へぇ、ここが幻惑の森ですか。なかなか興味深い環境ですね」


一条シェフは、森の入り口で、まるでレストランの内装を吟味するかのように、冷静に周囲を観察している。服装も、探索者用というよりは、高級アウトドアブランドの最新モデルといった感じで、隙がない。手には、レイナさんとは違う意味で高そうな、カスタムメイドのサバイバルナイフを持っている。


「一条シェフ、ダンジョンは初めてじゃないんですか?」


俺が恐る恐る尋ねると、一条はフッと鼻で笑った。


「当然だ。最高の食材を求めるなら、自ら産地に赴くのは、料理人として当然の探求心だろう? Bランク程度なら、ソロでも問題ない」


(うわ……やっぱり、なんか偉そうだ……)


俺は、早くも一条に対する苦手意識を強める。

ダンジョン内部に入ると、そこは幻想的な光景が広がっていた。巨大なキノコが淡い光を放ち、木々の間にはキラキラと光る胞子が舞っている。美しいが、どこか不気味な雰囲気も漂っている。


「わぁ、綺麗……! でも、なんだか目がチカチカしますね」


レイナさんが言う通り、舞っている胞子には軽い幻惑作用があるようだ。


「気をつけろ。この森では、五感を頼りすぎると道を見失う。冷静な判断力が重要だ」


一条シェフが、的確なアドバイスをする。

探索者としても、かなりの手練れのようだ。悔しいが頼りになりそうだ。


道中、幻覚を見せるスモッグを吐く「ミストウルフ」や、擬態能力を持つ植物モンスター「マンドラゴラ・イミテート」などが現れたが、レイナさんと一条シェフが連携して、危なげなく対処していく。


俺は、主に幻覚に惑わされて、あらぬ方向に走り出したり、木に話しかけたりしていた。完全に足手まといだ。


「おい、料理人S。君はもう少ししっかりしろ。そんな状態では、まともな料理など作れんだろう」


一条シェフから、冷たい指摘を受ける。ぐうの音も出ない。


しばらく進むと、色鮮やかなキノコが群生している場所に出た。

赤、青、黄色と、見るからに毒々しい色合いだ。


「これは……『サイケデリックマッシュルーム』か。強い幻覚作用があるが、少量なら食用にもなる。使い方次第では、面白い味が出せるかもしれないな」


一条シェフが、鑑定スキルでもあるのか、キノコの名前と特性を言い当てる。


「へぇー! 面白そうですね! 佐藤さん、これで何か作ってみませんか?」


レイナさんが、無邪気に提案する。


「えっ!? いや、これ、危ないんじゃ……」


「ふん、怖気付いたか、料理人S。まあ、素人には扱いの難しい食材だろうな」


一条シェフが、挑発するように言った。

その言葉に、俺の中の何かがカチンときた。


「……いいでしょう。やってやりますよ。このキノコで、最高の料理を作って見せます」


「ほう、面白い。ならば、私も作ろう。どちらの料理が、この『幻惑』を制するか、勝負と行こうじゃないか」


なぜか、その場のノリで、俺と一条シェフによる即席料理対決が始まってしまった。


レイナさんは「わーい! 楽しみー!」と、完全に観客モードだ。


俺が作るのは、サイケデリックマッシュルームを使った「幻惑きのこバター醤油炒め」。シンプルだが、素材の味を活かす一品だ。


一方、一条シェフが作るのは、「サイケデリックマッシュルームのポワレ バルサミコソース添え」。フレンチの技法を駆使した、見た目も美しい一品だ。


それぞれが手際よく調理を進め、二つの料理が完成した。

見た目は、圧倒的に一条シェフの料理の方が豪華だ。


「さあ、まずは私の料理から試食してもらおうか」


一条シェフが、自信満々に料理を差し出す。

俺とレイナさんが、恐る恐る口にする。


「……! 美味い……! キノコの食感と、バルサミコソースの酸味が絶妙だ……! けど……あれ? なんだか、体がふわふわするような……?」


俺が感想を言うと、隣のレイナさんが、突然立ち上がって歌い出した。


「ららら~♪ お花畑が広がってる~♪ 妖精さんが踊ってる~♪」


(うわっ! レイナさんがラリってる!?)


どうやら、一条シェフの料理は、キノコの幻覚作用を増幅させてしまったようだ。


「次は、俺の料理です……」


俺は、自分のバター醤油炒めを差し出す。一条シェフが、訝しげな顔で口にする。


「ふん、バター醤油か。安直な味付けだが……むっ!? この香ばしさは……! そして、この後味……!? おおっ!? なんだ、この……世界が輝いて見える感覚は! 全てが愛おしい! 君も! レイナさんも! この森も! 愛してるぞーーー!!」


一条シェフが、突然、愛を叫び始めた。

どうやら、俺の料理にも幸福感を増幅させる幻覚作用があったらしい。


(……どっちもどっちだな……)


幻覚でラリってるアイドルと、愛を叫ぶ天才シェフに挟まれながら、俺はため息をつくしかなかった。

幻惑の森での料理対決は、味以前の問題で、カオスな結果に終わったのだ。

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