19話 レトルトの進化
古代遺跡から戻った後、レイナさんは例のゴーレムコア・エナジードリンクの効果がなかなか切れず、数日間は異常なハイテンション状態が続いたらしい。
マネージャーさん曰く、「レッスンでもキレッキレの動きで、周りがついていけなかった」、「楽屋でもずっと鼻歌を歌いながらステップを踏んでいた」とのこと。
幸い大きな問題にはならなかったようだが。
もちろん、レイナさんはそのドリンクの効果とヤバさをSNSで紹介した。
さすがに「ゴーレムのコア入り」とは書けず、「古代遺跡で発見した秘伝のレシピで作った特製エナジードリンク」と、かなりマイルドな表現になっていたが、それでも一部のフォロワーの間では大きな話題となった。
『料理人S、ついに錬金術の領域へ…』
『飲んだらスーパーサイヤ人になれるらしい』
『レシピ公開はよ!』
『そのうち不老不死の薬とか作り出しそう』
このように俺は料理人ではなく、錬金術師か何かのように思われているらしい。まあ、今の状況を見るにあながち間違いではないのかもしれないが……。
俺自身は、あのドリンクの禍々しい色と飲んだ後のレイナさんの豹変ぶりを思い出し、二度と作るまいと心に誓っていた。
そんな中、グルメフロンティアからレトルト食品の試作品第二弾が段ボール箱で送られてきた。
前回俺がアドバイスした内容を反映して、改良されたものらしい。中には、「オーク肉の赤ワイン煮込み」「サンドワームソーセージ風」「レイク・キングのムニエル風」のレトルトパックがぎっしりと詰まっている。
まずは「オーク肉の赤ワイン煮込み」を温めて食べてみる。
「おお?……美味い!」
思わず声が出た。
前回感じたオーク肉の臭みは完全になくなり、肉は驚くほど柔らかく煮込まれている。ソースのコクと深みも格段に増しており、レトルトとは思えない本格的な味わいだ。俺が言った隠し味の味噌も、絶妙なバランスで効いている。
(すごい……! 俺のアドバイス、ちゃんと活かされてる……!)
なんだか、自分のアイデアが形になったようで、少し感動してしまった。他の試作品も試してみたが、どれも前回とは比べ物にならないほど美味しくなっている。
グルメフロンティアの開発力、恐るべし。
同封されていた資料には、商品パッケージのデザイン案も載っていた。「料理人S監修!」というキャッチコピーと共に、黒いシルエットのイラストが描かれている。……のだが、そのシルエットが、どう見ても俺ではない。
すらりとした長身、引き締まった体、そしてなぜか風になびくロングコート……。完全に、どこかのファンタジー世界のイケメン剣士である。
(……誰だよ、これ)
まあ、俺の貧相なサラリーマン体型がパッケージになるよりは、百万倍マシだろう。
俺は、自分のイメージが勝手に美化されていくのを諦めて受け入れることにした。
レイナさんからもメッセージが届いた。
『試作品、食べました! めちゃくちゃ美味しくなっててびっくりです! さすが佐藤さんですね!』
なんていう喜びのメッセージが届いた。
どうやら、レトルト食品の開発は順調に進んでいるようでなによりだが、同時にとても面倒な事態になりかけている心配もあるわけで。