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14話 ヌシゲットだぜ!

週末、俺たちは清流の湖畔ダンジョンの入り口にいた。ゲートをくぐれば、ひんやりとした湿気と水の音、そして豊かな緑の匂いが鼻をくすぐる。


砂漠とは対照的に生命力に満ち溢れた空間だ。目の前には、透き通った水を湛える広大な湖が広がっている。


「わぁー! 空気が美味しい! 水も綺麗! 最高ですね!」


レイナさんは、湖畔用の軽装できていた。

動きやすそうなショートパンツ姿だ。パーカーも相変わらず羽織っており、深呼吸して気持ちよさそうにしている。


砂漠よりはこちらの方が断然過ごしやすい。


「水辺は気持ちいいですね。でも、油断は禁物ですよ。水辺には厄介なモンスターが多いですから」


俺が知ったような口を利くと、レイナさんは「はいっ!」と元気よく返事をした。


湖畔に沿って歩き始める。水辺には、人の背丈ほどもある巨大なカエル「メガフロッグ」や、鋭い爪を持つ半魚人「リザードマン・アクア」などが姿を現した。


「ゲコゲコ!」


「シャーーッ!」


メガフロッグの長い舌攻撃やリザードマンの水中からの奇襲に、俺は翻弄される。

特に水辺で足を滑らせて湖に落ちそうになった時は、本気で死を覚悟した。


「うわっ! 危ない!」


間一髪、レイナさんが俺の腕を掴んで引き上げてくれたから助かったが。


「大丈夫ですか、佐藤さん? 気をつけてくださいね」


「す、すみません……ありがとうございます……」


情けない。Bランクダンジョンでは、俺はモンスター以前に地形にすら苦戦するようだ。


一方のレイナさんは、水中から襲い来るリザードマンをまるで踊るようにいなし、短剣で的確に仕留めていく。

水辺での動きも、陸上と変わらず、いや、むしろ水を得た魚のように、さらに俊敏になっている気がする。


(本当に、この子の適応能力はどうなってるんだ……)


しばらく進むと、湖の中でもひときわ水深が深そうな開けた場所に出た。

水面が、妙に静まり返っている。


「……気配がしますね。大きいです」


レイナさんが、湖面を睨みながら呟いた。


俺もゴクリと喉を鳴らす。


次の瞬間、静かだった水面が突如として大きく波立ち、巨大な影が水中から姿を現した。


バッシャーーーーン!!!


水しぶきと共に現れたのは、全長10メートルはあろう巨大な魚型のモンスターだった。

鱗は鎧のように硬そうで、鋭い牙が並ぶ顎は、小型ボートくらいなら一飲みにできそうだ。


そう、あれが湖のヌシ「レイク・キング」だ。


「グルルルル……!」


レイク・キングは、威嚇するように低い唸り声を上げ、巨大なヒレで水面を叩きつけた。


「ひぃぃ……!」


俺はその迫力に後ずさり。


「佐藤さんは、下がっていてください!」


レイナさんは、短剣を構え、躊躇なく湖に飛び込んだ。


「ええっ!? レイナさん!?」


ザブン!という音と共に彼女の姿は水中に消える。


(大丈夫なのか!?)


湖面下で激しい水飛沫が上がる。

巨大な魚影と小さな人影が目まぐるしく交錯しているのが見える。時折、レイナさんの短剣が閃光を放ち、レイク・キングの硬い鱗が弾く音が聞こえる。


(すごい……水中であんな動きができるなんて……!)


まるで水中バレエを見ているかのようだ。

いや、死闘のはずなのだが、レイナさんの動きはどこか優雅ですらある。


どれくらいの時間が経っただろうか。

水中の攻防は、徐々にレイナさん優勢になっていく。レイク・キングの動きが、明らかに鈍くなってきた。


そして、ついに決着の時が訪れた。

レイナさんが、水中で何か呪文のようなものを唱えると、彼女の手から放たれた光の鎖が、レイク・キングの巨体を縛り上げた。


「フィニッシュです!」


光の鎖が強く輝き、レイク・キングは抵抗する術もなく、ゆっくりと素材に変わっていった。気づけば巨大で美しい銀色に輝く魚の素材が、ぷかぷかと水面に浮かんでいたのだ。


「やりました! 佐藤さん、ヌシゲットです!」


水面から顔を出したレイナさんは、びしょ濡れになりながらも、満面の笑みでVサインを決めた。その姿は、まるで凱旋した勇者のようだ。


俺は、ただただ呆然とその光景を見つめるしかなかった。そして、目の前にある巨大な魚の素材を見てごくりと喉を鳴らす。


(こ、これを、どうやって料理しろと……?)


新たな挑戦――調理への決意を胸に、俺はレイナさんと共に巨大なヌシの素材を岸辺へと引き上げるのだった。

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