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11話 ブームの兆し

翌日の会社は、案の定「料理人S」の話題で持ちきりだった。特に、俺の隣の席の田中は、朝からずっと探るような視線を向けてくる。


「なあ、佐藤。昨日のテレビ見たけどさ……あの『S』って、やっぱりお前なんじゃないか?」


「な、何言ってんだよ! 俺なわけないだろ! あんな凄い料理、俺に作れると思うか?」


「いや、でも、あの後ろ姿とか、使ってる安物の調理器具とか、妙にお前に似てたんだよな……。それにレイナがお前のこと『佐藤さん』って呼びかけてる声、一瞬聞こえた気が……」


「気のせいだろ! 空耳だよ、空耳!」


必死にごまかす俺。田中の疑念は深まるばかりのようだが、決定的な証拠はない。

なんとか、この場は乗り切るしかない。


(危なかった……レイナさん、頼むからカメラの前では俺の名前を呼ばないでくれ……!)


昼休み、気分転換に外へ出ると街の様子が少し変わっていることに気づいた。

いくつかの飲食店の前に「当店オリジナル! ダンジョン風キノコパスタ!」「数量限定! あの料理人S風? オーク肉煮込み!」といった看板が出ているのだ。


(うわ……もう便乗商法が始まってる……)


テレビの影響力は、俺の想像以上だったらしい。「ダンジョン飯」が、ちょっとしたブームになりかけているのかもしれない。


俺が火付け役になってしまったのか……。


複雑な気分である。


そんなことを考えながら歩いていると、スマホが鳴った。もちろんレイナさんからだ。


『佐藤さん、こんにちは! テレビ、大好評だったみたいで嬉しいです! それで、さっそく次のダンジョンなんですけど……』


(……やっぱり、それか)


もはや驚きはない。

彼女の行動パターンは読めている。


『今度は【ジャイアント・ワームの砂漠】に行きませんか?』


『……砂漠?』


『はい! Eランクダンジョンなんですけど、奥地には巨大なサンドワームが生息してるらしいんです! そのサンドワームのお肉で作るソーセージが、絶品なんだとか!』


ジャイアント・ワームの砂漠。

名前からして、暑そうだ……。

Eランクなら、オークの森よりは難易度が低いのかもしれないが、砂漠という環境が厄介そうだ。


『サンドワームって……あの、巨大なミミズみたいなやつですよね? それ、食べられるんですか……?』


正直、あまり食欲をそそられない。

ミミズのソーセージ……。


『大丈夫ですって! 見た目はアレですけど、味はプリップリで濃厚な旨味があるって評判なんです! これを、佐藤さんの魔法の手で究極のソーセージにしてほしいんです!』


(また魔法の手って言ってる……)


俺は、巨大ミミズのソーセージというゲテモノに若干の抵抗を感じつつも、未知の食材への好奇心がむくむくと湧き上がってくるのを止められなかった。それにEランクなら、俺でも多少は戦力になれるかもしれない。


『……分かりました。行きましょう、砂漠へ。究極のソーセージ、作ってみせますよ』


半ばヤケクソ気味に返信すると、レイナさんからすぐに喜びのスタンプが大量に送られてきた。


こうして俺たちの次なる冒険という名の食材調達の舞台は、灼熱の砂漠に決まったのだった。

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