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アリシア・ヴァレンティア

アリシアの過去編です!

エレジアは四カ国が何度も大きな戦争を繰り広げ、長い歴史を経て現在の連合王国になっている。


人族が治め、一番領土が広く過去の大戦で最も勝利して連合王国の君主となったアルセリア王国。


月に愛され雪のように白い肌を持つ北エルフ族と、太陽の恵みに愛され小麦色の肌を持つ南ダークエルフ族が治め、連合王国に国同等の自治権を認められている南北フィルヴィア自治領。


連合王国の中で最先端の技術を生み出し続け、四カ国随一の生産力を持つドワーフ族の王と妖精族の女王が治めるノルディア山国。


圧倒的な武功によって他三国から領土を勝ち取り、大公と認められた獣人ことヴァルクラント大公家が治めるヴァルクラント公国。


これらの国々がまとまったのがエレジア連合王国である。


そうした歴史の中、ヴァレンティア公爵家はアルセリア王国の建国から存在する由緒正しい貴族だ。


従って、エレジアの第一王子アルガス・ジオ・グロリオサとヴァレンティア公爵家の長女アリシア・ヴァレンティアが幼くして婚約したことを問題視する者は誰もいなかった。


公爵家の長女として生まれ育ったアリシアは、両親から自身の役目と立場を教えられていたことから婚約を疑問視することもなければ反対もしなかった。


アリシアの性格は少々勝ち気なところはあったが、基本的に気高くて真面目で、周囲からも『このまま成長すれば次期女王に相応しいだろう』と太鼓判を押されていたほどだ。


また彼女自身、次期王女としての役目を全うするべく、厳しい後継者教育をこなし、様々なことを進んで勉強していた。


一方、第一王子アルガスの性格は『基本優秀で才能はあるが、自由奔放なきらいがある』と評され、教育を任された王弟タイグラン・ジオ・グロリオサは悩みが尽きず、周囲に将来が今から思いやられると、度々漏らしていたという。


勝ち気で気高い真面目なアリシア。


才能はあるが自由奔放なアルガス。


二人の性格は水と油のような性質であったため、婚約当初から彼等の間で小さないざこざが絶えなかった。


それでもアリシアは自らの役目を全うするべく、根気強くアルガスに諫言を続ける。


小さな衝突を何度も繰り返しながらアルガスが十才の誕生日を迎えた時、アリシアは切り出した。


『アルガス様。王子である以上、国と民の将来を第一に考えなければなりません。何事も、もう少し真面目に取り組まれてはいかがでしょうか』


アリシアの諫言に、アルガスは鼻を鳴らして肩を竦めた。


『君は優秀だけど、少々頭が固すぎるのがたまに傷だよね』


『……融通が利かない部分が私に多少あることは認めましょう。しかし、質問の答えになっておりません』


『僕は国や民のためにするべきことはやっている。だから、これ以上に何かするつもりはないよ。どうしても気になるなら、君が僕の代わりにすればいい』


『私がアルガス様の代わりですか』


『そうさ、それを父上と母上も望んでいるはずだよ。だって、僕がこんな性格だから生真面目な君が婚約者に選ばれたんだ。だから表向きは僕がやったことにして、後は君に全部任せようと思う。国と民を考えるなら、やる気の無い僕に代わって君がするのが一番国のためになるだろう』


『そ、それは……』


『言い出しっぺは君だからね。後は任せたよ』


アルガスはこの日を境に自ら行う公務は表舞台に立つ必要性があるものだけに留め、残りの事務処理的な公務は全てアリシアに押しつけるようになる。


アリシアが公務を代行していることは一部の関係者のみに知らされ、表向きは全てアルガスが行ったことにされた。


しかし、彼はアリシアに感謝をすることもなければお礼を言うこともなく、婚約者ならやって当たり前、という態度しか見せなかった。


だが、アリシアは怒ることもなく諫言を続けながら、裏方に徹する道を選んだ。


『いずれ彼もわかってくれるはずだわ。国を治める王になれば、今のように自由に振る舞うこともできなくなるもの。それまで、私が頑張ればいいのよ』


アリシアは自分にそう言い聞かせていた。


状況を知っていた両親からはとても心配されたが、彼女は大丈夫と微笑んだ。


そんな日々が数年経過して二人が十五才となった頃、アルガスとアリシアに転機が訪れる。


「……つまり、私に城内で過ごしてほしいと仰るのですか」


「あぁ、その通りだよ。アリシア」


ヴァレンティア公爵家に定期的な訪問でやってきたアルガスから出た提案に、アリシアは首を捻った。


「どうして急にそのようなことを」


「はは、急、ということでもないだろう。僕達は来年から国立エレジア学園に通うことになる。婚約者が別々に登校するというのも外聞的によくないだろう。表向き、僕達は仲睦まじい関係だからね」


アルガスは笑みを浮かべ、軽い口調で言った。


彼の言うとおり、アリシアとアルガスの関係は表向きは良好とされている。


実際のところ、二人が水と油のような性格であることは幼い頃から今に至るまで変わっていない。


それどころかアルガスの自由奔放な性格はさらに強まり、アリシアの負担は以前よりも遥かに大きくなっている。


しかし、彼女は諦めずに諫言を続ける日々を送っていた。


「なるほど、それは仰る通りですわね。ですが、よろしいのですか。私が城内に入れば、アルガス様にはもっと公務をお願いするようになりますよ」


「もちろん。承知の上さ」


「え……」


彼が二つ返事で頷いたことに、アリシアはきょとんと目を丸くした。


すると、アルガスは身を乗り出して今までに無い真剣な表情を浮かべた。


「恥ずかしながら、今まで君に全てを任せて悪かった。僕も来年からは王になるための勉強で忙しくなるだろう。その時、君の力を借りたいんだ」


「アルガス様……⁉」


アリシアは思わず口元を手で覆い、感極まって涙が頬を伝っていく。


ようやく、ようやくアルガス様が変わってくれた……彼女は、鼻を小さくすすると威儀を正した。


「畏まりました。それでは近日中に城内へ入るよういたします」


「ありがとう、アリシア。君ならそう言ってくれると思っていたよ」


こうして、アリシアは住む場所を公爵家から城へと移すことになる。


家族からは『少々急ぎ過ぎではないか』と心配もされたが、彼女は大丈夫ですと頭を振った。


『鉄は熱いうちに叩けと申します。アルガス様が一時でも変わろうとお考えになってくれたこの好機を逃すわけには参りません』


アリシアはそう答えると、生まれ育った公爵家を後にして登城したのである。


城内に入って王と王妃に挨拶を交わすと、アリシアはアルガスが用意したという部屋に案内された。


その部屋は次期王女に相応しい気品と品格に溢れつつ、ちょっとした遊び心もある素晴らしい部屋だった。


「君のため、以前から準備を進めていたんだ」


「アルガス様、ありがとうございます」


アリシアは心から喜んでいた。


彼の性格を変えようと、ずっと諫言を続けてきた。


時には冷たく、心が傷つくような言葉を返されたこともある。


だが、結果として彼は変わったのだ。


私のやってきたことは無駄じゃなかった。


「……それと、君だけに見せたい部屋があるんだ。今日の夜、会いにくるからね」


「私だけにですか」


「あぁ、そうなんだ」


アルガスは決まり悪そうに頬を掻くと、すっと耳元に顔を寄せてきた。


「ほら、君に任せていた公務の引き継ぎとか、後継者教育の件さ。人目につくのはちょっとね」


「ふふ、畏まりました。では、お待ちしております」


そしてその日の夜、アルガスは約束通りにアリシアの部屋を訪ねてきた。


「じゃあ、付いてきて。人目のつかないようひっそりいくからさ」


「承知しました」


アルガスは勝手知ったる様子で城内で人気のない道を進んでいき、時には王族しか知らされていないという抜け道までも使った。


「こんな道、通ってよろしいのでしょうか」


「構わないよ。だって、君は将来王族になるんだからね」


彼の言葉にアリシアの胸がどきりと高鳴った。


あぁ、本当にアルガス様はお変わりになったんだわ。


今まで苦労が報われ、彼に抱いていた不満が裏返って好意へと変わっていく。


それは彼女が感じたことのない、とても不思議な感覚だった。


薄暗い抜け道を歩いて城内の地下に降りていくと、ほどなく扉の前に辿り着いた。






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