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アルガス・ジオ・グロリオサ

アリシアの過去編②です!

「ここは城が出来た時に造られた部屋らしくてね。王族でも知る者は僕しかいないんだ。さぁ、入ってごらん」


「はい、それでは失礼します」


室内は少しかび臭く、灯りは小さな蝋燭だけで薄暗かった。


目を凝らして見渡してみると汚れた机、くすんだベッドが置いてある。


お世辞にも執務作業や勉強ができるような環境ではなかった。


「……アルガス様、いくら人目を避けるためとは言っても、この部屋はあんまりではありませんか」


アリシアが呆れた様子で呟くと、アルガスは彼女の背後に立った。


「いや、この部屋で十分さ。だって、ここは君を飼い殺すための部屋だからね」


「え……?」


彼女は何を言われたのか。唐突すぎて理解ができなかった。


だが、次の瞬間、アルガスはアリシアの腕を掴んで組み伏せると拘束具で両腕を縛って自由を奪う。


「きゃあ⁉」


「はは、君は意外とちょろいんだね。こうも簡単に騙されてくれるなんてさ」


「な、何を仰っておられるのですか。お遊びにしても度が過ぎています。離してください」


「遊びじゃない、僕は本気さ。君はこれから、ずっと僕の影としてここで死ぬまで働くのさ」


アリシアは戦慄した。


アルガスの目はまったく笑っておらず、狂気に満ちていたからである。


「ば、馬鹿なことを仰らないでください。私がいなくなれば明日にでも大騒ぎになりますよ」


「ご心配なく。姿を見せろ、リーリエ」


「り、リーリエ……?」


聞いたことのない名前にアリシアが顔をしかめると、部屋のどこからともなく「はいはーい」と軽い口調が聞こえてくる。


薄暗い闇の中から金色の長髪をなびかせ、黄色い目をした白い肌の少女が忽然と現れた。


「アリシア、紹介するよ。今後、君に成り代わるリーリエ・フラヴァートだ」


「わ、私に成り代わるですって。そんなことできるわけがありません」


アリシアが鋭い目付きで睨み返すと、リーリエは目を細めた。


「できますよ。ほら、こんな風に」


リーリエが手首に付けている腕輪を見せつけると、彼女を中心に軽い魔波が室内に吹き荒れる。


魔力のまばゆい光が彼女を覆い、みるみる形が変わっていく。


程なくすると、リーリエの姿は赤紫の長髪と大きく鋭い紫の瞳を持つ少女に変貌していた。


「な……⁉」


アリシアは心底驚愕した。


そこに立っていた少女は、鏡に映る自分と瓜二つの姿だったからである。


「ふふ、これすっごい高価で特別な魔道具なのよ。アルガス様が私のために用意してくれたの。ただねぇ、顔と体格は変貌できても服はできないのよ。だから、今から貴女の服をもらわないといけないわ」


「こんな、こんなこと有り得ないわ。アルガス様、一体、貴方は何を考えておられるのですか⁉」


自分と瓜二つだが、似ても似つかない邪悪な表情を浮かべるリーリエ。


アリシアは嫌悪感と恐怖で心底震え上がり、半ば助けを求めるようにアルガスを見やった。


しかし、彼は喉を鳴らして笑い始める。


「言っただろ、アリシア。優秀な君をここで飼い殺すとね。これまで同様、そして今後永久に僕の影として生きてくれ」


「そ、そんな……⁉」


アリシアが絶望に震えた瞬間、室内に彼女の頬が叩かれた音が響きわたった。


リーリエが平手打ちをしたのである。


「え……?」


「ほら、いつまでも話してないで服を脱ぎなさい」


ハッとすると、アリシアはリーリエを睨み付けた。


「ふ、ふざけないで。私は由緒正しく、気高いヴァレンティア公爵家の長女アリシア・ヴァレンティアです。誰が貴女の言うことなんて聞くものですか」


室内にアリシアの凜とした声が轟くが、リーリエは深いため息を吐いた。


「あー面倒臭い。アルガス様、この女に立場を教えてもよろしいでしょうか」


「あぁ、構わんぞ。この際、徹底的にやってやれ」


アルガスが下卑た笑みを浮かべると、リーリエはアリシアに右手を向けた。


「私、風の魔法が使えるんだよねぇ」


「風の魔法……⁉ きゃああああ⁉」


次の瞬間、アリシアは突風で壁に背中から叩きつけられ、床にうつ伏せで転がった。


「あはは、良い声で鳴くじゃないの」


「いつもああいった声で鳴いてくれれば、まだ可愛げがあったのにな」


アリシアは衝撃と痛みに咳き込みながら顔を上げ、下卑た表情を浮かべる二人を睨んだ。


「貴方達、正気の沙汰じゃありません。狂っています」


「ふふ、さすが勝ち気で気高いと有名なアリシア様ね。いつ心が折れるのか楽しみだわ」


「まぁ、時間はいくらでもあるからな。リーリエの気が済むまで存分にやってくれ」


瞳に猟奇的な色を宿すリーリエ。


どこまでも冷たく、無関心なアルガス。


アリシアは彼を信じていた自分が悲しくて、悔しくて、惨めで、涙が溢れ出てくる。


「そんなに私の事がお嫌いなら、いっそ殺してしまえばいいでしょう⁉」


彼女が叫んだ言葉に、アルガスは眉をぴくりと動かして真顔となった。


「確かに君のことは嫌いだが、アリシア・ヴァレンティアという存在には多大な利用価値があるんだよ」


アルガスは冷たく吐き捨てると、彼女の傍に立って髪を掴んで無理矢理に顔を上げさせた。


「言っておくが死のうなんて思わないことだ。そうなれば君の家族、関係者をどんな手を使ってでも殺す」


「そんなことできるわけが……」


「できるさ」


アルガスは遮るように言葉を被せた。


「僕は王子だからね。言っておくけど、僕は君が思うよりもずっと優秀で、冷静で、冷酷な男なんだよ」


アリシアは全身から血の気が引いた。


目の前にいるアルガスの表情は、彼女が知るものではなかったからだ。


彼自身の言うとおり、とてつもなく冷酷な目付きだったのである。


アルガスの本性を察した瞬間だった。


「理解してくれたようだね」


アルガスは満足そうに目を細めると「あ、そうだ」と続けた。


「いい女の条件って知っているかい?」


アリシアがきょとんとすると、アルガスは耳元に顔を寄せた。


「いい女ってのは僕のことを疑わず、素直に言うことを聞く馬鹿な女のことさ……君のようにね」


「あ、貴方という人は……⁉」


アリシアは凄むが、アルガスは鼻を鳴らして立ち上がった。


「リーリエ、回復魔法を使える者を手配しておく。後の教育は一任するよ」


「畏まりました。ありがとうございます、アルガス様」


アルガスは踵を返して部屋をあとにすると、リーリエは舌なめずりをしてアリシアの全身を見やった。


「さて、まず私のことはリーリエ様と呼びなさい。いいわね?」


「だ、誰が呼ぶものですか」


「ふふ、すぐに呼ぶようになるわよ。私、雷の魔法も使えるから」


「え……⁉」


言うが否や、リーリエはアリシアのそばにしゃがみ込んだ。


そして、リーリエの手がアリシアの肌に触れた次の瞬間、雷撃が迸った。


「きゃぁあああああああ⁉」


「あははははは。貴女、最高の音色だわ」


こうして、アリシアにとって地獄の日々が始まった。






暗い話で申し訳ない(T-T)

次話は物語上の現代に戻ります!


物語が少しでも面白い、続きが読みたいと思いましたら『ブックマーク』『評価ポイント(☆)』『温かい感想』をいただけると幸いです!

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