第6章:覚醒の始まり
クロノは、TERMINUSのコクピットに座ると、重い息をついた。再びこの機体に乗ることに不安はあったが、それ以上に戦いを終わらせる覚悟が強かった。フェーズ2の神経リンクは、再度その限界を試すことになるが、彼には他に選択肢がない。
「今回は、慎重にやる。」クロノは心の中で呟いた。その言葉に裏付けられた確固たる決意が、彼の手のひらを握りしめる。前回の戦闘で壊れかけた自分の神経系を思い出すと、軽く手が震えるのを感じたが、それでも戦わなくてはならないという責任感が勝っていた。
TERMINUSのコクピットが閉じると、彼の視界は暗転し、次に広がったのは機体内部の緑色の光を放つパネルと、無数のデータが流れるディスプレイだった。システムが稼働を開始する音が静かに響く中、クロノは少し目を閉じ、心を落ち着かせようとした。今はもう、頭の中で無駄なことを考えている暇はない。
「大尉、前方にレブナントの反応があります。」リアン少尉の冷静な声が、コクピット内に響く。
クロノは無言で頷き、レバーを引いて機体を前進させた。モニターに映し出されるレブナントの影は、前回の戦闘で見たものと同じだったが、その姿に恐れや不安を感じることはなくなっていた。むしろ、何か冷徹な感覚が湧き上がってきていた。
「こちらはH.M.E.D. X-07 VICTOR。全力で支援する。」司令部からの通信が入ると、クロノは短く返事をする。
戦闘の準備が整うと、クロノはシートに深く座り込んだ。神経リンクの準備は整っており、TERMINUSのシステムが彼の神経に直接接続されるのを感じた。今回は、フェーズ1の状態で運用を開始するが、そのうちフェーズ2を解放することになるだろう。その準備を整えておかなくてはならない。
「リアン、支援部隊は?」クロノが冷静に尋ねる。
「あと2分で到着予定です。ですが、その前にレブナントを撃退しないと、到着前にこちらが危険にさらされます。」リアンの声が焦りを帯び始める。
クロノは再び静かに頷き、手をレバーに置いた。機体の動きがスムーズに反応し、足元から微かな震動が伝わる。これまでの戦闘では、機体の反応に違和感を覚えることも多かったが、今回はその違和感が消えていた。TERMINUSとのリンクが深まり、まるで自分の体の一部のように感じられる。
「行くぞ。」クロノは小さく呟き、フェーズ1を解放した。
瞬時に、彼の脳内に無数の情報が流れ込む。レブナントの動きが鮮明に見える、しかし、今回は前回のような過負荷に苦しむことはなかった。神経リンクがなじみクロノは以前よりも格段に精緻に、そしてスムーズに機体を操作できるようになっていた。レブナントの攻撃が予測できるようになり、クロノは冷静に避け、反撃を繰り出していく。
だが、すぐにクロノはその異常に気付いた。前回の戦闘ではなかった感覚が、今の彼に襲いかかる。レブナントの動きがあまりにも遅すぎる。あれほど複雑に感じた攻撃が、今やクロノの脳内で予測可能なものとして表示されている。しかし、どうしてもその速度についていけない自分を感じる。明らかに何かがおかしい。
「大尉、後ろからの攻撃です!」リアンが警告を発する。
クロノは瞬時に反応し、TERMINUSを旋回させる。レブナントの攻撃が目の前で炸裂するが、今度はその威力が以前のものよりもさらに強力だ。あまりにも速すぎて、自分の反応が間に合わない。クロノは必死に操縦桿を握りしめ、機体の動きを調整しようとするが、手が震える。
「この動き、速すぎる…」クロノは心の中で呟きながら、再びフェーズ2を解放する準備を始める。
その瞬間、彼の脳内に強烈な痛みが走る。神経が爆発するような感覚が広がり、クロノは瞬時にその痛みを抑え込もうとするが、手遅れだった。前回の戦闘よりも遥かに強烈な精神的な圧力が襲いかかる。
「無理だ…」クロノは思わず声を漏らす。
だが、その時
「大尉!こちらの支援部隊が到着しました!追加支援が可能です!」リアンの声が届き、クロノは機体を安定させた。