第4章:実戦
クロノがTERMINUSのテストを進める中、月面基地に緊急警報が鳴り響いた。鋭いサイレン音が施設内を貫き、基地全体が一瞬にして緊張感に包まれる。
「クロノ大尉、司令部へ急行してください!」
通信オペレーターの声に促され、クロノはTERMINUSの整備をしていた手を止めた。周囲の整備員たちが慌ただしく動き回る中、リアン少尉が駆け寄ってくる。
「敵性機の接近を確認。規模は中規模部隊程度だけど、レブナントが含まれているらしいわ」
「レブナントだと…?」
クロノの眉が僅かに動く。レブナントは、高度なAIを搭載し、通常兵器では太刀打ちできないとされる敵の主力兵器だ。それが出現したという情報は、月面基地にいる誰もが危機感を抱く理由として十分だった。
「TERMINUSの初実戦になるわよ。準備はいい?」
リアンの問いに、クロノは力強く頷いた。
「試すには十分な相手だな。やるしかないだろ」
クロノは急ぎコクピットに乗り込んだ。TERMINUSの神経リンクが再び作動し、機体と自分の感覚が一体化していく。
「ターゲットエリアを確認。敵は基地の南東12クリック地点に集結しています。すでに数機の迎撃部隊が出ていますが、レブナントの前に苦戦しています」
司令部からの通信が入る。クロノはTERMINUSの武装を確認しながら答えた。
「了解だ。全力で行く」
機体が基地の格納庫を出ると、広大な月面が広がる。黒い空と灰色の大地の対比が非現実的な景観を作り出す中、クロノは戦闘エリアへと加速した。
「敵機接近まであと2分。大尉、気を付けて」
リアンの声が通信越しに響く。クロノはレーダーを確認しながら、目の前の戦場を視界に捉えた。そこには既に複数の自軍機が炎を上げ、倒れ伏している。
「やらせはしない…!」
クロノはTERMINUSの武器システムを起動し、敵機に向けて射撃を開始した。レーザーとエネルギー弾が交錯し、月面の砂塵が舞い上がる。だが、その時、異常な速さで動く影がクロノの目に飛び込んできた。
「これが…レブナントか」
機体全体が黒い装甲に覆われ、不規則な動きを見せるその敵機体は、明らかに他の敵とは一線を画していた。レブナントは一瞬で間合いを詰め、隣の味方機を引き裂く。
「化け物め…!」
クロノはTERMINUSを操作し、レブナントに向けてエネルギーブレードを展開した。自分の動きに合わせて機体も反応するが、レブナントの動きは予測不能だ。攻撃をかわされ、逆に背後を取られる。
「しまった!」
敵の攻撃がTERMINUSの装甲を掠める。その一撃だけでも重さが伝わる衝撃がクロノの体に響いた。
「大尉、フェーズ1を超えた神経リンク解放が必要です。ですが、負荷が高まるため慎重に…!」
リアンの声が警告を発するが、クロノは迷うことなく答えた。
「わかってる!だけど、ここでやられたら終わりだ!」
クロノはTERMINUSのコフィンシステムを操作し、フェーズ2の解放準備を進めた。
「フェーズ2、解放まで10秒…」
頭の中に流れ込む情報量が急激に増加し、視界が一瞬ぼやける。だが、それを耐えながらクロノはTERMINUSを操作し続けた。
「フェーズ2、解放完了!」
その瞬間、世界が一変した。敵の動きがまるでスローモーションのように見え、自分の反応速度が限界を超えて上昇するのを感じた。
「これがフェーズ2の力か…!」
クロノはTERMINUSを駆り、レブナントに突撃する。エネルギーブレードが火花を散らし、敵の装甲を切り裂く感触が伝わる。レブナントの機体が崩れ落ち、クロノは息をついた。
だが、その代償は大きかった。頭痛が徐々に強まり、視界が暗くなる。
「大尉、無理しないで!戻って!」
リアンの声が遠のく中、クロノは何とかTERMINUSを操り、戦場を離脱した。彼の意識が途切れる直前、月面に響く爆発音が耳に残った。
「まだ…戦いは終わらない…」
その言葉を最後に、クロノの意識は闇に落ちた。