第38話 甘いとき
リサを乗せてブレッドが向かったのは
宿泊先のホテルだった。
玄関の車寄せに着くと
ドアボーイが迎える。
ブレッドはキーを預けると
リサの手を握って
エレベーターに乗った。
最上階のお店が
なかなか良さそうなんだ
食べたことあった?
ううん
ホテルのお店は
私が気軽に来られる所じゃないから
エレベーターを降りると
店の広いエントランスがあった。
幅広の階段を数段降りた低い所に
フロアが広がる。
円形をしている薄暗い店内は
壁一面がガラス張りで
夜空に浮かんだシャボン玉のようだった。
案内されて窓際の席に着く。
あらかじめ予約してあるため
オーダーすることなく
食前酒から始まるコース料理が
絶妙なタイミングで運ばれてきた。
料理は多国籍料理で
ブレッドが言っていた通り
舌の超えた客たちをも
十分に満足させる味だった。
リサはといえば
口当たりのいいシャンパンを
嬉しそうに飲み続けて
微笑みながらトロンとしている。
リサ
大丈夫?
うん うん
眠いの?
あ~
「部屋で休んでいきなよ」
とか
言うつもり~?
クスッ
言ってほしいの?
ううん
言わなくていいの
でも
ひとつ訊いていい?
なに?
今夜の私 キレイ?
うん とってもキレイだよ
誰にも見せたくないくらいに
じゃあ
いつもの私は… バツ?
リサはいつでも二重丸だよ
だから
今夜みたいにとびきりキレイにすると
心配で仕方ない
ふふふ
ありがと
ブレッドの熱い眼差しも
ほろ酔いのリサは気付かない。
そろそろ 送るよ
はい お願いしま~す
テーブルでサインを済ませ
立ち上がったブレッドは
ニコニコご機嫌のリサを立たせると
薄暗い足元を案じて腰に腕をまわした。
意外に足取りはしっかりしているが
相変わらず頬が緩んでいるリサに
その笑顔はしまっておいて
と耳元で囁く。
私 笑ってた?
笑顔の大安売りみたいに
ニコニコしてるよ
あら
そう言って
無理に唇をギュッと結び
背筋をピンと伸ばした。
店を出てエレベーターに乗り込むと
リサはブレッドと並んで立ち
腕をそっと取って体を寄せた。
ブレッドは
その腕をリサの肩にまわして
そっと抱き寄せると額に口づけた。
ニコニコ顔のリサは
背伸びをして
ブレッドの頬にチュッとキスをすると
だいすき
と囁いた。
リサ
そんな顔をすると
本当に帰さないよ
ブレッドが微笑みながら言うと
ふふふ
ブレッドがすごく素敵で
つい キスしちゃったの
でも 明日も仕事だし
眠くなってきちゃったから
帰り…ます
そう言って
リサはブレッドの首に腕を絡ませ
もう1度 頬に口づけようとした。
するとエレベーターのドアが開き
ロビーに着いたことを知らせる。
タイムオーバーね
リサが微笑んで絡めた腕を離し
歩き出そうとしたとき
ブレッドがリサの腕を引き寄せ
腕に抱いて唇を奪った。
少し強引に始まった口づけは
すぐに甘くとろけるような
優しい触れ合いに変わり
リサは包み込まれたブレッドの腕の中で
時間が止まっているように感じていた。




