第18話 わかれのとき
ブレッドの両親が眠る墓地に着いた。
リサはひざまづいて花を手向ける。
まだ元気だった頃の姿を思うと
自分の両親を失ったときと
同じような寂しさがこみ上げてきた。
しばらく
無言で墓地に向き合い
刻まれた名前を指でなぞると
また来ますね
そう言って立ち上がった。
横で見守っていたブレッドが優しく
声をかける。
ありがとう
きっと二人とも喜んでるよ
私もお話できてよかった
さぁ
行こうか
ブレッドはリサの手を握り
父さん 母さん
また来ますからね
声を掛けて歩き出した。
さぁて
我が家に向かいますか
ねぇ ブレッド
うん?
私
お家に伺うのはやめておくわ
どうして?
う…ん
今日はおみやげを買って終わりにしようかな
この間 友人が欲しがっていたものを
探してみようかと思って
田舎にはない
素敵なものをあげたいの
そっかぁ
残念だけど 仕方ないね
次の機会に必ず招待するから
うん
ありがとう
そうは言ったが
次はないだろうとリサは思った。
たとえ手伝いの人がいたとしても
独身男性の家に行くべきではない。
縁談があるなら尚更だ。
自分の気持ちの赴くままに
軽率な行動をとるところだったと
リサは反省した。
ずっと黙ってるけど考え事?
ブレッドが
運転をしながらリサを気にかける。
あっ ううん
ごめんね
帰ったらまた
忙しい現実が待ってるのかと思ったら
仕事のほうに気がいっちゃって
リサはそれらしいことを言って
やり過ごそうとした。
そっかぁ
リサは仕事熱心なんだなぁ
長期の休暇も取れないくらいに忙しいの?
そうねぇ
絶対に無理ではないけど
休みの間
誰かが代わりに働くことになるでしょ
なんとなく 気が引けてね
じゃあ
いつまた会えるかわからないじゃない
もしかして
もう今年は無理とか?
たぶんね
長いお休みは年に1度くらいしか無理だわ
リサ
明日お別れしたら また離れ離れ?
たまには電話やラインで連絡をとりましょう
リサはそれで満足?
僕は嫌だ
会って 顔を見たい
会って 話がしたい
私だって同じだわ
だけど
こればかりはどうにもならないでしょ
また 会いに来るわよ
そのときは お互いに
家族が増えていたりして
ふふふ
きっと
歪んだ笑顔だろうとリサは思った。
本心とは違う言葉を並べ立てているから。
それはブレッドにではなく
自分自身に言い聞かせるための言葉だった。
車内に重い空気が漂う。
ブレッド
怒ったの?
怒ってない
ウソ
怒ってるわ
それじゃあ
聞き分けのない子供みたいじゃないか
怒ってるんじゃない
落ち込んでるんだ
クスッ
笑ったな
だって
その言い方が子供みたいなんだもん
寂しいんだ
せっかく
心を温めてくれる人に出会えたのに
また遠ざかっていくなんて
寂しくて堪らない
ブレッド
一人の寂しさを
誰よりも知っているリサは
ブレッドを抱き締めてあげたいと強く思った。