第11話 近づく時間
翌朝リサは
7時頃に目が覚めた。
厚手のカーテンが朝日を隠している。
ベッドから出てカーテンを開けると
雲ひとつない青空が
白いビル群を浮き上がらせていた。
仕事の疲れが溜まってるのかなぁ
こっちに来てから寝てばかりだわ
独り言を呟きながら
リサはバスルームで
ゆっくりお湯に漬かる。
そして
昨日の出来事を思い出していた。
思っていた以上にブレッドは素敵だったこと
悲しみの日々でとても傷付いていたこと
訳もなく親近感が湧くこと
一緒にいるととても安心すること
子供の頃に別れて以来
お互いにいろいろあったが
仕事にも就き
人並みに暮らせていることに感謝した。
まぁ
彼の場合は人並み以上の暮らしだけど
長いバスタイムが終わり
バスタオルを頭に巻きつけて
バスローブを着たリサは
クローゼットを開けた。
こんなことなら
もう少し考えて持ってくるんだったなぁ
うらめしそうに見ていたが
洋服が増える訳ではない。
ジーンズと綿シャツ
カジュアルなジャケットを取りだした。
あまりお腹が空いていないので
朝食は摂らずに身支度にとりかかる。
バスタオルをはずすと
艶やかなブロンドの髪が肩の上で弾んだ。
入念に髪を乾かすと後ろにとかしつけ
少し高いところでルーズに結ぶ。
そして
いつもの10分メイク。
バスローブを脱いで
用意していた洋服に着替えて
鏡の前に立ってみた。
はぁ
色気ないなぁ
呟いてから 顔が熱くなる。
いやいや
別にいいのよ…デートじゃないんだし
自分の姿を見ながら
しかめっ面をしたり赤くなったり
苦笑いしたり…
まるで百面相だ。
準備万端。
時計を見ると まだ20分も早いが
リサは部屋を出た。
ロビーに着くと
ふかふかのソファに座る。
周りを見ると観光客が数人いて
それぞれの国の言葉が聞こえた。
視線を感じてそちらを見ると
優しい微笑みを浮かべた
ブレッドの青い瞳を見つけた。
昨日のスーツ姿とは違い
シャツに綿パンと
ラフな雰囲気が若々しさを感じさせる。
ドキッとしたことを気付かれないように
リサは立ち上がり
微笑み返しながらブレッドに近付いた。
おはよう
ずいぶん早いんですね
おはよう
待つ覚悟で来たのに
時間前に来るとは
いつもそうなの?
えっ?
ブレッドの問いかけに戸惑いながら
リサは向かい側に座った。
彼との待ち合わせも
こんなふうに早くから待つの?
う~ん
どうかなぁ…
言葉を濁して
曖昧にブレッドの問いをやりすごす。
リサには恋人はいない。
仕事は多忙だし何より出会いがない。
患者さんウケはすこぶるいいリサだが
そのほとんどが年配者だった。
彼氏などいないことを
何となく言い出しにくくて
話題を変える。
今日の予定は?
リサは?
何かご希望はありますか?
そうねぇ
モールに行って
買い物がしたいです
その後
おいしいものを食べに行く
っていうのはどうです?
OK
じゃ そうしよう
二人同時に立ち上がると
ブレッドは自然に手を差し出す。
リサは平気なふりをして
その手を握った。
玄関前に車があり
ブレッドは助手席のドアを開けて
リサが乗り込むのを見守る。
運転席に座ると
じゃ 行くよ
ウィンクをしながらリサに微笑んで
車は走り出した。
リサは前を見ながらも
瞳には景色は映っていない。
自分の気持ちを見つめていた。
もしかして
私…
彼のこと…
幼馴染みとしての親近感だけじゃない
いつの間にか
彼に惹かれていることに気付いた。