第1話 はじまりの春
タイトルを替えました。拙い作品ですがお読みいただけることに感謝いたします。
木々が力強く息づき
緑は鮮やかに輝く。
花々は色鮮やかに咲き誇り
いちばん美しい季節が巡ってきた。
リサはそんな何気ない美しさに
時折足を止めて
胸いっぱいに息を吸い込んでみる。
今日も1日 いい日になるといいなぁ
青い空を見上げながら
足早に職場に向かった。
リサは栄養士。
今は病院に勤務している。
病状に合わせて
患者さんに食事の指導をするのが主な仕事だが
看護師の資格もあり
人当たりのよいリサは
入院患者にすすんで声をかけて
優しく接していた。
病院の職員通用口で社員証を見せ
更衣室に入ると
明るい声がリサを迎える。
おはよう リサ
素敵なブラウスね
おはよう ジェニー
これね
この間のセールで買ったのよ
リサの瞳の色に 良く似合ってる
ありがとう
ジェニーは看護師でリサと同じ年。
気の合う友達である。
看護師の経験もあるリサが
患者さんに聞いた小さな話から
治療の糸口を得たことがある。
救急の患者などで看護師が手薄のときは
リサは看護師としての仕事もこなしていた。
ジェニーは同僚としても
リサを信頼している。
明日のお休み 何か予定あり?
ジェニーがリサに聞く。
ううん
別に何もないけど
よかったら
ショッピングに付き合ってくれない?
私も明るい色のブラウスが欲しいわ
いいわよ
ランチ前に出掛けて
あちこち見て歩かない?
うん そうしよう
翌日のショッピングを約束して
着替えを済ませた二人は
それぞれの持ち場に向かった。
次の日
その日も朝から穏やかに晴れていた。
リサのキレイな青い瞳に朝の光が反射して
青空よりも透き通って見える。
仕事柄 あまり濃いメイクをしないリサは
年々メイク道具が減り
今ではベースメイクにルージュだけという
10分メイクで済ませている。
デートのときには
それなりにおしゃれをするものだが
残念ながら リサには恋人がいない。
容姿にも恵まれ 性格も良いのに
病院勤務では休みも少なく
奥手な性格も禍して
おしゃれに目覚める機会もない。
今日もいつも通りに身支度を整え
約束の時間にモールに着いた。
ジェニーはすぐにやってきて
早速二人は立ち並ぶお店を
次々に見てまわり
すぐにランチタイムになった。
レストランやカフェを吟味していると
わずかな時間差で 二人の携帯が鳴る。
ほぼ同時に通話を始めた二人は
事故の連絡に
同じように答えて通話を終えた。
病院からの緊急呼び出し。
二人の表情が引き締まり
頷き合って 駅へと歩き始める。
病院に到着すると
玄関前には救急車が3台並び
ストレッチャーに乗せられた患者が
順番に運び込まれている。
それを横目で見ながら
職員通用口へ向かい
職員証を見せてロッカールームへ急いだ。
同じように呼び出しを受けた同僚が
事故について話し出す。
飛行機事故らしいわ
数十名の負傷者が搬送されてきたそうよ
今もまた運ばれてきたわ
ジェニーがその会話に混ざる。
さぁ
行きましょう
ロッカールームから数名の看護師
リサとジェニーが走り出した。
救命救急室のベッドはすべて
患者で埋め尽くされ
廊下でも
簡易ベッドやソファで
手当を受けている患者と職員で
ごった返していた。
こんな状況では
リサは看護師として動く。
患者の振り分けや検査室への付き添い
軽度の傷の手当など
できる範囲で治療にあたった。
どれくらいの時間が経過したのか
空腹を感じて初めて時間を見た。
22時半。
搬送患者は一通り診察を終え
職員たちにも
静かな時間が流れていた。
そういえば
ランチを食べてなかったなぁ
お腹をさすりながら
リサが呟く。
すぐ近くにいたジェニーが
ちょっとお腹に入れてこようよ
と リサを誘う。
そうね
まだ 帰れそうもないし
二人並んで
食堂へ向かった。
ほんの少しでも安らぎを感じていただけたらうれしいです。