前章
幽霊や妖怪って信じる?
あたしは小さい頃から、幽霊や妖怪がよく視えてたの。
大人の多くは見間違いだとか、気を引きたいための嘘だとか、色々言ってたっけ。
まぁ、あんまり気にしてなかったけど。
ただね、視えるっていうことは、相手と目が合ったりしちゃうってことで、そうすると向こうは遊び相手だと認識しちゃうみたいで、よく追いかけられる羽目になっちゃって。
だいたいは遊んでほしいだけだから、小さいあたしでも捕まることはなかった。向こうも捕まえずに追いかけるほうが楽しいみたいだったし。
けど、あの日は、違った。
いつも視るような幽霊や妖怪じゃなくて、今まで視たことのない、どろどろとした空気を背負った不気味な印象の幽霊や妖怪たち。
彼らはあたしを見つけると一斉に襲いかかってきて、あたしは初めて怖いって思った。
一生懸命走っても小さいあたしの走れる距離なんて決まってる。すぐ息も上がっちゃって、転んで、起き上がれば、もう不気味な幽霊や妖怪に囲まれていた。
絶体絶命ってこういうことを言うんだって、何だかマンガみたいだなって、襲われそうになってるのにあたしはそんなことを思ってて。
「祓」
大きな口に飲み込まれそうになった瞬間、小さな声が聞こえて、あたしの前から不気味な幽霊や妖怪はいなくなっていた。
代わりにそこに立っていたのは、黒髪の男の子。
「おまえ、バカか」
「え?」
初対面の男の子にかけられた言葉にきょとんとしていたら、溜息を吐かれて「視えてんなら、対策ぐらいしとけよ」って怒られた。
「だって、だれも、しんじてくれないもん」
「は?」
「ゆうれいとかようかいとか、いないんだって」
男の子は偉そうな口ぶりで話しかけてきたけど、あたしはそれよりも信じてくれるなんて思ってなくて、泣きそうになりながら男の子に答えた。
「おとうさんもおかあさんも、うそつかないのっていうもん」
でも、ちょっと泣いちゃったのは内緒。子供だから仕方なかった。
「そうか」
座り込んでるあたしに近づいてきた男の子は、自分の首から長い紐を取って、あたしにかける。
「じゃあ、これからも内緒にしとけ。このお守りやるからさ」
「いいの?」
「お守りがあれば、嘘つきって言われないからな」
そう言って、優しく頭を撫でてくれた。
それが引っ越してきたばかりのダーリンとの出会いで、それ以後あたしはずっとダーリンを追いかけているのだ。