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ミチシルベの魔法  作者: 咲桜炸朔
第一章 争奪戦参加者
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少女の魔法

「ごちそうさま。ありがとう奢ってくれて……それにしても、お腹が苦しい……」


 食べるのに夢中になったロザンナは自分の胃の許容量をかなり超えていた。彼女はさっきよりも少し膨れたお腹をさすった。

 エラフィールがそんなロザンナを心配そうに見つめる。


「ロザンナ、大丈夫? 動けそう?」


「大丈夫、直ぐに良くなる…………それじゃあ早速、依頼に行きましょう!!」


 立ち上がって、両手を組み、息を吐きながら、手のひらを上に向けて上に伸ばした。エラフィールは立ち上がるのと同時にお財布からお金を取り出し、テーブルの上に置いた。貴族だったロザンナは知らなかったが、外食したときは食べた料理の金額にプラスしてチップをテーブルに置いていくのが常識らしい。

 

 立ったときロザンナの視界に、ちらりとエラフィールの剣が映った。エラフィールがの剣は自分の剣よりも不思議な形をしていた。剣を納める鞘に反りがあり、ロザンナの剣よりも薄くて細い。


「エラフィールの剣、珍しい形してるのね」


 エラフィールは腰に手を当てて胸を張った。隠しようもない得意満面でロザンナに自分の剣を自慢した。


「でしょでしょ! この剣はね、私が特注で作ってもらった物なのよ! 三日月みたいでカッコいいでしょ?」


「うん、カッコいい。それじゃ私は、依頼の受付をしてくるから」


「じゃあ私は、明日のために買い出しに行ってくるわ」


「え? 一緒に来ないの?」


 困惑する表情を浮かべたロザンナ。

 実戦でも戦えることを証明するために依頼を行おうとしたが、エラフィールが見てないんじゃ意味がない。

 エラフィールの顔に微笑が滲んでいた。人を馬鹿にするような目つきだ。


「もしかして、一人だと怖いの? お姉さんがついて行ってあげようか?」


 ロザンナはムッとした顔をして、足早にギルドの受付まで向かった。

 怖くなんかない。アトロキラプトルくらい一人で倒せる。何より、エラフィールに小馬鹿にされたのが悔しいとロザンナは心の内で思った。


「もう行くから」


「はいはい、頑張って」


◇◆◇◆


 アトロキラプトルが大量発生している草原までやってきた。一目見ただけじゃ数え切れないくらいアトロキラプトルがいる。数は優に二桁を超えている。大きさは様々でロザンナより小さな個体もいれば、人間なんて丸呑みできてしまいそう大きさの個体もいる。


 ロザンナは聖剣フレイ・ギヴンを鞘から抜いた。本物の剣を持つのは初めてだ。学院ではいつも木の剣だったから重さが違う。その場で何回か素振りをした。こっちの本物の方が重く、スイングが遅く感じる。


「うん、結構慣れてきた。そろそろ行きましょう」


 アトロキラプトルは足の人差し指にあるカギ爪で獲物を攻撃する。獲物よりも高くジャンプし、落下と共に上から振り下ろされたカギ爪は岩を易々と砕いてしまう。人間よりも足が速く、優れた視力を持っている。


「大丈夫、学院でそこそこ強かった私なら、きっと倒せるはず」


 手のひらの上に拳くらいの大きさの氷を作り出した。ロザンナの魔法は氷を作り出したり、それを操ったりすることができる。もっと具体的に言えば、触れた物を凍らせたり、氷で武器を作ったりすることもできる。


 魔法で作り出した氷をアトロキラプトルにロザンナは全力で投げた。怒ったアトロキラプトルは牙とカギ爪を剥き出しにして地面を抉るように走り出した。一歩が人間の何倍も大きく、速い。


「グギャァァァン!!!!」


 咆哮に怯えた動物たちが逃げるようにその場から離れた。


 彼女は両手で剣を握り締め、膝と剣先が地面に着くほど低い態勢で構えた。相手の脇腹から肩にかけて、右下から左上に一直線に切り上げる技でロザンナが一番得意とする技。


「間合いに入った瞬間に、切り上げる」


 ロザンナの足元の草木が徐々に凍りつく。雫を垂らした水面のように、波紋状に凍結が進行していく。ロザンナの吐く息が白くなり、周囲に冷気が立ち込める。凍りついた地面は美しい白銀の世界が形成されている。


「あと、もう少し」


 ただ無鉄砲に獲物を追って走ってくるアトロキラプトルはロザンナが広げた凍結の世界に躊躇なく足を踏み入れた。刹那、アトロキラプトルの脚は氷塊に包み込まれた。


 脚が動かなくなったアトロキラプトルは、その場で身体をもがき続けた。自前のカギ爪で脚の氷を打ち払う、しかし氷は何度も何度も脚にまとわりつくように再生する。手を伸ばそうにも、ロザンナは手が届かない位置で立っている。


 攻撃できなくなったアトロキラプトルの隙を、ロザンナは見逃さなかった。右足で地面を蹴り、左足で強く踏み込むのと同時に両手持ちの剣で力一杯、アトロキラプトルの胴体を切り上げた。


「オオリャャァァ!!!!」


 力を加えると、表皮、筋肉に刃がめり込んでいく。内臓を切り、毛細血管、神経を割く。


 今まで味わったことない、生物を切るという感覚。けれどそこに戸惑いはなく、彼女はただひたすらに切り裂いた。


 大量の血を噴き出しながらアトロキラプトルが倒れる。浅い呼吸の後アトロキラプトルは絶命した。


「まずは一体目か、先は長そうね」

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[良い点] キャラクターの動きを細かく描写している点 作りこまれた世界観 導入の大きな伏線 今後の展開が楽しみになる作品です。 [気になる点] 1話を読んだときにツムギの兄が主人公だと思ったのですが、…
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