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ミチシルベの魔法  作者: 咲桜炸朔
第一章 争奪戦参加者
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暗い光

 席に着いたとき、ロザンナは少し焦っていた。

 依頼の参加と聞いたときは「魔獣討伐」とか「薬草採集」的なやつだと思っていたが、まさかの「争奪戦」だった。人数に規定のある依頼ってことは、かなり危険性の高いものに違いない。


 ロザンナは不安な気持ちでエラフィールの顔を見た。彼女はそんなロザンナの気持ちを察してか、優しい笑顔で話し始めた。


「ニ年前に突如現れた『ラバル島』って聞いたことあるでしょ?」


「うん、聞いたことある」


 その島は何の前触れもなく突然現れた。巨大な地震と激しい津波が各地を襲い甚大な被害を出しながら現れた。人々は「神の住む島」と畏怖し、誰もその島に近づかなかった。けれど、去年に一度だけ、島の調査団が派遣された。それが最初で最後の島の調査だ。


 島にはこっちには存在しない植物や動物たちが生息していたとのこと。しかし、島の全域を調査した訳ではなく、その全貌は未だ解明されないままだ。


「島でミスリルという魔石が見つかったらしいの。その島にしかない貴重な石で、人の願いを叶えてしまうほど強い魔子が含まれているそうよ」


「人の願いを……」


 さっき注文を受けた短髪で赤毛のウェイトレスがお盆に注文した料理を乗せて運んできた。一品ずつ丁寧にテーブルに置き、厨房の方に戻っていく。


「ごゆっくりどうぞ」


 エラフィールは受け取ったコーヒーに砂糖とミルクをドバドバと入れてから一口飲んだ。

 まだ苦かったのか、さらに砂糖とミルクを追加した。


 「ホッ」と落ち着いたため息をエラフィールが吐く。

 ロザンナが会話の切り口を切り出す。


「じゃあエラフィール? 今回の争奪戦はそのミスリルを取ってくるってことなの?」


「そういうことね。あと優勝者は金貨2000枚が貰えるらしいのと……」


 ガタンッと食器どうしのぶつかる音が店内に響く。


「金貨2000枚!? それ本当!?」


 ロザンナはテーブルを勢いよく叩き、身体をエラフィールの方まで乗り出していた。彼女は興味津々にグイッとエラフィールの近くまで顔を寄せた。


「落ち着きなさいロザンナ、周りから見られている」


 ロザンナがギルドの酒場で食事をしていた人々の注目を集めてしまっていた。彼女は恥ずかしさが込み上げ、赤面になりながら席に座り直した。


 金貨2000枚なんてあったら孫の代まで楽して暮らせるくらいの大金だ。興奮しないわけがない。


「ご、ごめんなさい」


「まぁ二千枚なんて聞いたらそうなるよね。話を戻すと、今回の争奪戦は死んだら自己責任、他参加者への妨害あり、一年以内に帰らなかったら失格となる。明日の正午に港から島行きの船が出発する予定」


 エラフィールはフォークを持ちながら手を伸ばし、ロザンナのクロコダイルのテール焼きを一切れ、口に放り込んだ。それを飲み込むと、お冷やを飲んで口周りを紙で拭いた。


「ロザンナ、貴方がいなかったら私は参加できていなかった。だから感謝している。だけど貴方が参加したくないなら明日、港には絶対に来ないで、私一人で十分」


 このときのエラフィールの顔は本気だった。

何かに取りつかれたように、死を決意した獣のような勇敢な顔だった。


 ロザンナは考えた。


 人の願いを叶えられる魔石ミスリル。もしその話が本当ならこの先、逃げ続ける必要がなくなるかもしれない。逃げ続ける羽目になった原因の魔力災害をなかったことにできるかもしれない。そうしたら誰も()()を悪く思わない。


 それに、今逃げるならどこか遠い島の方がやりやすいかもしれない……


 俯いた顔を前に向け、エラフィールの目を見た。


「エラフィール、私、争奪戦に参加するわ。争奪戦に参加して自分の願いを叶える」


 本当は怖い。決心した心の奥底では、まだ恐怖が渦巻いている。いつ増幅するか分からない恐怖。それでも立ち向かうと決めた、もう逃げないと心に誓った。


「明日の正午、私も港に向かう」


 エラフィールはテーブルに肩肘を乗せて頬杖をついた。その顔はさっきまでと違い、少し笑っていた。


「面白い、いいわよ。だけど、足手纏いになるようなら争奪戦中でも貴方を見捨てるわ。それでもいいなら、付いてきなさい」


「足手纏いになるくらい落ちこぼれてない」


 ロザンナはこう見えて貴族学院で毎回成績上位を維持し続けてきた。本物の魔物との戦闘や、自分の魔法を人に向かって全力で放ったことはないが、ある程度の戦い方くらいなら知ってる。


「随分と自信があるようね。貴方実戦の経験は?」


「ない」


「え?」


「ないわよ。私、先日まで学院に通ってたもの」


 エラフィールは気まずさを誤魔化すように笑った。やっぱり実戦経験がないのはダメみたいだ。何か私の強さを証明できるものを用意しよう。


「……これだ!!」


 ポケットにしまっていた依頼書を開きながらエラフィールに見せた。


「今からこの依頼を私一人で達成するから、これで私の本気を確かめればいいわ!!」


「ええ、それなら納得ね。なら早く食べていきましょう。ご飯冷めちゃうわよ」


 エミが親子丼を一口食べた。文句なしに美味しかった。時間があるときならもっとちゃんと味わいながら食べたいと思ったが、今は時間があまりないので急いで食べた。それにしても美味しい。恥ずかしいくらい食べるのが止まらない。

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