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ミチシルベの魔法  作者: 咲桜炸朔
第一章 争奪戦参加者
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エミと新しい出会い

 フランカと別れてから一夜が経った。昨晩のうちに町から出て森を超え、隣町まで逃げることができた。追手にはまだ見つかっていない。フランカが渡してくれた仮面とローブのおかげだ。


「次、会ったときにちゃんとお礼を言いましょう」


 隣町まで逃げることはできたが、今後の方針がまだ何も決まっていない。幸いにもフランカから受け取ったローブのポケットの中にそれなりの金銭が入っている。エミが路頭に迷わないようにフランカが予め入れておいた金銭だ。


「とりあえず明日までなら大丈夫そうね。問題はそれから、明日が過ぎたら自分で稼がないといけない」


 正体がバレないかつ、なるべく一回で多く稼げるようにしないと何かあったとき直ぐに隣国に逃げられない。


 けれど、たった一回で多く稼げる仕事なんてそうそう見つからない。命が懸かる魔獣討伐とか野党退治なら沢山稼げるが、本当に危険なものばかりだ。命は落とさなくても致命傷を負う危険性がある。


 それだったら今日から毎日コツコツと小さな仕事をして稼いでおいた方が安心できる。そんな直ぐにバレることはないだろうからコツコツと貯める余裕くらいあるはず。


「それじゃあ今日の分のお仕事を探すとしよう」


 エミはギルドに向かった。

 ギルドとは町に必ず一つはある国が運営している役所のことだ。個人、団体、国などが依頼として発行した仕事を所謂、冒険者と呼ばれる職業の人たちがこなす準備をする場所だ。ギルドの中には酒場もあり、食事をすることもできる。


 彼女がギルドに到着してから、依頼が沢山貼られている掲示板をじっくりと眺めた。依頼が貼られた掲示板は五面あり、端から見ていくことにした。


「何か良いやつないか……な?」


 一枚だけ他のよりも目立つくらいの大きさ。

 エミの手配書が貼られていた。多額の懸賞金がかけられ、罪状は魔力災害発生の主犯にされていた。「世界を不幸にする魔女・生死は問わない、必ず見つけ出せ」の一文も書かれている。


 エミは胸に抱えた悲しみを隠すことができず、その眼差しには哀しみが滲んでいる。狙われているのは自分の命なのに、自分じゃあどうしようもない……


 今だって、フランカは自分の為に戦ってくれているのにエミは、ただ逃げ続けてるだけだ。


「私だって戦えるのに……」


 心の声がボソッと零れ落ちる。けれどエミの声はギルドのガヤガヤした雰囲気にすぐに飲み込まれた。


「いいの見つけた」


 見つけた依頼は近くの草原に大量発生した「タユラプトルを最低五体討伐しろ」というだった。


 掲示板から依頼の紙を取ってギルドの受付まで依頼を届けに向かった。初めての依頼、エミは少しだけ緊張していた。しかし、それと同じようにワクワクもしていた。


「すみません、この依頼を受けたいのですが……」


 エミが、依頼の紙を提出しようとする。

 そんなとき、彼女の隣で依頼の受付をしている人が、急に膝から崩れ落ちた。受付の台に顔を突っ伏し、ギルドの職員さんを困らせていた。


「どうして……どうして私がこの依頼受けられないの……?」


 その女性は、まるで悲劇のヒロインの如く、シクシクと悲しさを表現している。

 この人も、エミのように一攫千金を狙って依頼を受けようとしたが、それが条件付きの依頼だったというパターンなのだろう。

 

「別にいいじゃない、これくらいの条件なら無視したって」


 担当しているギルドの職員さんは、彼女を慰めるように背中をさすっている。


「大変申し訳ありません。こちらの依頼は最低二人以上でなくては、参加が認められていないんです……」


「それなら大丈夫でしょ? だって私だもの」


 女性は職員の肩を掴み、ゆっくりと立ち上がる姿勢を取る。その立ち姿は自信溢れる様であり、慢心とは少し違った余裕がある。

 きっと本当に只者ではない、強者なのだろう。


「で、ですが、参加人数に規定がある以上、参加することを認めることはできません」


 職員の肩から手を離し、ハァッと言うため息と共に彼女自信の肩の力を抜く。諦めがついたのか、彼女は深く息を吸い込んだ。


「ええ、もう分かったわ」


 そう言いながら、キョロキョロと周りを見始める。

 その仕草はどこか、フランカのように感じた。ほんの一瞬の動作にすぎないけれど、どこかフランカのようだった。


 エミは思わず彼女のことをじっと見てしまう。

 腰まで届く長い紺碧色の髪は湖のよう。整った輪郭をしていて、肌は透き通っている。切れ長の眼は優しさと幼い感じが共存している。


 身長は百七十センチくらいで、水色と白を基調としたセーラー服の上に、青いロングコートを羽織っている。


 エミは彼女に、いつの間にか心惹かれていたのかもしれない。それほど細かく彼女のことを見てしまっていた。

 そんなエミの視線に気が付いたのか、彼女のことをじっと見る。エミの全身を探るように見ると、数歩ずつ近づいて、彼女の肩に手を乗せた。


 そのままエミは彼女のされるがままに、とある所まで連れてこられた。

 そして、自分が受付をしていた所まで来ると、さっきと同じ職員にエミを差し出した。


「この子も参加するなら、いいでしょ?」


「……え?」


 急に差し出され、困惑しているエミの表情に不信感を感じながらも、ギルドの職員は食い気味に頷いた。


「ま、まぁ、それでしたら、ご参加できます」


 エミは崖の上で空足を踏むように焦る。身体中の水分が全て冷や汗として流れていく感覚さえもあった。


「結構強引な人ですね」


「そう?」


「いや、別に」


 職員は机の引き出しから依頼に参加するための資料を取り出した。


「まずこちらの紙にサインをお願いします」


 (でもやっぱり、この人の依頼は受けられない。ここでちゃんと断らないと)


「あ、あの私……」


 彼女は断ろうとするエミの後ろから肩をポンっと叩き、とても小さな声で耳打ちをした。その声は焦っているように感じる声だった。


「今だけは話を合わせてくれない?」


「は、はい」


 彼女の言葉に促されるようにペンを持つ。

 名前を書こうとしたとき、ふと思い止まった。


(さすがにエミ・ローレンとは書けないから何か別の名前にしよ)

 

 エミは幼い頃に読んだ絵本に出てくる登場人物と同じ名前を書いた。絵本の中のその人は主人公ではなく、ただのパン屋の娘だった。でも、なぜかその絵本で一番、自分と重なるような女の子。


 ギルド職員がエミの名前を確認する。


「ロザンナ・フラン様ですね。後ろの方もサインお願いします」 


 ロザンナの後ろの彼女は筆を受け取り、サラッと名前を記入した。細い指先だったけれど、手の中は皮が捲れた後があったり、マメが何度も潰れたような後がある。

 

「それではお預かりしますね。エラフィール・セレーネ様ですね。これで、お二人の依頼参加を認めます」


 受付が終わると直ぐに、エラフィールがロザンナの手を引き、ギルドの酒場の方まで連れて行った。タユラプトル討伐の依頼書を持っていたが四つ折りにしてポケットにしまった。


 酒場の席に着くとエラフィールは顔の前で手を合わせ、頭を下げた。


「ごめんなさい! あなたを勝手に巻き込んでしまって! これ私からのお詫びとして、好きな料理いくらでも頼んでいいから!」


 エラフィールは、お詫びの言葉と同時に酒場のメニュー表を差し出す。時間は丁度お昼頃、大体の人が腹を空かせている時間だ。

 メニューを見たロザンナは、ゴクリと喉を鳴らす。


(確かに昨日逃げてから、何も食べていない。今すっごくお腹が空いている。ここは言葉に甘えて色々頼んじゃお)



「じゃあ、私はクロコダイルのテール焼きとチキントリスの親子丼とベジタブルスープを頼みます」


 テーブルを挟んで向かい側にいるエラフィールが、若干引き攣った顔をしている。ロザンナからメニュー表を取り上げようと、渋々手を伸ばしている。


(ちょっと頼み過ぎたかな?)


「あ、あなた結構食べるのね……まあいいわ、迷惑をかけたのは私だし」


 エラフィールが、手を挙げて「すみません」と一言大きめの声でウェイトレスを呼ぶ。


「大変お待たせしました。ご注文をどうぞ」


 愛想が良さそうな短髪で赤毛のウェイトレストレスのお姉さんが注文を聞きにきた。注文を聞きながら、丁寧にお水を、お盆からテーブルに置く。

 エラフィールは注文をお姉さんに伝えた。


「クロコダイルのテール焼き一つと、チキントリスの親子丼一つとベジタブルスープ一つ下さい。あとコーヒーも一つお願いします」


「砂糖とミルクはどうなさいますか?」


「ミルク多めでお願い」


 ウェイトレスのお姉さんはにっこりと笑顔のままお辞儀をして戻っていった。エミはずっと気になっていたことをエラフィールに聞いた。


「さっき、参加申請した依頼って?」


 エラフィールは意識を取り戻すようにハッとした表情でこっちを向いた。


「あれは『ミスリル争奪戦』参加の申請だったの」


「そうなんだ。『ミスリル争奪戦』って何?」

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