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十五話 共謀②

 そうしてなんとかクルトを(なだ)めた私たちは、近くの庭園に場所を移した。

 作戦会議を行おうと私が提案したの。

 このままの形は、確実にどこかで破綻する。アラタの実力はともかく、精神的にだって無理がありすぎるって。なにより――。

「花形を目指す必要はないわ」

 確かに掛け金は跳ね上がるでしょうけれど、残り七戦を無敗で駆け上がるのは失策よ。

「今、アラタが対戦相手を選べるのは、貴方がまだ新人(ルーキー)として扱われているから。 師範級(パルス・プリムス)になれば、その自由も効かなくなるのよ?」

 魔獣戦は、その魔獣が確保されていることが大前提にあるものの、希望者が少ないことも関係して、対戦相手を選べることが多い。

 犯罪者等の処刑として始まった演目だし、人相手と違って手加減がない戦いだから、特別に配慮されているの。

 師範級になれば、そんな優遇も必要無いと判断されるでしょう。

 師範級の頂点である花形への道は、想像以上に厳しいものになるというのが、私の見解。

「それに加えて、師範級には元老院議員(セナート)から要望(リクエスト)が入るようになるのを知っている?」

「要望?」

「人気の出た剣闘士にはよくあることなのよ。報酬が跳ね上がるのも、それが関係しているわ」

 (おおやけ)には伏せられていることなの……。

 元老院議員の中でも、貴族(パトリキ)階級の特権となっていること。だからきっとクルトも知らないわよね。

 この城塞都市(ムルス)を建都したのも、これだけ大規模な闘技場を造ったのも貴族。当時のセクスティリウス家も莫大な寄進をしていた記録が残っているわ。

 当然そこには色々な思惑、(しがらみ)、駆け引きが潜ませてある。剣闘試合への要望も、そのひとつ。

 私のお父様は……それを接待にも利用しているの。

「要望……」

「だから、師範級に上がること自体を私は勧めたくない。そうしなくても、元金を確保すれば充分資金は増やせるもの」

 そう言うと、アラタは嫌そうな顔をしたわ。

 私たちにお金を借りて、それを元手にすることになるって思っているのよね?

 確かにそれも手段の一つとして利用したいけれど、それだけではないわ。

「貴方だけに賭けるから時間が掛かるのよ。他の剣闘士にだって賭けたらいい。それは私が引き受けるわ」

 そう言うと、二人はキョトンとした表情に。

 あら? 私何か、おかしなことを言ったかしら。

「……いや、それは駄目だろ。賭けってのは博打だぞ?」

「勿論知っているわよ。この三人の中でなら、私が一番闘技場に足を運んでいると思うけれど……」

「それはそうなんだけどね……。博打というのは、勝ち負けがあるだろう?」

「そうね。でも私の立場なら、やれば八割弱くらいの勝ちを押さえられると思う」

 そう言うと、二人はあんぐりと口を開いてしまったわ。

 そして、お互い顔を見合わせたかと思うと……。

「い、いやいやいやいや! そんなわけねぇだろ、馬鹿かお前!」

「アラタっ、サクラに馬鹿とはなんだ! だけどサクラ……博打はかなり難しいものなんだ。そんなに簡単に勝てるなら、誰も苦労しないんだよ……」

 心外だわ。まるで私が賭け事を知らないみたいな物言いね!

「勿論心得ているわ。でも私、普段から六割くらいの勝率は維持しているもの。あまり本腰を入れていないからそれくらいだけれど……きちんと情報収集して検討すれば、七割は問題なく当てられるわ!」

 自信を持ってそう言い切ったのに、アラタったらさらに激しく首を横に振ったわ。

「いやいやいやいや、おかしいって」

「失礼ね! 私、()()()()()()()と言ったのよ?」

 純粋に賭け事に興じるのじゃないわ。事前情報を得て賭ける価値のある試合を見定められるって言っているの。

「私、お父様の接待によく同道するのよ? つまり……貴方たちよりも多くの剣闘士に接する機会があるし、情報だって入る。要望や駆け引きが挟まる試合だって、ある程度事前に分かるのよ」

 脳裏をチラリと、お父様のお顔が掠めたわ……。

 私が口にしたことをお父様が知れば、どうなるか……。

 けれどそれよりも、アラタの役に立ちたい気持ちが勝ったの。

 接待に影響しないよう注意すれば、きっと問題無い……。大丈夫。上手く、やれるはず。

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