日本艦隊初代旗艦皇國
「あんたがここの司令の石川将司さんか。俺は日本艦隊4代目旗艦の旭日だ」
「貴艦が艦隊の旗艦でありますか。私はここの守備隊の司令官であり、対馬鎮守府の副提督である石川将司で階級は中将です」
そう言うと石川中将はスッと手を伸ばし、旭日と握手をした。
旭日は心の奥底で(こやつ、結構しっかりしてるな。噂だと、酒好きと聞いていたが...)と呟く。噂では、石川中将はいつも酒浸りで気難しい提督と聞いていたのだ。
「石川中将、頼みがある」
「何です?」
「無線を貸してくれないか?」
「無線か?分かった」
「感謝する」
ニューギニア軍港に寄港した日本艦隊の旗艦である旭日は、そこの無線を借り、伊吹と通信を始める。聞くところによると、伊吹が流浪だった頃に世話をしていたという艦隊で、当時は旭日の父、皇國が旗艦であった。叔父の黒鉄、50万トン戦艦の日本と続いて旭日が4代目である。
旭日は、無線越しに伊吹と会話を始める。
「よぉ、伊吹。調子はどうだ?」
『おぉ、その声は旭日か!?元気だったかぁ?』
「あぁ。そっちも変わらないようだな」
『お前が旗艦ってことは、もう50万トンは隠居したんだな。皇國のおっちゃんは元気でやってるか?』
「親父は…、轟沈したよ…」
『何だって…?皇國が、死んだ…?』
「あぁ。そうだ」
旭日や飛鳥たちは目をそらしたり、あふれる涙を隠すように帽子を深々と被る。一度ゆっくりと旭日は無線のヘッドフォンを外す。通信機から伊吹の声が微かに聞こえる。ヘッドフォンをつけ直した旭日はトントンと机を指で優しく叩く。
『おい聞いてんのか!?返事しろ!』
「なんだよ」
『何で皇國のおっちゃんが死んだんだよ、詳しく話してくれよ!』
大きな溜息を1つついた旭日は、分った、と言って深呼吸をした。そして静かに初代旗艦であった皇國の事を話し始めた。
俺たちについて詳しく知らない司令もいるだろう。仕方ない、話してやる。
俺が起工したあとに親父と一緒にアメリカに渡ったんだ。そん時に俺は親父に公質問した。
「ねぇお父さ、アメリカってどんなとこ?」
「昔は自由の国って言われてて、資本主義社会の中心地だった」
そして顔をしかめて続けたんだ。
「でも今は、連日の爆撃で血の海だ…」
その顔はどこか寂しそうな顔だったのを今でも覚えている。瞳は涙で滲んで上唇をと震えていた。
アメリカに渡った時に、すでに軍港の1つを押さえててくれてた。爺とアメリカの国防総省に行って、軍港の1つを借りれるように手配してくれていたので簡単に補給を済ませることができた。まだ未熟だった俺に対しても温かく接してくれた。
特にあの頃から変わり者だったのはヘラクレス級戦艦のヘラクレスとポセイドンだったな。ホント、何言ってるか分からなかったし。通訳を通してじゃないと言葉も分からんかった。でもあいつらも良い奴らでな。砲術とか戦術とか、護身術も爺やヘラクレス、ポセイドンに仕込まれてここまで来たんだよ。
話を戻そう。
俺は初陣を生まれて2年後、立派な戦艦となってから氷雪艦隊を潰しに行ったんだ。まだ実戦経験がないってこともあって、敵の戦力もなくすぐに突撃しようとしたのだが、爺や親父に止められた。
「おいよせ旭日!」
「何でだよ、すぐ目の前に敵が居るんだぞ!」
「お前は実戦経験がない。遵って、むやみに突っ込むと的になるだけだぞ」
「じゃぁどうすんだよ!?」
俺は親父に少し強く当たった。その質問に親父は即答して来たんだ。
「一旦離れる。全艦180度反転。20マイル距離を置くぞ」
「分かりました」
僚艦を率いた親父は、向きを180度反転した。
俺は無理やり親父に連れられて、氷雪艦隊と距離を置く事にした。そして味方の水上偵察機から艦隊の詳細が無線で入って来た。
「なるほど、そう多くは無いな」
「そうですな」
飛鳥が黒鉄の言葉に続けた。
「俺はいつあいつ等を倒せるんだよ!?」
「まぁまぁ、落ち着きなされ若様」
「旭日、行って来い!飛鳥は旭日の援護だ。いいな!他の艦は俺と共に遠距離攻撃開始だ!」
「了解!」
俺は爺と共に近接攻撃を始める。駆逐艦と軽巡のみの艦隊だった。爺の手伝いもあり、結構早く片付けることができた。
「お見事です、若様!」
「そ、そうか?ありがとうな、爺」
「お目付け役として、主君を褒めて伸ばすのは当然のことです」
初陣を飾った俺だけでも駆逐艦を6隻、軽巡を4隻叩いた。そこまでの戦力じゃ無かったのでね。俺も簡単に倒すことができたんだよ。
その後なんやかんやあって昨年の10月、50万トン戦艦の日本ひのもとから旗艦の座を引き継いだ俺は、アメリカからフィリピンに移ることにした。
アメリカで世話になった仲間に別れを告げてフィリピンへと向かった。出航してから5時間が経った頃だった。第三支隊の土佐が「敵艦を捕捉したぜよ!」と叫ぶのが聞こえた。動揺が体中を駆け巡った。
「おかしいですね、アメリカで聞いた情報では、フィリピンまでの航路には出現しないと言っていたのに…」
「俺もそう思うぞ、錦旗」
俺は同型艦の錦旗に言ったんだ。すると、見張り員が「敵機直上、急降下ぁ!」と悲鳴に近い声で言った。上を見上げると、空は黒く染まっていた。黒烏だ。黒烏が爆装、雷装して上がっていたのだ。
「日本艦隊全艦、対空戦闘!第一から第三支隊は同時に対艦戦闘用意!急げぇ!」
聞いていた話では暗黒の艦どころか、偵察機すら来ないって聞いてたもんで完全なる奇襲だった。だが、こちらには空母と防空駆逐艦、片舷200門の砲、魚雷を積んだ日本が居るんでそう簡単には負けないと確信していたんだがな。
敵ながら天晴というくらい向こうも展開は早かった。だが、展開だったらこっちも負けて無かった。土佐はあらかじめ対空戦闘を用意するように各支隊に指示していたのだ。
「土佐、助かったぞ!」
「いや、俺のおかげじゃないぜよ、準備してくれた支隊の艦たちぜよ」
「そうだな」
俺たちは必死にフィリピンも目指して対空戦闘を行っていた。皆で400機くらいは落としたかな。だがな、等々奴さんが出て来たんだよ。そうだ、ダブルがな…。
「まさしく孤軍奮闘、四面楚歌ですな。はっはっは!」
「爺はこんな時でも呑気なもんだから、ホントに羨ましい」
「そうですかな、こういう時こそ笑っていないとやっていけませぬぞ、若様ぁ!」
そう言うと爺は親父と一緒に突撃していった。先を急ぐように。
俺は全艦に突撃を敢行するように指示を出す。有力であったあの二人を死なせる訳に行かなかったからだ。俺も突撃して、敵との小競り合いになった。
「主砲二式炸裂弾、全門射撃開始!」
俺の撃った二式炸裂弾は放物線を描いて名前は知らんが敵の重巡に吸い寄せられていった。炸裂弾はそいつに当たって炸裂。爆沈していった。
「お前が旗艦か。来い、勝負だ!」
「望むところだ!」
だが、一騎討ちをしようとしたときにそこで俺は重大なミスを犯していたことに気付いた。俺はただ1人、敵の艦隊の奥深くへ入り込んでいた。
「やべっ、単騎で敵陣に入ってくるのは流石にマズいな。後日改めて勝負…!」
「待て、逃げるなァァァ!」
そう言ってダブルは俺を追い、主砲を撃ってきたんだ。48糎砲が6発背中に当たった。背中がひどく熱くなるのを感じた。その時だった。
「旭日、大丈夫か!?」
気を失いそうになってぼんやりしていた俺が、ふと顔を見ると、親父が俺の肩を担いで氷雪艦隊から逃げていたのだ。しかし、俺が負傷しているゆえに、速力は余りでなかった。そのせいで親父も結構負傷しちまってた。
結局、命からがらフィリピンまで逃げられた俺たちだったが、親父は瀕死の重傷だった。親父は医務室のベッドで横になり、片目はつぶれて額には包帯がまかれていた。親父は俺の盾になって、自らの命を危険にさらしたのだ。
親父は俺に最後の力を振り絞ってこう言い残した。
「旭日、お前は日本艦隊の旗艦だ…。軽々しく突撃するのではない。下手に動けばお前がやられ、この艦隊は旗艦がなくなる…。そうすれば、この艦隊は崩壊する…。日本艦隊の名前の由来は知ってるか…?」
俺は首を横に振った。
「だろうな…。日が昇る本の意味だ。転じてこの場合、わずかな希望に賭け、光を照らす意味だ。お前はその艦隊の頂点なのだ。だから軽々しく動いてはならん。分かったな…。」
俺は黙って「分かった」と言って頷いた。
「それを聞いて安心した。お前にこれを預ける…」
「何だこれは?」
「38式歩兵銃を近接信管が撃てるように改造したものだ。これをお前に預ける。」
「俺の人生に悔いはない。だた…」
「ただ?」ただ、1つ心残りだったのは、お前の兄妹たちの成長を見てやれなかったことだな…。飛鳥…」
「はっ」
飛鳥が人込みを分けて敬礼をした。
「旭日たちの面倒をよく見てやれ…」
「分かりました。この身に賭けてでも」
その言葉を聞くと、親父は優しい笑みを浮かべた。その手はピクリとも動かなかった。
「まぁそういう感じで、親父はこの世を去った」
『黒鉄の方はどうなんだ?』
伊吹はなおも質問してくる。
「あの後叔父は日本艦隊を抜け、輸送船団の船団長になった。輸送艦になったんだ。だが叔父も1月23日の輸送作戦で沈んだ」
『そうか…。すまんな、そんな話させてさ』
「いや、俺もおかげでなんかスッキリしたよ」
伊吹と旭日の会話は、夜明けまで続いた。