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ニューギニア島沖ノ奇襲夜戦

 2月5日午前1時19分ニューギニア軍港近海。

「ねぇダブル。今日の早朝に攻めるってのはどう?」

 サタナキア級戦艦ダブルの同型艦()のサタナキアがダブルにそっと近づいてくる。航空機を哨戒をさせていたのか、その色白な細い腕には生物水上機白鶴(つる)が止まっていた。

「そうだな」

 コクリとダブルは静かに頷き空返事を返す。すると「何よ、その返事」とサタナキアはムッとした表情でいる。それを見てケラケラと笑いだすダブル。

「何よ!私はただ、この戦いで勝ちたいから言ったのよ!そんな空返事しないで!」

「分かった、分かったよ姉さん」

「本当?なら良いけど…」

「サタナキアは一々細かいんだよ。勝てればいいんだよ、総統が望む世界にするのが我々の仕事であるのにさ…」

「はいはい分かった!細かくなければいいんでしょ!」

 ルシファーに横槍を突かれたサタナキアは、この話を無理やり終わらせた。しばらく沈黙が続いたのだが、それはルシファーによって終わったのだった。

「なー、今攻め込まないかー?早くここを潰したくってうずうずしてんだよ」

「バカ。夜明けを待つのよ。警戒してるときに攻めてもこっちの被害が増えるだけよ」

「…」

 平然と、ルシファーに攻め込みたいという自分の気持ちを叩き殺されたダブルは、そのまま黙り込んでしまった。

 そんなルシファーたちが談笑していると、遠くから20隻近くの艦影が音を立てずに近づいてきた。

「む?誰だ。所属と艦名!名を名乗れ!」

 前衛を担っていた護衛駆逐艦が荒々しく声を上げる。停止する正体不明の艦隊の所属艦艇群をかき分けて、旗艦らしき艦は静かに前に出てきた。そして、砲の仰角をダブルたちに合わせた。

「俺は…」


   * * *


 同日の午前1時27分。ニューギニア軍港指揮官所では、

「報告!どこの艦隊か分かりませんが、現在敵艦隊と交戦中!」

「何!?出撃命令は出してないぞ、どこの()だ!?」

 石川中将は勢いよく顔を振って報告しに来た一等兵を睨む。自分の命令を無視して既に交戦した艦隊がいると思ったからだ。

「分かりません、ただ今確認中です!」

 するとすぐ後にもう1人の兵士が駆け込んできた。

「報告!敵、第四帝国海軍艦隊と交戦中の艦隊の正体が判明しました!」

「いったいどこの艦隊だ?」

日本(ひのもと)艦隊と言い、旗艦は旭日と名乗っております」

 その場が一瞬騒めいた。日本艦隊は世界の海で第四帝国海軍や氷雪艦隊にゲリラ戦を展開しているいわゆる反乱艦隊である。輸送船団を襲撃しては行方を暗ましていた艦隊であった。その為、第四帝国軍・氷雪艦隊からは《危険艦隊リスト》と呼ばれるリストの中でも最も危険な『レッドクラス』に分類されていた。そんな艦隊が突如として、ニューギニア軍港に現れたのである。拠点も規模も、詳しいことは一切不明なこの日本艦隊が現れたことは、第四帝国海軍にとって恐怖を植え付けるような出来事だった。

「この機を逃すな。艦隊出撃、沿岸砲部隊は砲撃を開始、ありったけ弾を撃ち込め!」

 その指示はすぐに沿岸砲部隊へと伝わった。

「了解。沿岸砲、全基発射!」

 トーチカに詰められた14センチの単装砲が、一斉に火を吹いて鉛弾を熱と共に飛ばして行った。


    * * *


「はっはっは!こんな雑魚しか連れてねぇのはたまげたもんだ!」

「そうだな兄者。こんな弱っちぃ敵じゃ、相手ならんな」

 日本艦隊は敵の守りが堅いはずの艦隊の中央を難なく突破し、旗艦であるダブルの元へ迫っていた。ダブルは日本艦隊を目の前にしてから、一度奥まで避難していたのだが、ここもまた、危うい状況になって来たのだ。

「ダブル様、ここはお逃げ下さい!我々で食い止めます!」

 ヴェレ級駆逐艦のヴィルベルフラメ炎型海防艦たちがダブルに背を向ける形で前に出るのだが、日本艦隊はすぐそこまで来ている。

「ば、馬鹿!お前にかなう相手じゃ無いぞ!ヴィルベル!」

「分かってますが、せめて時間が稼げれば…!」

 ダブルが制止しようとするがそれを聞かず、そう言い残して怒涛の如く進撃してくる日本艦隊へヴィルベルとフラメ型海防艦は突撃していった。

「おい、待て…」

「兄上、敵が来まして。ここは私に討たせてください」

「おう。行って来い、菊花!」

 その言葉に微笑みで返す菊花と言う彼はそのまま声を張り上げる。

「第二分艦隊は続いてください!」

 第二艦隊は突っ込んでくるヴィルベル、フラメ型海防艦と交戦を開始、その間に日本艦隊の本隊は敵の本陣へ突っ込んでいった。

 だが、相性が悪く、多勢に無勢という事も相まって炎型海防艦は砲弾を数発撃っただけで沈んでいった。

「君が時間稼ぎをしようと?」

「そうだが、何か問題でもあるのか?」

菊花の質問にヴィルベルは目をそらして答える。

「君は、君の仲間が今まで何をしていたのか分かってるのかい?」

「…」

 沈黙するに菊花は構わず続ける。

「君の仲間は、世界を相手に攻撃を開始して、降伏した国は植民地化し、男は強制労働するだの、物資は強制徴収するだの、美しい女がいれば、君の仲間に元に連れて帰る。抵抗や命令に従わない人は容赦なく死刑。こんなので良いのか!?」

「…」

 さらに菊花は続ける。それをヴィルベルは黙って聞く。攻撃をする気力も彼の声を聞くとなくなったのだ。

「人と共に戦い、勝ち戦であれば共に笑って勝利を祝い、負け戦であれば、涙を流して泣き崩れる。それが軍艦じゃないのか!?人の恨みを買うために私たちは生まれて来たのではない筈…!」

 その言葉でヴィルベルは我に返った。今まで自分のしてきたことが正しいと思っていたつい3秒前の自分をあざ笑いたくもなった。

 膝から崩れ落ちた彼は、こう綴る。

「目が覚めました。今までどんな非道を行っていたか。そして、自分がこの世に存在する意味を。どうか、どうか自分を、味方の端くれに加えさせてください!ある程度ですが、氷雪艦隊についての知識があります。それを役立たせたいと思います」

「本当か!では君には第2護衛隊の旗艦になって欲しい」

「こんな自分でもよろしいのならば」

 菊花は、どうにかヴィルベルを口説きし、仲間に加えることができたのだった。


 同時刻、日本艦隊・氷雪艦隊両本隊では、少々焦っている声が聞こえる。

「脳筋旗艦はどこだ、俺と勝負しろ!それとも俺に恐れをなして逃げたか!」

 日本艦隊の旗艦の彼は周りを見渡しながら煽りの言葉をダブルに送る。

「この野郎、俺が沈めてやる!」

 ダブルは180度反転、迫り来る日本艦隊と対決することにした。

「俺がこの艦隊の旗艦、ダブルだ!お前は誰だ!?」

「フフフ脳筋が。お前に名乗るほどの名は無い...。行くぞ!」

「何、名乗らないだと!?そんなので軍艦を名乗って良いと思っているのか!」

「関係ぇねぇだろ!お前らみたいな非常識の輩の集団なんかに名乗っても無意味だってんだ!」

 そう叫ぶと、名乗らず旗艦同士は、一騎討を始めた。互いに腕をつかみ合い、力比べのような形になった。

「力比べだったらまけねぇぞ!」

「俺こそ、ダブルなんかに、負けるかってんだ!」

 取っ組み合いになってるが、その旗艦は砲の仰角を少しずつ合わせていった。それに気付かず、取っ組み合いに夢中になっているダブル。少しずつ有利にしようと試行錯誤を続ける旗艦。そんな対照的な2人が今、面と向かって戦っているのであった。ただ、殴り合いではダブルは大口を叩くくらい、あってやり手であった。

「なるほど、結構できるようだな。やる気を起こしてくれったっつーことで、そろそろ名を名乗りますか。俺は日本艦隊4代目旗艦・旭日だ」

「旭日か。反乱艦隊を率いていたとは貴様か」

「そうだ」

 殴り合いをしながらおしゃべりが絶えないダブルにしびれを切らした旭日は大口径の48.5糎三連装砲を撃とうとするが、それに気付いたダブルが旭日を投げ飛ばし、その反動で旭日の主砲はダブルの頭上を通り過ぎ、遥か彼方へ消えていった。

「こんな小細工通用すると思ったか?」

「チェッ」

 舌打ちをする旭日を気にせずその頬を拳で思いっきり叩き付ける。怯んだ彼を追い打ちをかける様にゼロ距離で全ての艤装が火を噴く。その場で跪く旭日は、ボソボソと「まだだ。親父の仇を討つまでは...」と呟くのだが、独り言がために、ダブルには聞こえる筈もない。

「あぁ?何言ってんだ?とっとと消え失せ上がれ!」

 顔を上げてダブルを見上げた旭日の目は怒りという炎に燃えていた。

「爺、今だ!」

 天に響くが如く吠える彼は、ただただ天を仰ぐばかりであった。

「上を見つめてても味方は来ねぇぞ!」

「それはそうか?」

 旭日は不気味な笑みを浮かべる。ダブルの背後には年を取った超弩級戦艦が一隻立っていた。

「だ、誰だテメェ!?」

「ワシは超弩級戦艦飛鳥。ワシが相手だ!」

「ほざけ、ジジイ!」

「強がるのもいい加減にしろ、お主じゃワシには敵わん」

 飛鳥と名乗る敷島くらいの見た目をした老人は、鬼人も身震いするほどのオーラをまとっていた。それをダブルも感じていたのだ。

「だ、黙れ!貴様など俺がこの手で沈めてやる!」

 そう言って、歯をガチガチと震えさせるダブル。文字通りゼロ距離で2対1なので分が悪い。だが、四天王の筆頭として、ここは敵に背を向けたくないという軍艦(いくさぶね)の本能が、彼を撤退させまいと立ちはだかるのだ。

 一度距離を取り、体勢を立て直す。

「なるほど。お主も超弩級戦艦のようだな。だが、お主の様な青二才にはまだまだ負けんぞ」

 殴りかかってくるダブルを突っ立ったまま待ち受ける飛鳥。ダブルが拳を突き出した瞬間だった。彼の艤装が一斉に火を噴いた。

 ダブルは、咄嗟に右舷に移動するのだが、意図的に散弾させた老艦の砲を諸に喰らう羽目になった。

 血しぶきと燃料が空を舞う。弾薬庫、燃料に引火し誘爆しなかったのがせめてもの救いであった。

 1,2番主砲は旭日を狙い、3番主砲は飛鳥を狙う。

(ここは飛鳥に撃つか、旭日を撃つか...。ここは飛鳥に撃つと見せかけるか)

 我に返って戦法を練り直す。ダブルがいくら脳筋でも、少しは考えることはする。ただ、ワンパターンという事が欠点であった。

「1番2番砲塔、撃て!」

 旭日に吸い込まれるように、砲弾は飛んでいく。

「若様!」

 咄嗟に飛鳥は旭日の盾となる。次の瞬間、大きな爆音と共に、飛鳥が反動で少し後退する。それをただただ、旭日は見ているだけである。その瞬間だけスローモーションの様に旭日には見えた。

「じ、爺…!」

 そこまで移動せず、盾になる形で傷口を手で塞いで旭日の前にしゃがみ込んでいた。

「どうした、もう終わりか?」

 何かおかしい物を見たかのようにケラケラと笑い始めるダブル。そこへヴィッツがやって来くる。

「もう諦めろ、平和の時代は終わったのだ。ここからは戦争の時代だ。どうだ、第四帝国にはいらないか?」

「アホ。誰が入るか」

「じゃぁ、沈んでもらうしかないな」

「クソッ…」

 諦めかけている、老将は俯くだけで何もできない。死を覚悟した。

「ちょっとは楽しめると思ったのに。残念というほど残念でもないが。沈め」

 ダブルとヴィッツが砲口を向けたその時だった。至近弾がヴィッツの近くに落ちる。そちらに意識を集中させたと同時に旭日は飛鳥を連れてその場を急いで離れた。そうだ、東洋方面艦隊が到着したのだ。

「何とか間に合ったか!?」

 プリンス・オブ・ウェールズが艤装の主砲から煙を出しながら言った。

「マダ大丈夫ソウデスガ、ニューギニアノ方ガ心配デス」

「そうだなキング・ジョージ5世」

 ミズーリがすぐに空返事は返すのだが、まだ状況はつかめていなかった。目の前には見たことのない荒くれ者が集まり、氷雪艦隊にゲリラ戦を挑んでいる。それを援護しようとプリンス・オブ・ウェールズ、レパルス、キング・ジョージ5世、ミズーリ以外の艦は敵艦隊を取り囲む形で展開する。しゃがみ込む老将と彼の近くにいる2隻がプリンス・オブ・ウェールズの目に映る。

「貴方たちは誰です?」

「俺らは日本艦隊。俺は4代目旗艦の旭日だ」

「今は大丈夫だから今のうちに損傷艦の修理(手当)を!」

「モーリタニア、飛鳥の手当てを!」

yes sir(イエッサー)!」

 モーリタニアは日本語は話せないが、それをある程度理解している艦であったので、日本語でも十分通じるのだ。

 至近弾が落ち爆音が鳴り響く中、病院船のモーリタニアが飛鳥の腕に包帯を巻く。その間に出来るだけ氷雪艦隊を飛鳥とモーリタニアから離す。

「ハープーンでも撃ち込んでやれ、Fire!」

 ミズーリは退役する前まで搭載れていたハープーンをVLSから発射する。

「bury the enemy. Fire!(敵を葬り去れ。撃て!)」

 戦艦としては小口径なのだが、キング・ジョージ5世が35.6cm砲を全門斉射。それに続いてクイーン・エリザベスも38.1cm連装砲を1基ずつ放つ。

「Queen Elizabeth, are you okay!?(クイーン・エリザベス、大丈夫か!?)」

「It's okay(大丈夫よ)」

「Do you want to get an aircraft out?(一応航空機を出してもらうか?)」

「request(お願い)」

 クイーン・エリザベスとレパルスが交戦してる中、エリトリアは確認を取り、空母のマンフレート・アルブレヒト・フォン・リヒトホーフェンにJu-87スツーカを出してくれるように頼む。すぐさま発艦したスツーカ部隊はBf109部隊と協力し、巡洋艦と空母を優先的に攻撃を始める。

悪魔のサイレンは空気をこだまし、急降下爆撃体制に入ったことを知らせる。不気味なサイレンは爆弾が空気を切り裂く音と共鳴してより不気味さを増す。

 戦艦たちも順調に敵艦を葬り去っている。ニューギニア軍港からの沿岸・対艦砲の援護も相まって、思ったよりも早く敵艦隊を壊滅状態にることができた。

「なんでこんな時に…!引けぇ、引けぇ!」

「急げ、撤退だ!」

 ダブルとヴィッツは劣勢であり、なおかつ艦艇群が壊滅し始めということを悟り、サタナキアたちに撤退の指示を出す。

「ダブル、本当に撤退するの!?」

「そうだって言ってんだよ!」

「ハァ…。仕方ない、ここは逃げますか…」

 溜息を1つついてサタナキアも撤退していった。

「悪い、助かった。お前たちは?」

「私たちは、東洋方面艦隊。私はそのフラッグシップのプリンス・オブ・ウェールズです」

「東洋方面艦隊…。そうか伊吹のとこの…」

「伊吹サンヲ知ッテイルノデスカ?」

「あぁ、知ってるとも。アイツが流浪だった時の戦友だったからな」

「ソウデシタカ…」

「デュ―ク・オブ・ヨークさん、飛鳥のこと頼んだぞ」

 デューク・オブ・ヨークは「OK」と言い残して飛鳥の元へ向かって走っていく。

「なぁ、ちょっと無線を貸してくれんか?伊吹と話がしたい」

「分かりました、石川副提督からは私から言っておきます」

 日本艦隊と名乗る反乱艦隊を連れた東洋方面艦隊は補給のためにニューギニア軍港へと入港する。その時に日本艦隊も寄港、ニューギニア軍港は彼らによって一層賑やかになるのだった。


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