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東洋方面艦隊、出撃

ーーー3035年2月3日午前11時21分ーーー

 奄美大島の占領をあきらめたアルノー総統は、氷雪艦隊にニューギニア軍港を占領することを指示した。インドネシアとパプアニューギニアの2カ国の領土であるニューギニア島を日本が租借し、軍港を築いていたのがニューギニア軍港である。そこは、氷雪艦隊にとって北進するために厄介になる軍港に1つであった。奄美大島にしても、ニューギニア軍港にしても、日本に対して攻撃を行っていることに変わりは無かった。

 そして今、そのニューギニア軍港がある、ニューギニア島に怒涛の如く氷雪艦隊が迫っているのであった。

 その数艦艇50隻、航空機400機を超える大規模な侵略であった。

対する日本は陸上自衛隊は88式地対艦誘導弾(SSM-1)が12両、12式地対艦誘導弾が10両、87式自走高射機関砲3両、多連装ロケットシステム(通称MLRS)30両、16式機動戦闘車5両、10式戦車20両、89式装甲戦闘車4両。水陸機動団はAAV7(アムトラック)が10両。停泊していた海上自衛隊の艦船は、『まや』型護衛艦の『まや』、『はぐろ』、『なち』や、『あさひ』型護衛艦『しらぬい』と『しきしま』、『うらかぜ』。『むらさめ』型護衛艦の『いかづち』と『たのげい』型潜水艦の『けいげい』、『きょげい』、『こくげい』というとてもではないが、組織的な抵抗はすぐに終わってしまいそうな装備しかなかった。航空機はF-37が20機あるだけであった。


   * * *


「敵は50隻の艦艇に加え、300~400機の航空機を率いてこちらに向かって来ていると聞く。ここにいる部隊では耐えきれん。」

 ニューギニア島守備隊の隊長を務める、対馬鎮守府の副提督、石川将司(いしかわまさし)中将は指揮官所の敵の配置と島全体の縮尺図が表示されているディスプレイを見て、ディスプレイを思わず拳で叩いた。

「まだ分かりませんよ、昔の栗林中将が米軍相手に1万3000の兵で1ヶ月耐えた前例があります。そう気を落とさずに…」

 その場にいた少佐が励まそうとするが、全く効果は無かった。

「少佐の言うと通りだ!栗林忠道(くりばやしただみち)中将が硫黄島で1ヶ月耐えた様に、ゲリラ戦を展開すれば、応援が来るまで耐えられます!」

「…分かった。援軍要請をすぐに出せ!対馬鎮守府に打電しろ!総員、対艦戦闘用意!」

 警報のサイレンが軍港中に響き渡り、軍港内は慌ただしくなった。

 対艦砲の砲弾を装填し、88式地対艦誘導弾(SSM-1)、12式地対艦誘導弾を攻撃体制にし、戦闘車や戦車、装甲車を内陸部に退避させた。

「急げ、対空戦闘、いつ黒烏からすが来てもいい様にしろ!」

 対空砲隊長が周りを見渡しながら、焦りを感じる声を上げる。

 無理もない。

 対空砲員や沿岸砲員にとっては、予想もつかなかった。日本本土を目指すためにここを飛び地にして補給を絶つと考えていたからだ。

「何でここ攻めるんだよ…」

「多分ここ攻めないと目の上の瘤って考えたんだと思う」

「早く終わってくれないかな…」

「おいおい、軍人が言う事じゃ無いだろ」

「いいじゃねぇかよ、死んだら何もかも終わりだよ」

「そりゃそうだな」

 対空砲に座りながら対空砲員たちは話しをしていたのだが、各部隊の班長や隊長たちは双眼鏡から湾を覗いて警戒を怠らなかったのだった。


「そうか、瘦せ犬は遠吠えだけして帰って行ったか。はっはっは」

「そうなんだよ、あの時のダブルの顔を曾山さんに見せてやりたかったなぁ」

「そんなに面白かったのか、ダブルの顔は?」

「そうだよ、こんな顔してさ…」

「ハハハ。そりゃワシも見たかったのォ」

 提督室はニューギニア軍港の事を知らず、伊吹や曾山司令、敷島の笑い声が響いている。

「司令官、大変です!ニューギニア島のニューギニア軍港氷雪艦隊に包囲されつつあります!」

 思いっきりドア開けられた提督室で談笑していた曾山司令や伊吹、敷島の元に一報が入り、表情が一変、固くなる。

「確かニューギニア軍港は石川さんが守ってたはずじゃぁなかったかの?」

 敷島が自分の白く自分の長く整った髭を撫でながら言うと伊吹が慌てた様子で立ち上がる。

「そうだ、副提督が危ねぇ!助けないと!」

 助けなければならないことは、その場にいる誰だって分かっていた。いつか、氷雪艦隊が軍港を襲撃することは回避しようのないことも分かっていた。

 石川将司(いしかわまさし)中将は鎮守府のナンバー2で知略に長ける、軍師的な存在。いわゆる知の大黒柱である。

 武や戦線指揮の大黒柱の伊達武治(だてたけじ)中将や鎮守府に所属している軍艦が暴れて、石川中将が作戦を考える。そうしてこの『対馬支部・明光艦隊』は成り立っていたのだ。その知の大黒柱が倒れては、この鎮守府は崩壊すると曾山司令は考えた。

「よし、敷島」

「はっ」

「オリガ中将を呼んでくれ」

「オリガ中将ですか?分かりました」

 5分後、オリガ中将が提督室へやって来た。帽子を脱ぎ、片言の日本語で彼は、指示を仰いだ。

「オリガ中将は東洋方面艦隊を率いて、ニューギニア軍港へ向かって欲しい」

「ニューギニア軍港ト言ウト、石川将司サンガ守ッテマシタネ。モシカシテ、ソコガ氷雪艦隊ニ狙ワレテルノデスカ?」

「そうだ。だからアンタの東洋方面艦隊でそこの奴を潰してほしい」

「分カリマシタ」

 オリガ中将は海軍式の敬礼をして執務室を後にした。そして、東洋方面艦隊に所属している水上戦闘艦全員を広く、黒板のある一室に集めて作戦内容と、作戦艦隊を編成、その最終確認を行い、艤装保管用のドッグに向かった。

 ドッグに入渠した東洋方面艦隊の作戦艦隊は、悠長にお喋りや戦闘配食を食べながら艤装を装備していたが、その声も、少しづつトーンも低くなり、作戦についての話をするようになった。その雑音とも言える声々も、プリンス・オブ・ウェールズの「東洋方面艦隊全艦、出撃する!」の声で風の前の灯火の如く消えていった。

「プリンス・オブ・ウェールズ出ます。騎士道精神を見せてやる!」

「キング・ジョージ5世、出撃シマス!」

「レパルス抜錨!もう二度と《あの時》の様なヘマはしません!」

「っしゃぁ、ミズーリ出撃するぜぇ!」

「クリーブランド、出ます!」

 気合いに満ち溢れた声が、ドッグ内から聞こえるのを、まるで川が流れる音を聞くように曾山司令は穏やかな顔で聞いていた。

 日本以外の艦船しかいない東洋方面艦隊はプリンス・オブ・ウェールズを旗艦、オリガ・フォン・ハールトマン中将を司令官として以下73隻で編成されている艦隊。そのうちの14隻が戦艦、23隻が空母なのだ。

 出撃の儀式を終え、曾山司令や幕僚、伊吹たちに見送られた東洋方面艦隊のプリンス・オブ・ウェールズはオリガ中将を乗せて悠々と、ニューギニア軍港へ旅立っていったのだった。


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