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四天王

 3035年2月1日。ドイツ第四帝国首都、ヒルドブルク総統官邸。

 1人の男が、暖房の効いた薄暗い会議室の様な総統室でワイングラスを揺らしながら戦闘報告を退屈そうに聞いている。その場には提督や将官や佐官、『四天王』(日本の呼称は氷雪4大艦)と呼ばれる艦が集結していた。ワインを揺らす彼は自らを『真のドイツ総統』と名乗り、一方的に南極をドイツ第四帝国とし、歴代のドイツ帝国のなし得なかった世界帝国を築き上げようとしていた。その為にもまずは、資源を確保し強力な海軍を創りあげるためにも鉄鋼や石油などのあるアフリカやオーストラリアなどを攻撃・蹂躙してこれを支配せねばならなかった。

 報告を聞いた彼は顔色も表情も変えずに「そうか…。奄美大島近海は既に対馬の連中に奪還されたか…」と報告した佐官に独り言のように言った。

「はい」

 その佐官が返事をすると、彼の形相は一変した。

「バカタレが!!」

 その男は飲んでいた入っていたワイングラスをカーペットに投げつける。未だたまっていたワイングラスは床で割れ、その中に入っていたワインがカーペットに広がり、血だまりと化していた。

「で、出撃した艦隊の内戻って来たのは?」

「ダブル様とロタール・フォン・アルノー・ド・ラ・ペリエール級駆逐艦14隻、海防艦4隻、エーリヒ・トップ級駆逐艦10隻です…」

寧海(ニンハイ)平海(ピンハイ)は?」

 

「太刀風、槍風、薙風と名乗る駆逐艦3隻と交戦し、寧海様は負傷、その場を逃れようとした平海様も鹵獲…捕虜となり、2隻とも未帰還になったそうです」

「使えない奴らよ…」

 まるで捨て駒を扱うかのように冷淡に呟いた彼により、総統室は重い空気が漂う。そこへ呑気にダブルが入ってくる。

「やぁやぁ皆さんお揃いで。元気ですかぁ、アルノー総統。何もそんなにカッカする事はねぇよ」

 アルノー・ヴィルヘルム。彼こそ、全世界を相手に戦っている第四帝国軍の総司令官であり、同時にドイツ第四帝国の総統。彼はヴィルヘルム家ないし、ヒトラー家とは血縁関係がなく、全くの無縁なのだが、曽祖父がプロセイン帝国とナチスドイツの将校であり、プロセイン時代に『帝国の英雄』と呼ばれて賞賛されていたルートヴィッヒ・シュルツ・ツヴァイクであったことからそれらの思想を受け継ぎ、その2つの帝国の成し遂げられなかった世界帝国を築き上げようをしているのだった。

「おいダブル、ちゃんとノックしてからは入れ」

「ノックしましたよ?聞こえませんでしたか?」

席に向かいながらダブルがアルノー総統に煽り気味で返答する。しかし彼は、それについては何も言わなかった。

ダブルの後ろから四天王のヴィッツ、バアル、ルシファーが続いて席に座る。

「はぁ、まぁいい。寧海と平海がどうなったか分かるか?」

「はい、彼奴ら、日本国軍のお友だちになりましたよ。伊吹と並んで帰っていくの見ました」

 呆れながらダブルは

 2隻の損失は大きい。第四帝国海軍所属の人型艦艇のほとんどがヨーロッパ生まれの人型艦艇であり第四帝国内では東洋、特に中国や朝鮮半島、日本周辺の事を知る者は少ない。その数少ない貴重な情報源であった寧海と平海を失ったことは、第四帝国にとっては取り返しのつかない自体だった。

「なぜお前はそれを阻止せず、見逃した!?」

 拳を握り、震えるアルノー総統が問い詰める。すると、反抗的なダブルの言葉がその場を包む。

「俺自身、砲も機銃も10分の1がやられたのにどうアイツ等を取り返せと言うんです?」

「いいじゃないですか総統。早かれ遅かれ、あそこは取る。先に他の地点を取りましょう。そうだ、ニューギニア軍港を取りましょうよ。あそこには今、日本国軍対馬鎮守府の副提督である石川将司(いしかわまさし)が居るんですよ?もしもニューギニアを落とすことが出来れば対馬鎮守府の事は勿論、アジア情勢の情報収集、更にはインド・太平洋における資源の調達も用意になります」

 ダブルを擁護するように、またダブルの未熟さを微笑するように、彼と同じ氷雪4大艦の1人で艦隊の参謀的存在、ヴィッツ級航空母艦のヴィッツはアルノー総統の前に出てくる。

「ヴィッツの言う通りだ、アルノー総統。北進するにはニューギニア軍港がどうしても目の上の(コブ)だ。其処を早めに潰さないと厄介なことになる」

 それに続いてバアル級重巡洋艦のバアルが口を開き、即座に水を口に運ぶ。

 彼は日本は後回しにして、欧州や豪州など、近い所や海上戦力が弱体な場所から崩していく。そうすれば、世界は簡単に手中に収めることができると考えていた。

「ヴィッツ様、日本でさえ手こずっており、それにプラスアルファで反乱艦隊が我が輸送船団を襲撃しては石油などを奪って行っております。今攻撃を開始しては…」

 1人の佐官が反対するが、ヴィッツが答えようとした時、1人の准将が大声を張り上げる。

「ダメだ。今攻撃しなければいつやるのだ?」

「そうだ!我が艦隊はダブル様を筆頭に、ヴィッツ様、バアル様、ルシファー様の四天王などの精鋭艦が揃っているし、欧州戦線ではバフォメット様が指揮をとっておられるそれに新鋭艦だけで編成した艦隊の計画もある!遵って、我が艦隊が話ぶれる事は無いのだ!」

 ヴィッツに続いて後ろから上将が机を叩いて大声を上げる。そして、アルノー総統はまるで我が正しいを貫き通す人のように怒鳴り散らす。

「誰か、この臆病者をここから放り出せ!」

 1人の慎重派の佐官の主張は通らず、アルノー総統によって彼はその場から2人の兵士によって連れてかれ、南極基地につくられた地下牢に監禁された。

「俺は決めたぞ。ただちにニューギニア軍港を攻撃し、これを占領しろ!奄美大島近海での屈辱を晴らすのだ!」

 勢いよく椅子から立ち上がったアルノー総統は、近くに飾ってあった剣を手に取り、思いっきりテーブルの角を斬りつける。

「世界帝国を築き上げる時に少しでもヘマをした奴は全員こうなると思え!」

「りょ、了解しました!全て総統の為に!」

 そう言ってその場にいた将校たちは、開いた右手を左胸に添える、第四帝国式敬礼をすると、アルノー総統の気迫に呑まれたのか、速足で部屋を出て行った。

 その声は、1930年代の()()()()を思い出させるほど、力強くまた、迫力があるものだった。


    * * *


 ドイツ第四帝国は歴代のドイツ帝国、特にプロイセンを復興させるために、アルノー・ヴィルヘルムによって建国された国家である。南極に建国された故に常に雪景色が広がっているが、その寒さに負けないほど活気に溢れた国である。南極大陸、つまりは第四帝国本土の人口は250万人と少ないが、経済活動はインドやイギリスと同じくらいという、経済活動がとても活発な国である(国と言っても未承認であるが)。首都のヒルドブルクには行政機関が密集しており、大きくバナン区、サウス区、ユーラス区、グランドーラ区の4つの地区に分けられている。首都だけでも本土総人口の約半数を占める150万人が生活している。そのうち1番人口が密集しているのはバナン区で、人口は80万人である。

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