行方不明の空母
「黑川司令、つい先ほど、昨年末に敵の鹵獲となっていた白龍とみられる空母を奄美大島で氷雪艦隊の海兵旅団が造った施設内の檻の中で発見しました」
1人の上等兵が、五航戦の司令・阿部俊雄の部屋に入って、手元の紙を見ながら言った。その場にいたのは阿部司令以外には黑川源太郎。
「1ヶ月越しに白龍が帰って来たんだ。姉の神龍や弟の連鳳は喜ぶぞぉ!」
「ただ…」
「ただ、どうした?」
笑顔を一瞬でかき消した阿部司令は落ち着いた声で問いを投げかける。上等兵は唇を嚙みしめて俯く。すると、くっついて黙っていた唇をようやく開けて話す。だが、声は少々震えていた。
「ただ、氷雪艦隊の鹵獲になる前と全く容姿が変わっておりまして…」
「容姿が、変わってるだと?」
「容姿が変わっている」という言葉を聞いて、その手に持ってる資料を見せろとだけ言い、上等兵を下がらせた。その資料に目を通した瞬間、黑川司令は急に思考を停止した。その資料には、次のような記載がされていた。
ーーー氷雪艦隊海兵旅団ノ作ッタトサレル,奄美大島ノ前線基地ノ地下牢ニテ,自ラヲ白龍ト名乗ル男ガ発見サレシ。シカシ,彼ノ姿ハ昨年トハ大幅ニ異ナル。色白ダッタ肌ハ白ニ似タ紫ヘト変ワリ,頭部ニモ数本ノ角ガ見ラレルーーー
「どうした、何か書いてあったのか?」
阿部司令も資料に目を通すが、すぐに帽子を深々とかぶり直したのだった。
体を持つ軍艦の容姿が変わることは今までにたった一度もなかったがために、阿部少将と黑川大将は大変なショックを受けた。上等兵の話では捕まってたった1ヶ月で前の姿は面影が少しある程度しか無かったと言う。
(もし仮に氷雪艦隊に洗脳などされたとしたら、対馬支部・明光艦隊は終わりだ…)
そう黑川司令は思った。取敢えずは龍鶴にあって事情を聞き、内側で錯乱に陥れるようなことを言えば、即座に潰す。そうしなければ、対馬鎮守府は乗っ取られ、司令官を始め、此処に居る全員の命はどうなるかは目に見えていた。
司令官たちは首をはねられ、艦たちは魚雷の餌食に、民間人は奴隷か人体実験、もしくは爆弾の餌なる。そしたら今度は日本本土がそうなる。
深く考えすぎだと思われるが「常に最悪の状態を想定しろ」と亡き父からきつく言われていた。そのおかげで何度命が救われたかは分からない。その度に天を仰ぎ、心の中で感謝するのだ。
「おい、誰か!」
阿部少将は大声を張り上げる。たまたま近くを通りかかった憲兵の兵士2人がドアをノックして「何でありますか?」と片手の銃を肩にかけ、敬礼をして入ってくる。ふと黑川司令は襟の階級章を見る。2人とも階級は中尉だった。中尉の憲兵が鎮守府内を巡回するのはこの鎮守府では珍しくは無かったのだが、他の国や鎮守府から見ると、十分珍しかった。
「白龍の元へ案内してくれ。今すぐだ」
「白龍の所へ?」
「あぁ、そうだ」
「分かりました。ではご案内いたします」
しばらく歩いて、白龍と思わしき少年の元についた。報告書通り、変わり果てた姿だった。別にみにくい訳ではないのだが、その場にいる憲兵や下士官たちは目をそらしていた。まともに見ているのは、氷川丸だけだった。
「お、阿部さんに黑川さん。お疲れ様です」
阿部・黑川両司令に気付いた氷川丸が振り返り敬礼する。それに返礼してから阿部少将と黑川大将は氷川丸以外のその場にいる者たちは普段の仕事の戻るように指示した。そして優しく白龍に阿部少将は話しかける。
「久しぶりだな、白龍」
「そうですね、阿部司令。約1ヶ月ぶりくらいですかね。捕らえられてから拷問の毎日。そんでもってあいつらは僕に氷雪艦隊に入らないかと誘ってきたんですよ。当然断りましたけど。そしたらどうです、今度はこんな姿にさせられて…。ホント、嫌になります。ただでさえ、色白なのにこんなのバケモノ以外の何者でもありませんよ!」
白龍の吐く愚痴をただ黙って黑川大将と氷雪丸は聞いていた。消して直ることのないこの姿のままでも、阿部司令と黑川司令、そして氷川丸は受け入れてくれたことが白龍にとってありがたい事だった。来ていたパーカーのフードを深々とかぶり、
「これでも良いんだったら今まで通り戦うよ」と、白龍は少し笑いながら言った。それに2人と1隻3人はそれにつられて大声で笑った。そして、それを承諾した。
「それじゃぁ、またよろしくお願いします。司令に氷川丸」
再びその場で白龍たちは大声で笑うのだった。