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あの日

 あ号作戦内容並びに決行が決まって一夜。あまりにも出撃準備から出撃までの時間がない、前代未聞の無茶振りである作戦立案と決行日時。

 ーーが、それも深読みすれば、それくらいに唐突な作戦でないと強固たる奄美大島を第四帝国守備隊はから奪還できないということを暗示していた。曾山司令自身もこの作戦の決行までの短さが極端に異常であり、尚且つ損耗率が高くなることは百も承知であった。しかし祖国という家を第四帝国という武装をしたチンピラに土足で踏み込まれ為されるがままにされている。そんな状況を一刻でも打開しなければならなかった。しかし、国防総省は戦時中だというのに第四帝国と講和し、さっさとその傘下に入ってしまおうという売国奴じみた派閥や作戦を決行するにしても慎重派といったロクデナシが多く話にならない。

 国民が戦火に巻き込まれているのに軍事の頭が機能しないという状況、幾ら最重要な作戦を上へ送らなくとも各鎮守府の参謀部で立案、並びに決行の許可さえあれば行動可能とはいえあまりにも目に余る。曾山司令の頭にいっそ軍首脳を殺してしまおうかという考えも浮かんだ。しかし、その考えも国防の二文字に押し出されるようの捨てられた。

 明日の奄美大島奪還作戦は対馬鎮守府にとって、第三次世界大戦以来初、尚且つ人型艦艇初の大仕事であるが故に、作戦艦隊に編入された人型艦艇たちは普段より気合が入っていた。中にはいざというときに備えて、普段より念入りに装備の手入れをしたり足りない艦載機を補充したり、遅くまで模擬夜戦をしたりしていた。遠く、ドックの方からは野郎の叫び声と鉄同士がぶつかる鈍い金属音が時折聞こえてくる。護衛隊群とか連合艦隊の連中が最終武装点検をしているのだろうかと、曾山司令は胸の内で呟く。

 そんな彼らのことを提督執務室の窓越しにボーっと曾山司令は眺めていた。

 雲に隠れた月光の中、鎮守府に所属する人型艦艇寮からは暗闇を部屋の零れた光や外の照明が照らす。部屋は所属艦隊別になっており、人型艦艇たちも前世、通常の艦艇であった時から交流はあった者同士。そのため相互理解されており、寮の部屋の前を通ると部屋からはよくバカ話や笑い声が聞こえる。その声を聞くことが曾山司令にとって一番嬉しく、鎮守府司令としても他鎮守府へ胸を張って言えるとと思える事であった。

 戦争中皆がこうして笑い合える。それが一番この鎮守府の誇らしい所であり、絶やしてはならない唯一無二の無形の財産であるということも十分理解していた。

 人型艦艇寮は赤煉瓦の鎮守府本庁舎から連絡通路を中継してカタカナのエの字型になっている。連絡通路は本庁舎と寮を垂直に接続しており本庁舎、或いは寮にある連絡通路側の窓からいずれかの建物が見えるようになっていた。

「どうした、曾山さん?そんなに黄昏ちまってよ?」

 離席していた伊吹が後ろからコーヒーを持って戻り歩いてくると、曾山司令は振り返ってるも伊吹のを見ずに応える。すると伊吹はフッと息を溢しながら言う。

「コーヒー、いつもこの時間に飲んでるの知ってるんだからな?冷めない内に飲んじまえよ」

 曾山司令は執務机に置かれた入れ立てのコーヒーが入ったカップを手に取ると一気にそれを飲み干す。口の中にはコーヒーの独特の苦味のかわりの酸味がくっきりと引き立ち、その爽やかな味わいが広がる。

「…品種は?」

 いつも飲んでいるコーヒーと味が異なることに気づいた曾山司令。手からティーカップにカップを置き、眉を顰め、顎に手を添える。

「キリマンジェロだっけか?山の名前のやつ」

「あぁ、キリマンジャロか。よく仕入れたな」

「少し人脈があってな?ところでさっきは何をしてたんだよ?」

 すると、曾山司令は立ち上がって窓の外をずっと眺める。

「…彼奴らがこうやって笑いあってるところを眺めてた」

 小さく呟く彼の目には微かに涙が滲んでいた。それを見た伊吹は確信する。彼は嬉しい、感激のあまりに今にも泣き出しそうだということに。

 いつ死ぬか分からないこのご時世。今というこの時間を彼は深く噛み締め、誰よりもその重みを実感しているようであった。

 曾山司令はそう軽々しく泣くような男ではない事は人一倍知っている。なぜならそれは彼の出身が300年以上続く殺し屋の一族の長男で彼もまた殺し屋だからだ。殺し屋は依頼を受けて人を殺す、本来は冷徹で無情な人のはずなのだ。機械のように凍った心で我を殺し人を殺めなければならない一族だ。オマケに彼は撃墜王(トップガン)だ。尚更私情や人情を殺さなければならない。しかし彼は違う。彼は普通の人間のように感情を持ち、どんな人であろうと対等に接することのできる信頼なる男だと誰よりも知っている。

 死んでもこの男だけには絶対についていく。

 伊吹にとって唯一の家族であると同時に父親であるような存在。それがこの曾山昭弘という男であった。

「そうか、もう俺らがここに来て5年は立つのか…」

 不意にボソリ、伊吹が小さく呟く。

「そうだな。覚えてるか、あの日の事?」

 そう曾山司令が続けたその言葉に伊吹は目線だけを彼の元に向けて静かに言った。その目は遠く彼方を見るようにどこか懐古するような赤い眼であった。

「あぁ。覚えてるさ。忘れるわけない」

 そして伊吹の忘れることのない彼が言う()()()のことを一人、追想し始めた。


  * * *


 出会った時はまだ俺も幼かったし弟の鞍馬だっていた。敷島も若かった。まぁ…その間に色々あって鞍馬とは別れちまうハメになっちまったんだがな。 今思えばあの頃は懐かしいな。

 2年の間で俺らはアホみたいにデカくなったし敷島たちの先代の艦艇たちは年老いた。俺がその後の太刀風とか見てて感じたんだが丁度、人間の第二次成長期と一気に老ける時期と同じ頃に人間の2だか3だか分かんねぇが数倍の速度かつ短期間で成長と老化が進む、だがその時期になるまでは一切成長も老化もしない。不思議な感じだ。本当に人型艦艇と人間。瓜二つなのになんでこうも違うのか俺は不思議でたまんねぇぜ。

 んでもってもっと俺でも理解できないのは…んえ?話が逸れてる?少しくらいいいだろぉ?あーったく分かったよ。

 俺らが日本に来たその年、日本に軍が2024年の9月に再創設されて、俺ら人型艦艇が極秘で日本国海軍に編入される事が決定され、俺ら人型艦艇は横須賀、舞鶴、呉、佐世保の4つの鎮守府に配属。そのうち俺や敷島らは呉に編入されて各艦に教育係という名目で艦長がついた。曾山さんは2年間だけ俺の艦長をしてくたんだよな。

 あの頃はバカやって曾山さんにこっ酷く怒られたり酒を飲んで話をしたり、一緒に軍艦に一軍人として化けて乗って、遠征や環太平洋(リムパック)合同演習やってアメリカの駆逐艦だの巡洋艦の乗組たちが唖然とする顔見るのは面白かったなぁ。ただ、通常時の俺らの演習中に太刀風とか薙風なんかはすーぐに突っ込もうとして統制には苦労したもんだ。執務も山積みで毎日毎日、日ぃ跨いで執務こなしてたっけ。結構バタバタしてたし肉体的にも精神的にも苦痛でもあったが、やっぱり俺としてはあん時は本当に楽しかった、そんな2年間だった。

 んでもってあれは2026年の1月だったっけか。曾山さんの教官で当時の海軍大臣、前郷英輔(まえごうえいすけ)元帥の指示で俺の艦長の任を解かれた代わりに、佐世保鎮守府の参謀本部に移って参謀総長をやってたんだよな。その間に俺は日本海軍に除籍届を出した。曾山さんの後に来た艦長、國岡ってやつがどうも気に入らなかったからだ。

 なぜかって?

 そりゃぁ、俺や他の所属艦の意見を取り入れずに自分の策ばかり取ってたからだ。やりたい放題独断専行だ。しかもやたらと酒飲んでたし、参謀が止めに入るとそいつをクビにするし…。まぁその後に特憲警(とっけんけい)(特別憲兵警察機構の略。通常の警察事務に加えて軍内の治安や秩序維持を主任務とする軍種)に軍律を乱してることがバレて軍法裁判になって、退役に追い詰められたんだと。あの当時の國岡は俺の艦長である上に第二連合艦隊の司令とか言うぶっ飛んだ肩書きで最悪だったぜ。なんで艦長と司令が一緒になるんだよ!?おかしいじゃんか!

 え?少し落ち着け?お、おう…。すまねぇ。

 そんで、國岡のやり方に不満を募らせた俺の率いる第五遊撃艦隊の 太刀風、槍風、薙風(肉弾三人衆)と敷島率いる前弩級艦隊は退役届を出したその日の夜、霧と闇夜に紛れて呉を後にした。

 そのせいで所属するべき鎮守府も帰るべき母港も無くなっちまったんだがな。


 無所属艦時代の間は、ちょくちょく現れる当時はまだ小規模で第四帝国とも結託してなかった氷雪艦隊の駆除をやってた。ただ氷雪がどこで湧くのかは全く場所が特定できなかった。活動範囲が俺らが想像してたよりも遥かにデカかったんだよ。確かに人類へ復讐がどうこう言ってるからいっちまえば全世界の海を活動範囲にするんだようよ?でもいくら偵察機を本拠地と(おぼ)しいとこに飛ばしても全く見つかんねぇって言われて俺らも流石にこればかりはどうにもならなかった。

 ん?弾薬と燃料の補給はどうしてたか…?

 あぁ、それについては問題なかった。流浪で行き場に困ってた中で同じように氷雪艦隊の駆逐を南太平洋でやってた日本(ひのもと)艦隊の旭日っていう若旦那とか、台湾中華民国海軍の客陣(客として招かれる陣営のこと)、白桜(はくおう)の総大将・鳳凰のもとに少し世話になったりとかそんなことをやってたな。

 確か、2031年の夏になったばかり、7月の15日だったっけか。そうそう、第三次世界大戦が集結した1年あとくらい。いつも通り俺らは通報を受けて東太平洋海域、ハワイ沖700kmの海域で氷雪艦隊の水雷戦隊と戦闘をやってた。ただこの時は氷雪の連中がなかなかすばしっこい水雷戦隊で、敷島らの砲撃も肉弾三人衆の雷撃も俺の航空攻撃も当たらねぇんだよ。敷島たちは仕方ないにしても太刀風たちの雷撃も、俺の流星改の爆撃も雷撃も全部回避するんだよゴキブリみてぇに。

「主砲安式30糎砲、全門発射!」

 俺は艦種を巡洋戦艦に変更して急いで照準を合わせて主砲の安式を2基、交互射撃で奴らを狙った。30センチの鉛玉は敵に向かって飛んでく。でもその弾は当たるどころか掠りもしねぇで海にドボン。

 後に俺んとこの搭乗員が当時の敵艦隊の速力を計測して作成した資料だと艦隊全体で30ノット強出てたと言われたんだ。そりゃ当たらねぇ訳だ。ただこんときは全く理解できてなかったんだ。奴らの速度がどんなもんか。

「30糎連装砲、15.2糎単装砲、7.6糎単装砲全門一斉射」

 敷島も前弩級艦隊の連中は連中を丸め込むように囲んで副砲の嵐をお見舞いしてたんだ。それでもさすがの高機動性だ。当たるにゃ当たるんだが敷島率いる前弩級戦艦の精鋭であろう者たちの射撃でも20発に一発、大体5%(パー)程度の精度で俺もその機動力と速力に思わず感服しちまった。

 そんなこんなで追撃戦は勃発から5時間くらいだったか?敵の駆逐艦が一隻やっと沈んだ。弾薬庫に槍風の砲撃が命中したみたいだった。主砲が打ち上げられて腕が、首がプツンと一瞬で捥げるのが見えた。撃沈確実だったが一応俺は爆弾があと一発の流星改に残骸に爆撃させてそいつを補給させるために帰投を命じた。

 そんなこんなで十数時間と膨大な弾薬をかけてその水雷戦隊の7、8割は潰した。慈悲はなし。太刀風に追いつかれて首を刎ねられた軽巡とか、薩摩の気合を入れた拳でノックアウトする駆逐艦。敷島の精密遠距離砲撃で一瞬にして文字通り爆散する駆逐艦もいた。だが、相変わらず全体的に速力なら向こうが上。んで残存艦艇が逃走。それを航空機を飛ばして追跡し続けてたんだ。

 その後といったら幾ら主砲を撃っても、いくら航空機で攻撃しようともまるで当たらねぇ。向こうは巧みな之字運動で砲弾を回避し続けて、結局のところ、追撃戦開始6時間以降、沈められたのは軽巡一隻と駆逐艦二隻だけ。それを合わせた艦は軽巡2、駆逐が5だけだった。複数水雷戦隊を追撃するには骨が折れる。だが幸いにも残存艦隊はみんな同じ方向に撤退していて、気づけばいつの間にかアメリカのハワイ沖約150kmの海域まで来てるざまだった。

 550キロも今思えばよく戦闘しながら航行してたなと思うな。

 話を戻すが、環太平洋(リムパック)合同演習が当時行われてたんだったよな。それに参加していた米英蘭仏日独伊西葡芬瑞の合計11ヶ国から成る多国籍艦隊が丁度、氷雪を丁字で待ち受けるような形で展開してた。

 そしたら、何を血迷ったのか環太平洋(リムパック)合同演習中の多国籍艦隊の方に氷雪艦隊の奴らは向かって攻撃始めたんだ。俺らのとこにも発砲炎に遅れて(ひず)んだ咆哮が聞こえてきた。多分だが、あいつらは演習中の艦隊を俺らの伏艦隊だと勘違いしたんじゃねぇかと思ってる。流石にこれには敷島もまいったぞと言わんばかりに溜息をつき、t

右手を額に添えて

 曾山さんも知ってる通り、氷雪の野郎どもの位置も武装諸々もすぐバレて、環太平洋(リムパック)演習艦隊のハープーンだとかトマホークだとか主砲だとかに返り討ちにあった。

 撃滅した後、俺らが氷雪の各個、その残骸を回収しようとしたときにどっかで聞いた声がしたんだ。その声ははっきり覚えてた。後ろを向くと、一隻のミニ・イージス艦、新鋭艦のあまぎ左舷の見張り台に曾山さんが手を振ってるのだ見えたんだ。

「おぉい、伊吹ぃ!久しぶりだなぁ!」

 俺の目線の大体500m先に曾山さんの乗るあまぎがあった。俺は急いで接近するとそのままジャンプで左舷見張り台に飛び乗った。飛び乗った瞬間、あまぎが左に大きく傾くのがわかった。

「曾山さん?佐鎮に行ったんじゃ…?」

「あの後、佐鎮の参謀総長から対馬に支部鎮守府として創設された対馬鎮守府に移った」

「対馬鎮守府?」

 俺は一体なのをいっているのか理解できなかった。それに、曾山さんの階級章をちょいと見たんだがなんかか大将海軍元帥になってたし…。

「あぁ。支部って言ってるが、ほぼ独立した鎮守府だな。あそこは新鋭艦から熟練した精鋭艦まで集まってる。伊吹や敷島たちも来ないか?」

「対馬鎮守府…」

 俺はしばらく考えた。呉での件もあり、どこかを母港にするという事は少し葛藤があったが、敷島が言ったんだ。

「もうあの時みたいな司令ではないじゃろう。それに提督が司令官ならば安全じゃ、行くとしよう。その対馬鎮守府とやらへ」

 俺はもうしばらく考えた。

 どうしても、呉の事が頭から離れなかった。すると曾山さんは言ったよな。伊吹、お前はあの事を気にし過ぎている。お前のトラウマになってるような司令はいない。共に行こう、と。俺はその言葉で決心がついた。俺が行くべき場所がどこなのか、俺はこれから何がしたいのか。

「...分かった。対馬に行く。俺は曾山さんと共に轟沈最期の時まで戦い抜く。戦船(いくさぶね)として生まれたからには守るべきものは守んねぇとな」

「よく言った。海軍省からは俺から言っとく。対馬までは信濃丸が案内してくれる。信濃丸、後は頼んだ」

 曾山さんが仮装巡洋艦の、信濃丸を呼んで俺らに対馬鎮守府へ案内しようとしてくれた。

「分かりました」

 信濃丸は道中ほぼ喋らない物静かな奴だったが、定時になるとどっかに何かを報告したり頭数を数えたりと几帳面な男だった。

 俺は環太平洋(リムパック)合同演習に参加してた艦長や司令たちに俺は一礼して信濃丸の背中を追った。そしてその数日後に、曾山さんが対馬に帰って来たんだよな。


 伊吹が思い出話を言い終える頃には、部屋の時計は午後11時過ぎを示していた。

「もうこっちに来て8年か...時間が経つのは早いな」

「だな。もう今日は遅い。お前も出撃しなければいけないだろ?もうお前も休め」

「分かったよ、曾山さん。じゃぁ俺は明日に備えて寝るぞ、曾山さんもあまり夜遅くまで勤務すんなよ」

「心遣い感謝する」

 伊吹は笑顔でいる曾山司令に対し敬礼をする。曾山司令もそれに応じて返礼したのを確認すると、提督室を後にし、明日に備えて一航戦寮室へ向かった。

 伊吹は、所属の第一航空戦隊の寮に戻るまでの間の薄暗い通路の中で、まだ遠くない過去を1人思い出していた。それは対馬鎮守府艦隊が発足してから間もない頃だった。


 2034年・6月28日午前8時56分日本海。第四帝国が出現する少し前のこと。

 この戦いは「四方に撃ち出す砲声は、天に轟く雷か」という一文がふさわしい。

 何の前触れもなく日本海に現れた氷雪艦隊を叩くべく対馬鎮守府にも出撃命令が降った。

 荒れ狂う波の中で天高く昇る炎に水しぶきを立てて落ちる魚雷、四方八方に飛び交う砲弾。そして、目的は不明の南極を拠点として世界各国の船へ無差別攻撃を行っている謎多き艦隊氷雪艦隊。迎え撃つは、水面(みなも)をかける伊吹率いる対馬鎮守府艦隊。

「テメェみたいな雑魚なんてすぐに沈めてやる!」

 サタナキアキ級戦艦ダブルが3流セリフを吐き立てながらその自慢の47糎連装砲を撃つ。伊吹はさっと躱すが、ヴィッツ級航空母艦・ヴィッツの鳥型生物艦載機黒烏(からす)が右舷から魚雷を投下する。酸素魚雷かと思われるほどの航跡の少なさに、ダブルとの戦闘に気を取られていた伊吹は、ヴィッツが飛翔させた黒烏(からす)の航空魚雷3本を受けてボロボロになり、血を体中から流している伊吹は大声を張り上げる。

「クソッタレがぁ!」

 その大声と共に背中に積んでいた、艤装の安式30cm砲が火を噴く。真っ直ぐに飛んでいった砲弾は、氷雪艦隊のZ80級駆逐艦に直撃、一瞬で撃沈する。しかしその轟沈を見届けるのも束の間、次から次へと敵艦隊の攻撃は更に激しさを増す。どれだけ撃っても減る気がしない。

 近くにいた敷島が伊吹に下がるように言うが、全く聞かない。そこで病院船(衛生兵)の役目を果たす、氷川丸を呼び、無理やり後退さそて応急処置をするように言った。

「応急処置なので無理に動かないでください」

 そう忠告するよう念入りに氷川丸は伊吹に言う。まともに治療を受ける時間もないほど逼迫(きっぱく)した戦況だったので、伊吹は傷を外から塞ぐだけでも十分ありがたかった。

 後ろからは、ミニ・イージス艦のゆきぐもが艦対艦誘導弾、ハープーンミサイルを発射する。それに続いて、轟音を立てて遙か彼方からやってきた音速戦闘機が続く。

「こちらファルコン1(ワン)。ファルコン全機、トマホーク発射!」

「こちらザック1(ワン)、フォックス1(ワン)!」コールサインをファルコンとする、新鋭戦闘機・F-38Jコンドル、ファルコン中隊とコールサインザックとするF-2ザック大体が巡航誘導弾トマホークミサイルを空中から攻撃する。

 攻撃するまでの間にいくつかのF-38Jコンドル、F-2は落とされたが、それでもかなりの数がミサイルを発射することができた。槍風型駆逐艦の薙風は槍風、峯風型駆逐艦の太刀風と共に手持ちの武器を思う存分ふるっている。

 彼らは近接攻撃を得意とし、鬼のように戦果を挙げていたので、肉弾三人衆と呼ばれ、氷雪艦隊から恐れられていた。それに負けじと敷島や安土型巡洋戦艦の安土、大阪、江戸も立ち回りを工夫して攻撃を仕掛ける。じりじりと明光艦隊は氷雪艦隊をおしていく。既に数隻の艦艇を失った氷雪艦隊は後退し始めた。

 東郷平八郎元帥が三笠たちと共に戦った、バルチック艦隊を打ち破った日本海海戦から132年。第二次日本海海戦とも呼べるこの戦いも、日本の勝利で戦いの幕を閉じた。

 戦闘終了を確認した血まみれの伊吹は対馬鎮守府にいる曾山司令に通信を入れる。

「曾山さん、終わったぜ。あんたの作戦はホントに助かるわ」

伊吹が高笑いしながら言う。すると、曾山司令もフッと笑って返答する。

「俺だけの力ではない。お前たちの力があってこその策だ。この調子で頑張ってくれ」

「応よ!つーか、こんなに戦力出す必要あったんか?」

「念には念を入れよってい言うだろ?」

「それにしては入れすぎだろ。俺を含んだ第一主力艦隊を始め、突撃艦を12隻、前弩級艦隊、水上機偵察隊。おまけにF-38Jコンドル、F-2を計80機と来たらオーバーキルだぜ?そりゃぁ、俺だって無防備な民間人を攻撃する氷雪艦隊は嫌いさ。でも、さすがにこれはやり過ぎだろ…、氷雪艦隊に同情しちまうぜ…」

「はははは。それもそうだな」

 世界はあの日。そう、第四帝国が出現するきっかけとなってしまった「『そうや』沈没事件」を気に世界に恐怖と衝撃を走らせた。曾山司令と伊吹、敷島らを中心に発足した日本海軍・佐世保鎮守府所属の対馬支部。大海原に命を預けた男たちは終わりの見えない戦いへと抜錨していくのだった。

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