老将戦艦
硫黄島沖海戦で勝利した伊吹率いる艦隊は、対馬鎮守府に帰投して来た。
人型艦艇──。
彼らは、第二次世界大戦やそれよりも前の軍艦たちに魂が宿り、肉体までもが構成された姿だった。設計だけで終わった艦、未成艦までもいる。一番古い者は戊辰戦争時の軍艦までも存在していた。2023年には既に存在自体は確認されていたが、一体いつ、どこで現れたのかは一切不明であり、彼ら自身「気づいたらここに居た」と不可解な発言をしている。
そんな彼らだが、第四帝国に属していたり、アメリカやイギリス、ロシアなどに属していたり、どこにも属していなかったりと結構自由にやっていたりする。旧ドイツ第三帝国を含めて、多数の国出身の人型艦艇は、日本政府が再創設した防衛省の自衛隊とは別組織である日本国防総省の陸軍省・海軍省・空軍省、その他に新たに創設された海兵庁(独立海兵隊のための組織)の内、海軍省に編入されている。第三次世界大戦終結後までは軍事機密組織であり、知っている人は天皇を始め、陸海軍大臣、各艦隊の司令や陸海空の各統幕長と一部の高級参謀だった。他の軍人たちはは噂で聞いた事があるくらいであった。
「おぉい曾山さん、戻ったぞぉ」
伊吹が提督執務室へ入ってくる。そこには提督執務用机に座った、白い軍服を身につけ、肩には綱を捻りに捻ったような階級章がつけられた、若い男が居た。彼がこの対馬鎮守府の初代司令官である曾山昭弘。年齢37にして大将海軍元帥という、あり得ない若さで海軍のトップ層の仲間入りを果たした、若き元帥である。長野県上田市出身の彼は、第三次世界大戦時には海軍航空隊の防人大隊と言う、F-3戦闘機の改良型のFX-3を3機、F-35CJを11機、計14機の精鋭部隊の大隊長として中国海軍、中国空軍と台湾や東シナ海、尖閣諸島近海で戦闘を行い、119機の戦闘機と爆撃機を4年で撃墜すると言う華々しい戦果を上げた戦後初の3桁越えの撃墜数を持つジェット戦闘機乗りとして頭が一つではなく、軽く五つ程飛び抜けていると言っても過言ではないほど、ありえない数字を叩き出した男でもある。そしてそれに加えて機体はほぼ無傷であるから、それを中国軍は曾山司令と彼の搭乗機のFX-3を『ブラッドゴースト』と呼んで恐れた。その彼は今、空から対馬という地に降りて、対馬鎮守府の司令として執務を行う毎日を行なっている。津島鎮守府で何かあったときは自ら行動を起こしてしまう(不審者が侵入してきたときに曾山司令自身が確保していたりする)頭のネジが数本飛んでいてもおかしくない行動を起こしたりしている。しかしながら、それでも司令としてやっていけるのはそれほどのカリスマ性と作戦立案能力、忍耐力など指令として必要な素質が全て揃っていることを意味していた。
提督執務室は執務用机の背には窓、それにいかにもという感じで高級そうな赤黒いカーテンが掛けられ、執務用の机から向かって同色のカーペットの上には黒い艶のある2、3人は座れるだろうソファが少し低い接客用テーブルを挟んで対面する形で置かれており、その隣にはぎっしりと古そうな『戦闘詳報』や『艦隊歴代編成一覧』と黄ばんだ背表紙に書かれた薄水色のファイルや『資源増減報告書』、『各海戦ノ参加戦力並ビ戦果被害報告書』と昭和じみた漢字カタカナ混じりの分厚い書物まで様々なものが置かれており、少しそこから離れたところに接客用のティーカップやプレートなどが入った食器棚、手回し式のコーヒーミルや高そうなコーヒープロセッサーなどが置かれた食器棚がご丁寧に設置されていた。
「伊吹か。どうだった硫黄島沖海戦は?」
「詰まらねぇ、もっと骨のある奴らはいねぇの?」
曾山司令は机の上の書類にペンを走らせながら燃えるような赤い目を持つ水色のロン毛の彼に聞く。それに伊吹は退屈そうな顔で答えながらそのまま部屋へと入ってくる。
「お前ならそう言うと思ったよ」
「じゃぁ、もう次の出撃場所は決まってんのか?」
伊吹が期待をした目で曾山司令を見つめる。すると曾山司令は目を瞑って一旦間を開けてから「まだ決まってないよ」と柔らかく伊吹に伝える。
「なんだ、まだ決まってないのかぁ…」
伊吹は期待を裏切られたような感じがして、少々がっかりしているようだった。伊吹は扉側の黒いソファに座って天井を見つめている。それをよそに曾山司令は相変わらず資料の記入を続けている。
「そう言えば伊吹、台湾海峡の制海権の方はどうなっている?」
「上空偵察、哨戒航行に潜水艦による巡視。指示通り全部やってるし、何も報告は入ってねぇぞ」
天井を見上げながら右手の人差し指を立てて手首を振って弦楽団の指揮を取っているようなことをし始める。
「そうか。了解した、伊吹も少しは休んだらどうだ?最近は連日出撃してるだろう?あまり無理し続けていると体も持たん」
「それは曾山さんも同じだろ?玄田さん(対馬鎮守府の副提督代理で海軍少将)が居るのに執務の殆どを曾山さんがやってるじゃねぇかよ」
曾山司令は山積みになっている報告書や書類に目線をチラリと向けると無言で目線を戻す。伊吹も言っていたが、石川将司と言う海軍中将であり対馬鎮守府の副提督が現在、ニューギニア軍港と言う、パプアニューギニアからの租借地にて守備隊を率いているため、玄田信海軍少将が副提督代理を行なっているのだが、その玄田少将が手伝おうとしてもそれをいつも「君は頑張っているから休みなさい」と言って拒んでいる。明らかに休むのは曾山司令であると対馬鎮守府にいる将兵も人型艦艇も思っているのだが、疲労一切見せず、疲労感じさせない彼の振る舞いに少しだけだが尊敬の気持ちを抱く者も出てきていた。
「ここの鎮守府は最近戦闘が多すぎる。各長官や玄田副提督代理にはいざという時にその実力を発揮してもらいたいだけだ」
そんな小難しい話をしているところに、ドアをノック音と「前弩級艦隊旗艦敷島、入るのぉ」と静かであるが威厳のある声が聞こえた。
その声の持ち主は第2種軍装に身を包み、左胸の所には無数の勲章をつけている1人の老人だった。その彼は提督執務室へと来た。その脇には軍帽と、分厚い数冊の報告書が抱えられていた。
敷島は提督執務室のドアを背に海軍式の敬礼をし、それに対して曾山司令と伊吹が返礼する。それを解くのを確認してから敷島は執務用机を挟んで曾山司令に近づく。
「よぉ、敷島。遠征の方はどうだった?」
再びソファーに座っていた伊吹が敷島の方に目線を合わせ問いかける。
「まずまずって所かのぉ…。良しとも言えぬし悪しとも言えぬ。提督、これが報告書じゃ」
敷島はそのシワまみれで糸目の表情を変えずに、自分の顎にある白髭を撫でながら答える。
「ボーキサイトが足りないからな。それに、ここの倉庫にある石油や弾薬、鋼鉄にミサイルも足りなくなってきている」
曾山司令が報告書に目を通しながら呟く。現状、鎮守府にある石油や弾薬などが底をつき始めて来ており、鉄鋼や石油の兵站線は、辛うじて確保しているアメリカのアラスカ、ベーリング海そして、ロシアのカムチャッカ半島を経由のものと、東南アジアから、沿岸部を通って台湾海峡を抜け、そこから対馬まで佐世保の海上護衛隊の艦艇たちにタンカーを護衛してもらって、どうにか確保していた。
「先の遠征で満足に資源も得られなかったからのぉ…。今の日本は輸入に頼り過ぎとる。このままでは、日本は…」
「そんなこと言われなくても分かってる!分かってるけど…」
敷島の言葉に伊吹が握った右手の拳をテーブルに叩きつけ、唇を噛む。
暫く沈黙が続いた。それを破ったのは曾山司令だった。彼は窓の方を向いていた顔をこちらに向けて、静かに言い放った。
「今はこんなことで言い争っている暇はない。今ここで分裂が起これば、誰が喜ぶ?」
「第四帝国だな…」
「そうだろう?だからこそ、こんな所で言い争いをしていてそれで不仲となり、それぞれが情報共有できなかったら、待ってるのは轟沈だけだ」
要するに曾山司令が言いたいのは、ここで喧嘩をしてそれを根に持ち、お互いに味方だと認識して協力できなければ死ぬ、という事だ。敷島と伊吹はそれを理解したようで互いに「すまない」と素直に謝った。曾山司令はそれを見ると優しい笑顔で小さく頷いた。
「それで。他に何かあるのか?」
曾山司令がふと思い出したかのように問いかける。すると敷島も忘れかけてたようで、ハッとして「おっと。そうじゃった、そうじゃった。提督、戦果及び被害報告じゃ」と言って胸ポケットから1枚の紙を取り出す。
「よし、読み上げてくれ」
曾山司令は提督室にある西洋風の椅子に座って机に肘をつけ、手を組んで硬い表情になる。敷島はそんなことを気にせず、曾山司令の前に歩いて報告を始める。
「あい分かった。先日の海戦での戦果、並びに被害の報告じゃ。戦果、撃沈は空母3、戦艦1、巡洋艦4、駆逐艦6。撃墜航空機が37機。撃破は空母1、戦艦4、巡洋艦3に駆逐艦3、コルベット防空ミサイル艦が18隻。非撃墜航空機は52機。続いて被害の方じゃ。撃沈、イージス艦34隻。撃墜航空機は50機。航行不能が1」
「コリャこっ酷くやられたな、海自も空自も」
敷島が戦果被害報告の詳細を伝え終えると伊吹が両手を頭の後ろで組みながら伊吹と敷島の方を見る。
「まぁ、相手が相手だ。分が悪い。しっかり対策を練らんといけないらしい。第四帝国というのは今や強大な海洋国家となっている。敷島。明日、全旗艦と司令長官たちを集めてくれ。対策会議を開く。内容は、防空システムの再編と資材の在庫確認。敵の詳細の再確認だ。いいな」
「あい分かった。早速旗艦と司令長官たちに通達するの」
敷島が敬礼をしてさっさと提督室から去っていくと、曾山司令は無言で自分の腕時計を見た。それに伊吹はハッとしたのか、食器棚の方へと向かって、独り言のように呟く。
「これから忙しくなるぞぉ!」
* * *
提督室を後にした伊吹と敷島は、艦隊の寮に繋がる連絡通路を歩いていた。
通路の窓にふと目線を向けた伊吹は思わず「綺麗だな」と呟く。敷島もそれに釣られて目線を向けて「本当じゃな」と応える。月明かりに照らされて青い、幻想的な海の景色を映し出していた。戦争中とは言え、景色というものは人を魅了する。それを今、自我を持った軍艦たちである自分たちが実感している。心を奪われたその景色を暫く眺めていると、連絡通路の向かい側から人影がつ2、近づいてくるのに気づきた。胸から上は丁度影になっていて姿が見えないが、服からして憲兵や独海隊ではない。おそらくは人型艦艇であろう。
(敵か…?ありえねぇがもしそうだったらここで潰すか…)
そんな事を思っていると、その人影たちは徐々にその容姿を月明かりに晒していった。
「あら、伊吹さんに敷島さんじゃないですか。こんばんは」
ふんわりした優しい声…。顔を向けるとそこには、鳳翔と太刀風が立っていた。
「総旗艦殿?如何なさいました?」
鳳翔よりも若干小柄な太刀風が伊吹に問う。彼は海の武士と言われ、身なりから礼儀作法まで全てが武士であった。
「いや、曾山さんとか行っててな、今から帰るとこなんだ」
「そうだったのですね、お疲れ様です」
鳳翔はニコリと笑ってみせ、太刀風は海軍式敬礼をする。敷島は太刀風に返礼を、鳳翔にお辞儀をし、伊吹に「わしは先に戻っとるからな」と言い残して去っていった。
伊吹は“空母の母”とまでに謳われる鳳翔の事を尊敬していた。たった1人の家族である曾山司令のように、伊吹は鳳翔の事を信頼していた。太刀風は砲撃・雷撃と剣術の腕の達つ、頼れる武闘派駆逐艦であり、鳳翔同様、心から信頼していた。
「2人は何で鎮守府に向かおうとしてんだ?」
伊吹が尋ねると、鳳翔が口を開いた。
「実は、半月前に五航戦と共に出撃したの中に白龍って言う艦が居たでしょう?その白龍が未帰還なのよ…」
鳳翔の言葉に太刀風が続ける。
「しかし、五航戦の翔鶴殿と瑞鶴殿、七航戦の紅龍殿やも帰還の途に着いた時には共に行動し、魚雷を受けて轟沈した可能性も低いと…。それで、提督殿に今から今後実施される予定である作戦案の提示と同時進行で龍鶴殿の安否確認、及び救出の方を実施したいと相談しに参るのですよ」
伊吹は白龍が行方不明になっている事を知っていた。白龍は改大鳳型、紅龍型航空母艦の3番艦で、その色白の甘いマスクと誰にでも分け隔てなく接するその姿で人気であった。しかし、半年前に五航戦と白龍の所属している七航戦に出撃命令が下り、沖ノ鳥島近海で第四帝国の空母機動部隊との間で勃発した沖ノ鳥島沖開戦で、単艦にて哨戒航行中であった白龍との通信が拒絶され、そのまま消息不明になってしまったとの話だった。
まだ生きているのならば助けなければならない。そう思った伊吹は、生存確認を通信室にいる通報艦、満州に頼むまた共に、鳳翔と太刀風にこう伝えた。
「以後、白龍を名乗る奴が来てもすぐに鎮守府に入れるなと憲兵隊と独海隊に伝えてくれ」
2人がコクリと頷いたのを確認しると、「頼んだぞ」と言い残して、どこかへと走り去っていった。
* * *
翌日の午前9時30分対馬鎮守府地下指揮官会議室。
「皆に集まってもらったのは他でもない。先日の硫黄島沖海戦で海上自衛隊のイージス艦34隻が撃沈、航空機も全機未帰還となったのは、報告で伝わっている筈だ。従って、ジェット戦闘機及びミサイル、防空システムを見直したい」
曾山司令は主力艦隊の旗艦と司令長官たちを集め、早速対策会議を始めた。集められた艦は伊吹をはじめ、赤城、飛龍、鳳翔、龍驤、翔鶴、信濃(六航戦旗艦)、神龍(七航戦旗艦・改大鳳・紅龍型航空母艦)、長門(連合艦隊旗艦)、敷島、プリンス・オブ・ウェールズ(東洋方面艦隊)そして、こんごう(護衛隊群代表)。司令官は、西郷昭允大将(一航戦)、近藤善哉中将(二航戦)、零条巌少将(三航戦)岩本剛良少将(四航戦)黑川源太郎大将(五航戦)阿部俊雄少将(六航戦)、阿部俊彦中将(七航戦)、伊達武治中将(連合艦隊)、宇和島信之大将(前弩級艦隊)、オリガ・フォン・ハールトマン中将(東洋方面艦隊)、高橋肇海将補(護衛隊群代表)、そして参謀本部より新島上里参謀少将だった。
このうち阿部俊雄少将、阿部俊彦中将は兄弟であり、それぞれ第六航空戦隊、第七航空戦隊の司令長官。俊彦の方が兄で俊雄が弟である(以後、この2人のみ、俊雄少将、俊彦中将と呼称する)。
「なら、そもそものところの局地戦闘機、イージスシステムの見直しをしなければいけないだろうに…」
高橋海将補が目線だけ曾山司令の方を向けて冷静な声で会議の話題を振る。飛龍も「対空装備が旧式になってきている、今すぐにでも新型の戦闘機を開発するべきだ」と高橋海将補の意見に賛成する一方、西郷大将をはじめとする、一・三・五航戦の司令は慎重に検討するべきだと主張し、あくまでも、今の体制を維持する姿勢を示した。
「しかし今、最新鋭の戦闘機を作っておかないと、この先悪戦苦闘することになるぞ?」
伊吹が慎重派の司令たちに必死になって新鋭兵器の重要性を訴えかける。すると、伊吹を後押しする形でまだ慣れない片言の日本語でオリガ中将が口を開く。
「新型ノ戦闘機ノ計画ナラ、秘密裏ニ進ンデイマス。最新鋭ノ、ジェット戦闘機デス。マダ、試作段階デ、試作海龍ト命名サレテイマス」
「何!?その戦闘機の存在をなぜ教えなかった!?」
「敵に悟られねぇためだろ。今の兵器じゃ、奴らに到底勝てねぇ。その証拠が先日の硫黄島沖海戦だろ!?今コイツの存在がばれりゃぁ、間違いなく対策兵器を作るぞ。そんなことも分からんか?」
少し顔が赤くなった零条少将に伊達中将が冷淡と言い放つ。その言葉を聞くと、零条少将も黙り切ってしまい、他の慎重派も自分たちの考えていたことがどんな事か理解したようで、冷汗をかいた。伊達中将も言い終わると、フンと鼻息を鳴らし、深々と椅子に座り直した。
「では、新型の戦闘機を公には知らさずに、開発するってことで、このプロジェクトはこのまま進めて構わないな?」
曾山司令が慎重派の司令長官たちに確認を取る。
「うーん」と唸り声を上げて数秒経ってから、黑川大将がコクリと頷く。するとそれにつられるように他の司令長官も頷いた。
「よし、では今度はあれだ。防衛システムの話だ」
「だったら岩崎重工に任せろ」
曾山司令の後ろから声がした。その声の主は1人の護衛だった。名は岩崎俊輔。階級は少佐で天然理心流の達人。母方の先祖に元新選組隊士が居たという事もあり、岩崎の部隊は厳しい掟で有名だった。彼自身それを理解しているようで、たびたび起きての事に触れられると、「厳しくなければ部隊は纏まらん」と言って一蹴した。
「おっ、岩崎。岩崎重工とお前はどんな関係があるんだ?」
「俺は、岩崎重工の次男坊だ。だから、親父に頼んで新型ミサイルを作ってもらう」
一瞬会議室にはざわつきが起こった。あの大手企業の岩崎重工のお坊ちゃんがすぐ近くにいたので無理もない。結局、岩崎少佐が彼の父に頼んでみるということになった。話も一段落ついたというときに、鳳翔が
「でしたら、私たちの艦載機も変えて頂けないでしょうか?」
と優しい口調で尋ねる。零戦の二一型ではさすがに旧式化してきているので、そろそろ新しくしなければと海軍も考えていたところだった。
「よし、じゃぁそれも親父に頼んでみるわ。ジェット戦闘機にすると、鳳翔さん自体も改修しなければいけなくなるから、レシプロ機でいいか?」
「はい、新鋭機になるのでしたらレシプロでも構いませんよ」
「よかった。最近全然いい戦果を出せていなくって…。今の言葉を聞いてほっとした」
「では、防空システムの件も解決だな。これで会議を…」
「ちょっと待ってくれ、司令」
手を挙げて声を上げる司令長官が1人いた。近藤中将だ。それに、新島少将も頷く。彼はまだこの会議は終わっていないと言う。
「何です?まだ終わっていないとは、どういうことです?」
「私、新島から司令官方、旗艦の皆さんに参謀少将としてもうしあげます。皆さんは現在、奄美大島が占領されているのはご存知ですね?ですから、近藤中将と作戦を練ってみました。近藤中将、作戦の説明をお願いします」
「分かった。皆、前のモニターを見てくれ」
するとモニターには、奄美大島近辺の衛星画像と、赤と青の駒が映った。そしてそれをアニメーション方式で動かしながら説明を始める。
「これが今度の作戦案だ。最終目的は、今占領されてる奄美大島近海の奪還作戦だ。編成は空母を6隻、戦艦を4隻、重巡・軽巡合わせて14隻、駆逐艦を20隻の計28隻の艦隊を向かわせる作戦なのだが…。対潜警戒ができないのだ。敵潜水艦がいた場合、駆逐艦だけではどうしても心細い気がする。しかも駆逐のソナーはそこまで性能はお世辞にも良いとは言えない。どうしたものかと…」
「なら、『ひゅうが』型と『かが』型護衛艦を行かせろ。その方が対潜も対空もできて一石二鳥だろ?」
「そうだ、そうだな。あとはこの作戦案の許可が下りれば…」
そう言いかけたその時、曾山司令は伊吹の耳元に何かを囁いた。
「曾山司令は作戦案を採用し、明後日に作戦を実施するとおっしゃりました!」
「おぉ!では、待ちに待った明光艦隊初の奪還作戦ですな!?」
「あぁ。心おぎなく戦ってこい!」
「よっしゃぁ!」
その場にいる人型艦艇(伊吹や敷島など、人の形をした艦艇)は嬉しさのあまり、拳を突き上げる。
「今回は解散、出撃準備、編成に入っている艦に通達だ」
「了解しました!」
会議は間もなく終了し、参加した司令長官と旗艦は地下指揮官作戦室から急いで出て行った。