ディフェンダー大隊
月日は流れ、7月となった。ドイツ第四帝国は、着々とヨーロッパ占領作戦「ビスマルク作戦」を進めていった。今やまともに戦っている国家はイギリスを始め、フランス、ドイツ、イタリアそしてロシアしか残っていなかった。だがいずれの国家もよく戦っている。資源も通信も絶たれている中でもそれぞれの国家が孤軍奮闘していた。
一方の第四帝国は、南極大陸を拠点に、オーストラリアの1/3の領地、アフリカ大陸や南アメリカ大陸を手中に収め、今やその勢力は拡大していく一方であった。ヨーロッパのほとんどを手に入れた第四帝国は、国境に兵団や師団を配置させ、日本に総攻撃を仕掛ける準備に入るのであった。
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対馬鎮守府が位置している対馬島南部では日に日に爆撃機が飛来し空襲するようになっていた。
曾山司令が率いる14機の精鋭戦闘機軍団・『ディフェンダー大隊』(曾山機、2,3番機はFX-3ナイトイーグルでそれ以外はF-35C)は、来襲する時は決まって全機が出撃し、50機以上の大編隊のうちの8割を撃墜してくるほどであった。
他にも鎮守府所属の横山彰二大佐率いる『独立海兵隊』(以後、独海隊と呼称)の高角砲部隊や戦闘機隊、ヘリコプター部隊も援護として回っている。防空識別圏や哨戒機は常時上がって入るもの、第四帝国が開発した、最新鋭の大型生物艦載爆撃機禿鷲というステルス性の高い爆撃機が哨戒網を突破して、対馬に侵入しているのだ。そこで対馬鎮守府は、岩崎重工に新型レーダーの開発を頼んだ。約10ヶ月後、レーダーは鎮守府に届き、早速配備された。
「このレーダー本当に役に立つんですか、隊長?」
レーダーの設置作業場を見上げ、そう言って疑うのは岩本和弥中尉。独立海兵隊の第三歩兵中隊中隊長であり、戦闘通信兵の経験を持つ。普段から横山大佐と行動することが多く、酒を交わす仲である。
「それは実戦に移さないとわからんよ」
「そうですよね、早くコイツの性能を拝んで見たいものですよ」
岩本中尉は胸が躍り、敵機はまだかと待ち侘びていた。それに対して横山大佐はなるべくは来て欲しくないが、レーダーが実戦で機能するかのテストを早くやって性能を確かめたいという複雑な気持ちであった。
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「対馬まであとどれくらいだ?」
「ざっと計算して400マイルくらいかな?」
ダブルの問いかけにヴィッツが応じる。後ろでは相変わらず自由にやっている氷雪艦隊の空母群。生物艦載爆撃機禿鷲に餌をやったり、戯れたりとやる時はきっちりやるのだが、普段は何かと自由な連中だ。
「そろそろ禿鷲上げろ」
「了解しました、ヴィッツ様」
ヴィッツは自分の禿鷲と直掩戦闘機型の黒烏を発艦させる。それに続けて他の空母も黒烏たちを空へと羽ばたかせる。その編隊をヴィッツは何を考えているかは分からないような、澄んだ目で見つめていた。
世界統一、惑星国家建国。それが第四帝国の目的であり、為さなければならないものである。
ーーー全ては大総統のためにーーー
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「防空レーダーに多数の反応あり!禿鷲の爆撃隊です!」
「音数80を確認!機数は少なくとも80機はいます!」
「距離およそ120マイル!」
防空電探室では緊迫した状況が続いていた。レーダー員たちは悲鳴に近い声を次々と上げて報告する。その報告は次から次へと鎮守府首脳部にも届いた。
「困ったものだ…、タイコンデロガやキング・ジョージ5世たちが頑張って応戦しているがここに来るのも時間の問題…」
頭を抱えるように悩む首脳部。いつもならば簡単に片付くのだが、この日に限っては空母からの発艦。被弾時に空母に帰還すれば、修理して再武装を済ませ、また発艦すれば波状攻撃が可能になる。そうなれば終わりは見えない。
「俺がディフェンダー大隊を率いて出る」
「曾山元帥!それはなりません!」
新島参謀少将は勢いよく席を立つ。だが曾山司令の意思は固い。「誰かを守る」と言い出せば、言って聞かない。それを了承した黑川大将は、ディフェンダー大隊の出撃に賛成した。伊達中将や零条中将も賛成した。
(ありがとう、みんな…、ありがとう…)
曾山司令は何度も何度も心の中で礼を言った。仕方なく新島参謀少将も了承する。
「死ぬなよ、曾山さん」
伊吹が曾山司令の肩を叩いてつぶやく。それに対して「死ぬ気なんてないよ」と答え、 曾山司令は急いで格納庫の方へと走っていった。
「ディフェンダー1、ディフェンダー大隊。出撃する!」
FX-3ナイトイーグルとF-35Cは轟音を立て、爆撃隊を迎撃すべく、滑走路を飛び立っていった。