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距離50m

 SV-98、Gew98等を装備した1人の狙撃手は氷雪艦隊に占領されている佐渡島へ向かった。

「こちら、ジャック・ザ・リッパ-。狙撃を開始する」

『了解、武運を祈る』

(いきなり狙撃任務とか…。一体どこの誰が指示したんだよ。5年間暗殺だの狙撃だの空戦だのやってないからな…。とっとと終わらせて帰るか)

 無線で任務の開始を伝え、小高い丘から、一か月で粗方築き上げたという要害を、スナイパースコープ越しに見つめる。

「どれどれ、タレットが2門、見張り台3つに見張りが6人。しかも個人装備にL85って、鹵獲装備だなコリャ。それに加えて巡邏に軽装甲車のY-12重機関銃付きっか…。これは正面門から侵入するのは難しそうだな…。側門に移動するか」

 曾山司令が移動しようとしたその時、誰かが拳銃を首元に突き付けた。

(この音はデザートイーグルか…?第四帝国の装備にデザートイーグルは無かったはず…。じゃぁこいつは誰だ?)

 曾山司令はSV-98を置いてゆっくりと両手を挙げて振り合える。その目に移ったのは、同郷であり旧友の梶尾先彦(かじおさきひこ)瓦井波留(もといはる)であった。

「元気にしてたか?ジャック…。いや、曾山先輩」

「おぉ、梶尾。それに瓦井!何でここに?」

「暗殺任務に決まってるだろ。つい3日前までここで働いてたから構造は把握している。案内する、ついて来い」

「やっぱ頼りになるな、梶尾。戦車連隊長の仕事は捗ってるか?」

「その話は後ででいいだろ?」

 笑いながら梶尾の後に続く曾山司令は、基地の西門から入ることにした。西門方面は草むらが多く、ステルス潜入にはもってこいの地形や環境が整っていた。草むらに入って3分ほど歩いたところで移動をやめた。巡邏が2人話しながらこちらに歩いてくる。先ほどの偵察で粗方詳細は分かっている。ナイトビジョンのスコープであったから、夜でも狙撃ができるのだ。武器はAK-47、手榴弾を2発とサバイバルナイフを装備している。

 SV-98は消音器(サプレッサー)を装備しているので50ⅿ先は聞こえない。狙撃するなら絶好の機会だ。

「俺が右の見回りを殺る。梶尾と瓦井は左の見回りを捕らえてくれ」

「りょーかい」

 SV-98の残弾数を確認する。流石に一発も撃っていないので、マグの中は弾丸でいっぱいだった。

「そんじゃ、5年ぶりの1発目…」

 匍匐の姿勢になり、トリガーに指をかけ、深く深呼吸をして照準を固定する。まだ巡邏は気付いていないようだ。上機嫌に話しながら近づいてくる。次の瞬間だった。曾山司令の狙った巡邏の脳天に鉛玉が命中、脳を潰し、うっ、と短く低い唸り声を上げて反動で後方に飛ばされる。

「おいどうした!?しっかりしろ!」

 もう1人の巡邏は背後から忍び寄る2人に気付いていない。

「動くな」

 瓦井はサバイバルナイフを首元に突き付けて、梶尾はデザートイーグルの銃口を向ける。そこに曾山司令も姿を現し、1対3という形になった。

「お、お前たちは…!」

「あぁ、つい3日前までここにいたアンタらの捕虜だよ」

「さてと、ここで殺しても良いんだが、1つ聞きたいことがある。ここのホフマン・ゲーリング少将はこいつで合ってるか?」

「そ、そんなこと俺は知らない!」

「嘘つくなよ、ここに居るんだろ?なぁ!?」

 梶尾が興奮しながら顎地突き付けた銃に力を加える。流石にこれ以上口を固くしてても死ぬだけだ。俺には家族がいる。家族のためにも死ねない。仕方ない、ここは潔く情報を言うか。

「分かった、話す。話すからその銃を下ろしてくれ」

「あんたの話の内容次第ね」

 瓦井が冷たい口調で話す。

「お前たちの言う通り、ここの特設駐屯地の司令はホフマン・ゲーリング少将だよ。普段は司令室にいるんだが、今日はあいにく客が来ててな。時間的にはもう帰って来るとは思う」

「そうか、情報提供感謝する」

 そう口にした曾山司令は消音器(サプレッサー)を付けたM1911のトリガーを引く。情報をはいていた彼の脳天を弾丸は駆け抜け、ヘルメットは草むらの方へと落ちていき、崩れ落ちる兵士。頭を打ち付けたその周辺には、血が流れる。

 梶尾も瓦井も肝を抜いた。昔は物静かで優しい口調でみんなに親しまれていたあの曾山が、まさかこんなことをするとは思ってもいなかった。敵に情報をはかせたうえで殺すという、そんな事をするとは思っていなかった。

「なぜ彼を殺した!?」

 梶尾が厳しく巡邏に問い詰めると、曾山司令は冷たく言い放つ。

「あのまま仮に開放してそのまま基地の上官たちに知らされると、こちらが不利になる。下手したらこっちが死ぬ」

「その時は入る前にまた捕まえればいいじゃない!」

 瓦井も興奮気味に言う。それについて、曾山司令も黙って聞いているわけではなかった。自分の命令を自分で出し、敢行したまでであった。何が悪い。全てはこの日本という四季の美しい平和な国を守る為。その為になら、私情も殺さねばならない。私情に流され、向こうが全面攻撃に入ると、今度はこちらが不利になる。そしたら、例え対馬、仙台、函館、根室の元支部と日本4大鎮守府が頑張ったところで意味はなく、崩壊待ったなしだ。

 『致し方ない犠牲』と一蹴してもいいのだが、それでは、今まで戦って死んでいった戦友が氷雪艦隊・第四帝国と一緒になってどうも曾山司令は1つの鎮守府を預かっている提督として、心地よくなく感じる。だが、同時にどこか同情もあった。

「さ、もう行くぞ。敵に見つかっちまっては元も子もない」

「そうだな。それだったら先輩、いい狙撃地点を知ってる。ついて来い」

「流石梶尾だな、道案内は任したぞ」

 梶尾と瓦井、曾山司令は基地の西門からステルス潜入を開始、門は難なく突破した。見張り員は背後から近づき、瓦井と梶尾がナイフキル、トドメに曾山司令がゼロ距離でデザートイーグルを撃つ。

「うっ!」

 途中で基地内の警備員を何人か殺害してから、基地の施設内に突入する。

 梶尾曰く、この建物の5階から、指揮官室が見えるという。曾山司令も下調べはしていて、大体の構造は頭に入っている。問題はどうやって5階まで上がるかだ。不通に階段を使うと目立ちすぎるし、かといって通気口内をはっていくとなるとこの狙撃道具一式を詰め込んだバッグは大きすぎてはいらない。

 しかし、ここで任務を諦めるわけにもいかない。そこで、曾山司令はある方法を思いついた。それは、第四帝国の海兵旅団に変装することだ。幸いにも、バッグは海兵旅団から鹵獲した装備。防弾チョッキやヘルメットなどもすぐ近くに海兵旅団の倉庫があるので手に入る。早速彼らは倉庫へと向かい、装備一式を装着する。身長が160有るか無いか解らないほど小さい美女でも切れるサイズはあった。

「お、波留ぅ。似合ってるじゃねぇの?可愛らしくなってさ」

「わ、私は可愛くなんてないっ!あ、アンタに言われても嬉しくなんか…。アンタに言われても嬉しくないったら…!」

「そういうとこがたまらんのよな~」

「う、うるさいっ‼」

  性格的にツンデレに似ているな瓦井波留という美少女と20前半の梶尾先彦という男は、実質的に恋人同士と言っても良い関係であった。それは曾山司令が故郷を出る前から変わっていない。今も上手くやっていけているようだ。何だか昔に戻ったようで曾山司令は安心する。

「ほら、バカみたいな事やってないでそろそろ出るぞ」

「はいはい、いつでも行ける」

 全員がしっかり装備を着用したのを確かめ、倉庫を出る。あまりにも堂々としていたので、誰一人として、鎮守府の司令官が潜入しているとは思ってもいなかった。

 5階まで上がり、いよいよ狙撃の時。曾山司令は父から教わった「足の膝の上に左腕を乗せ左肘を銃座にして狙撃する」といういわゆる“ハスコックスタイル”の狙撃体勢を整える。

 曾山司令の父は元アメリカ海兵隊武装偵察部隊(フォース・リーコン)の隊長で、あの伝説的なスナイパー、カルロス・ハスコックから直接狙撃術を教わり、それを曾山司令も父から教わっていた。ハスコックが2013年に世を去ってから(実際は1999年に死亡発表されているがこの世界では2013年まで生きている)は、父・曾山時隆そして昭弘へとハスコックの技術は伝承されていった。

「よし、始めるか」

「おっ、とうとう暗殺者一族最強の狙撃が見られるのか!」

 鎮守府司令の肩書を忘れた彼は、静かにスコープを覗き込んだ。

「こちら、ジャック・ザ・リッパー。狙撃ポイントに到着。これより狙撃を開始する」

『了解』

 無線をいれて狙撃開始を報告し、再びスコープを覗き込む。


「…そうか、なら佐渡島の西と南側に増援が来次第部隊を展開させる。それまでは佐渡島北部が落とされないようにしろ、念の為南部は24時間体制で監視だ。それと、対馬鎮守府からの諜報員の情報をしっかり報告してくれ。」

「はっ、早速各部隊に通達します」

「うむ、ご苦労。頼んだぞ」

「心得ました!」

 予め、仲間に盗聴器を仕掛ける様に頼んでいた|ジャック・ザ・リッパー《曾山司令》は司令官室の会話の内容を、耳につけたイヤホン越しに聞いていた。

 スコープの先では、ホフマン少将と誰かの影が確認できた。報告だろうか。1人の人影は、敬礼をして部屋の奥に消えていった。

 ホフマン少将以外誰一人として司令官執務室には人影は確認できない。これで絶好の狙撃条件は整った。風は東に3メートル。そこまで強くはない心地よいそよ風だ。

 曾山司令は、心を潜入する時から悪魔にすると決めていた。私情に流され、任務を遂行できなくなると、この先作戦を立てる時に厄介になる。目の上の瘤はどうしても早く潰しておきたいものだ。

 曾山司令の狙撃の姿勢はまるっきりハスコックであった。右ひざを立て、左腕を台の代わりにして体を丸めるような狙撃の姿勢。ハスコック、曾山司令の父、そして曾山司令へと伝わったこの撃ち方は肩への負担が大きくなるために、そう真似できるものではない。

 何一つ変わらぬ表情を見せる、この体制のスナイパーたちは腕はともかく、体感も体力も超人的に鍛え上げられている。いわゆる()()()()だ。

 スゥっと深呼吸をして照準を固定する。

 目標は、提督室の椅子に腰を掛けている。今だ。引き金に力を入れる。

 火を噴くSV-98。風に流され意のままに飛んでいく弾丸は、窓を割り、ホフマン少将の頸椎へと吸い込まれていく。カーテン越しだったが、脳の一部が飛び出し、血が窓ガラスにベトリと付着する。

 生々しい、グチャグチャっと言う音をイヤホン越しに聞こえる。悲鳴を上げる間もなく、彼は絶命したのを確認した。

「こちら、ジャック・ザ・リパー。ターゲットの排除完了」

『了解した、任務遂行感謝する』

 最後の無線を入れ終えた曾山司令は、「よし、帰るか」と言う。

 思ったよりも容易い任務であった。今までは警備が厳重すぎる暗殺を多くしてきた。それに比べれば、今回は簡単であった。

 階段を降り、屋外に出る。すると、外は司令官が暗殺され、混乱状態に陥っていた。

 3人は目立たぬように、移動するのだが、警備の1人が、「お前ら何をしている」と尋ねられた。

「何って、警備ですけど…」

「海兵旅団は警備はしない!お前は何者だ!?」

 1人の海兵旅団員が大声を上げる

(仕方ない、ここで始末するか…)

 命の危機を感じた梶尾はデザートイーグルで頭を撃ち抜く。その音が周りにいた兵士にも聞かれ見られ、AK-47で攻撃してくる。

 アホか、何で今撃つ。今撃てば周りに見られることくらい子どもでも分かる。なのになぜ撃った。

 曾山司令の頭の中で、そんな思いがよぎる。

 曾山司令は、手持ちの4倍スコープと50マガジンを付けたFNーSCARでPTボートまで応戦する。夜での戦闘なので、ナイトビジョンや曳光弾を使用する。

「何で梶尾はデザートイーグルを撃った!?」

「俺もさっぱり分らん、思い返してみれば、焦ってたんだと思うぜ?」

「疑問形で返されてもなぁ…」

 押し寄せてくる第四帝国陸軍や海兵旅団をたった3人で相手するのは厳しい。だが、そんな厳しい状況下でも、談笑をして苦しみを顔に出さないようにするのが、梶尾の面白い所でもある。口数が単に少ない瓦井にも、良くふざけているお調子者であり、自重を知らないというところが少し面倒なとこである。

 体のすぐ真横を曳光弾が掠める。冷や汗が額から頬を伝って土の地面に落ちる。第四帝国の海兵隊や憲兵隊は基地から出ても機銃付きの装甲車、歩兵輸送トラックなどが追って来る。トラックや装甲車は地雷で、トラックの荷台にいる兵士や機銃手は手持ちの軽機銃や拳銃で頭を潰す。血飛沫が夜空を(あけ)に染め上げる。

 瓦井も、その身軽さゆえトラックのボンネットに乗り、時差式の粘着爆弾をつけ、飛び降りて受身を取る。暫くしてから、トラックが爆音を上げて爆発し、瓦井は爆風と熱を感じた。

 撃ち合いが始まって30分が経過し、PTボートが見えて来た。3人は急いでPTボートまで撃っては走り、撃っては走る。追手を撃ち殺し、ほどなくして、一行はRTボートに乗り込んだ。一早くここから脱出したいものだ。

 曾山司令はPTボートのエンジンを入れ、最大戦速、面舵を取る。梶尾と瓦井を乗せたPTボートは対馬鎮守府へと、唸りの声をあげていくのだった。

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