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プロローグ・世界の崩壊

この物語はフィクションです。実在する人物、国際情勢とは全く関係は無く、宗教的・政治的意図もありません。また、対馬支部・明光艦隊として投稿していましたが、投稿できなくなってしまったので、こちらで投稿していきます。

 2024年、9月14日。日本は中国とアメリカの台湾問題に巻き込まれつつあった。尖閣諸島に相次いで近づく中国海警や中国海軍の艦船。それらを牽制する為、そして専守防衛の為に日本国軍は再軍備された。

 それは日本国内では、蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、野党や国民の反対やデモ、過激派による暴動と混乱は続いたが、8ヶ月するとそれらも憲兵や警察の力により、次々と風の前にあるロウソクのように無くなっていった。

 日本国軍は防衛省とはまた別で独立しており、陸海空軍各省と海兵隊を統率する海兵庁は国防総省に内に組み込まれていた。

 日本国軍が設立されたその2年後。ついに中国が台湾に侵攻を開始。それを待っていたかのように北朝鮮は韓国に、ロシアはモンゴルとウクライナに侵攻を開始し、ロシア、中国、北朝鮮を中心とする陣営と、それを阻止しようとするアメリカを中心とする西側諸国(実質的な国連軍)との間で第三次世界大戦が勃発した。日本もアメリカと共に東アジアの戦い(通称、中国・台湾戦線)に参戦。初戦は中国軍に台湾海峡の制海権と制空権をを握られ、台湾本土も9割が占領されてしまう。北朝鮮も朝鮮半島を約7〜8割を占領し、韓国は、朝鮮戦争以来となる首都の京城(ソウル)が陥落し、半島先まで追い詰められてしまうと言う、非常に苦しい展開となってしまう。そんな中、2027年3月から勃発していた台湾海峡海戦。7月3日から5日にかけて起こった第6次台湾海峡海戦にて日米韓の海軍は中華人民解放海軍を台湾から撃退することに成功し、その翌月の済州海峡海戦でも朝鮮人民軍海軍を追い払うことに成功した。それにより勢いづいた日米韓は中国と北朝鮮へ報復攻撃を始め、欧州戦線でもイギリス、フランス、ドイツ、イタリアを中心にロシアに攻め込み、ウクライナを解放。その後、ロシア本土へ報復攻撃を開始し、ロシア本土攻撃が始まる。スターリングラードやソチ、ノヴゴロドなどが陥落した後も抵抗を続け、8ヶ月にわたる抵抗の末にこの3国は2030年4月に講和交渉を持ちかけさせ、勃発から4年かけ、第三次世界大戦は実質的な西側諸国陣営の勝利となった。しかしながら辛くも西側諸国も勝利しただけである。全体では、旧東側陣営(中露北を中心とした陣営)で7000万人以上、西側陣営も6300万人の軍人と民間人が犠牲になった。日本国軍も3万人の死者を出し、そ行方不明者も1万2000人を超えた。

 辛くも掴み取った勝利であったが、その代償として、日本の国際的な地位が向上しより一層、日本国軍の実力と存在意義が認められるようになっていった。

  * * *


 2034年10月14日午後5時30分、東京港フェリー埠頭。

「よし、出航ぉ!」

 大声で港いっぱいに声が広がる。

 今日は世界平和協定の一環として、国際南極観測隊がここ、東京を出航するのだ。

 第三次世界大戦が実質的な西側陣営の勝利で幕を閉じたその4年後、初めて戦勝国、戦敗国の関係なく先進国が揃って互いに国際協調を確認し合う記念すべき日である。そしてその観測隊の船が、日本の最新鋭南極観測船『そうや』だ。『そうや』は2030年に起工し、昨年に命名式を迎えた、日本の科学技術の結晶である。『そうや』の名前は旧海軍の観測船宗谷に続いて二代目である。そして今、この『そうや』がアメリカ・イギリス・フランス・ロシア・ドイツ・中国そして日本の7カ国の大国の研究者たちを乗せて南極へ向かうのである。

 3週前から一般公開と最終調整のために東京港へ入港し、3日間の一般公開を迎えたのだ。一般公開時には2000人を超えた来客数を動員した。また、埠頭の近くには多数の的屋があるスペースには人並みができて、港フェスのように賑わっていた。

 一般公開最終日を迎えても人数は増えるばかりであり、その夜も東京港には『そうや』の出航を集まった大勢の人々は手を振り各国の国旗を掲げて出航するのを見送る。東京港を離れていく『そうや』を夜空を火花で埋め尽くすほどの季節外れの花火を上げた。

「こんなに俺らに、頑張れって言ってもらってるんじゃぁ、俺らもしっかり研究結果出さないとな」

 打ち上げられては咲き、そして散っていく花火を見上げながら1人の男性研究員が呟く。すると近くに居たもう女性研究員が「そうね。私たちが研究した成果が未来の地球の役に立つように、頑張らないと!」と答える。

勿論他の研究員たちも、考えは似ていた。現在、地球温暖化が加速しており、海面はここ数年で2センチ以上も上がった。ここまで酷いことは今までにはなく、また南極には第三次世界大戦とその前の大規模な紛争により、もう10数年も観測には出ていなかった。その為、この観測の計画が国連の平和会議で出たのだ。この観測で世界各国が協力し、より良い世界を築いていけるように。そういう目的で今、多国籍観測隊は出航したのだった。


   * * *


 1ヶ月近く経ち、南極までもう少しというところまで来た時であった。1人の船員が船橋(ブリッジ)から何かを双眼鏡越しに見つけ、指をさしながら言った。

「船長、人影が...人影が見えます!」

「何?人影だと?ここは南極だし我々以外に観測隊は居ないはず。見間違えでもしたんじゃないのか?」

「そうですか...?多分疲れてるんですね、自分」

 変な納得を自分に言い聞かせて気のせいだと思い込ませる。その船員は先ほどの事は無かったかのようにまた双眼鏡で辺りを見渡した。

 そのわずか10分後、先ほど船員が言ったそのまた人影を見た。幻覚だろうと思っていた今度は船長の目も()()をはっきりと写していた。黒い人影を。その瞬間、船長は何とも嫌な寒気と予感に襲われた。その次の瞬間だった。船体の近くで急に水しぶきが上がった。そして時間差でドォォン!という何とも不気味な音が響いた。船長は察した。これは砲撃だと。船長は第三次世界大戦時に海軍軍人として先頭に参加しており、砲撃音や雷撃音は4年経った今でも鮮明に覚えていた。その時の記憶が、彼の頭の中からふつふつと湧き上がってきていた。そして、全てを察した。先ほどの人影が攻撃してきているのだと。しかしながら目的は分らない。急に砲撃をしてきて状況が掴めていないので無理もない。しかし船長はすぐさま指示を出した。

「取り舵一杯、機関最大!このままオーストラリアまで避難する!日本政府に連絡しろ!一応非常閉鎖させ、研究者を安全区域へ退避されよ!」

 船長の悲鳴のような叫び声が船橋(ブリッジ)に響く。何が何だか船員たちも理解ができていないが、只々船長の指示に従った。

 取り舵を取る。

 その勢いで全身が一気に右に延伸力が働いて全身が引っ張られ、それと同時に右に船体が傾くのを感じた。

 皆、命の危険を感じていたのだ。なんとか魚雷は船の両舷(右と左の両方)のスレスレを通って船尾の方へと消えていった。

 いくつもの人影が海面を走っている。そして、それは普通の船のサイズではなく、明らかに人と同じ大きさだった。その人影に何度も攻撃され、必死になってそれを振り切っていた。5日が経ち、オーストラリアが見えて来た。1人の船員が、大声を張り上げる。

「やったぞ、助かった!」

 子どものように大はしゃぎすると他の船員も涙ながらに喜んだ。しかし、その喜びもつかの間、見張員の男性が無線で船橋(ブリッジ)に報告を入れる。

「左舷見張台より船橋(ブリッジ)へ!数日前の謎の武装をしている人影が現れました!」

 船長は驚きの表情を隠せず、冷静さを欠いたように船橋(ブリッジ)内の左舷のガラスの向こうを双眼鏡で見る。そこにはこちらを鋭い瞳で見続ける白と明灰色の服を着た男女がこちらに向かってまっすぐ向かってくる。そして、再び船長が回避行動を取るように指示を出そうとしたその時だった。

 ドォォォォン!何かが爆発したような音がしたのだ。そして、ギシギシ、と不気味な音と共に船が少しずつ傾いているのを感じた。

「報告!船体に亀裂が入り浸水が止まりません!」

「先ほどの人影が放ったとみられる魚雷が左舷に命中し、多数の負傷者が出ています!」

 次々と入ってくる生々しい報告。その場にいた船長も船員も背筋が凍るような感じがし、船長はボソリと呟いた。

「全員、救命ボートに乗れ。オーストラリア海軍がすぐ近くまで来ている。急いで乗り込め」

 その震えて脱力した声に、船員たちは返事をしなかったが、船内放送を入れ、乗員及び研究員は速やかに退避するように促した。

「船長、早く!このままではみんな命の保証はありません」

「あぁ、分かった」

(どうして、どうしてこうなってしまったのだ…。この調査船(フネ)は軍事用ではない。ただの()()調()()()だぞ…?)

 船長は救命ボートに乗り込む時もそう自問していた。しかし、答えは分らなかった。『そうや』が沈んだ今、ろくに食料を積んでいないこの救命ボートでは数日生活する事だけで精一杯だろう。このままでは皆いつかは死ぬ。そう艦長は思った。その時、すぐ近に小型のボートが数隻近づいてきていたのだ。オーストラリア海軍の救助隊すぐそこまで来ていたのだ。『そうや』に乗っていた船員と研究員は無事救助された。しかしながら日本の技術の結晶である『そうや』と国際平和協定によってやっとの思いで歩み寄れた大国同士の揃った足並みも崩れ、海の底へと沈んでいった。

 南極観測船『そうや』が沈んだこの「『そうや』沈没事件」以降、謎の艦隊が一挙に世界の海域に現れ、世界の制海権を奪い、世界各国に攻撃を仕掛けていた。この艦隊は雪や氷の多い南極で目撃された為、『氷雪艦隊』と呼ばれ、黒っぽい見た目もあり、別名『暗黒艦隊』と呼ばれた(以後、第四帝国と呼称する)。この艦隊は、まだ第三次世界大戦の爪痕が生々しくのこる2030年8月15日に南極を実効支配し、一方的に独立を宣言した未承認国家、ドイツ第四帝国の所属の『人型艦艇』と呼ばれる、2023年末ごろから確認されていた、在りし日の艦艇の魂を持つ少年少女たちだった。

 第四帝国軍の侵攻は計画的であった。アメリカやロシアなど、未だに世界に多大な影響を与え続ける諸大国の軍事偵察衛星を迎撃ミサイルで残らず撃ち落とし、海洋ケーブルやパイプラインを切断。おまけに制海権が第四帝国にある海域での通信は常にジャミングされ、第四帝国以外抜け穴がない限り不可能であり、更に第四帝国の攻撃は凄まじく瞬く間に戦火を広げていった。当然その力に屈し、降伏する国も現れた。侵攻開始からわずか半年でオーストラリアと南アフリカ共和国を除く南半球全土を領土としたばかりではなく、アフリカ全土と一部中東にまで侵攻していた。制海権が第四帝国に握られようとも、依然として孤軍奮闘している国もあった。無論日本もその一国であった。しかし、周りを海に囲まれたイギリスや日本、フィリピンなどの島国に多く見られたこの輸送支援も断たれ、完全に孤立した戦いは国民を苦しめるしして、無意味だと思われた。


    * * *


 3035年の1月26日。日本小笠原諸島の硫黄島沖200キロの海域にて、硫黄島沖海戦が勃発した。海上自衛隊のもがみ型護衛艦、『こんごう』型護衛艦、はつゆき型護衛艦、日本国海軍第八艦隊の新鋭航空母艦のながと型航空母艦、やましろ型ミサイル巡洋艦など、計40隻を超える新鋭、精鋭艦艇と、硫黄島基地から出撃したF-2改やF-15Jが計50機が出撃し、待ち構えていた。これらが第四帝国を迎い撃った。海自も空自もいずれも扱きに扱かれた精鋭中の精鋭である。

 垂直尾翼にはいかにも日本的な旭日を背にした交わった2本の刀のマークが入ったものがあれば、シンプルにキツネにしたものまで様々あり、それを航空兵たちは非常に気に入っていた。彼らはその銀翼を連ねて、キラキラと輝く海面を20000フィート(約6096メートル)の高度で編隊を組んで飛行していく。

 そして10分後に黒烏(からす)をレーダーで捉えた。

 黒烏(からす)は偵察、制空、爆撃に雷撃と全てをこなせる多用途戦闘機(マルチロール機)であり、その運動性能やバリエーションの豊富さから『()()()()()()()』とコードネームがつけられていた。

 F-2改とF-15J改二の混合編隊は第四帝国海軍航空隊に向けて遠距離ミサイルを発射する。ほぼ同じ時間に第四帝国からも発射された。曇りのない真っ白な煙を引いたミサイルが、薄汚れた灰色の煙を引く航空隊に向けて飛んでいく。航空隊は散会する。ある機は回転(ロール)をかけ、ある機はチャフとフレアを撒いて急旋回をして避ける。それは第四帝国も同様だ。しかし、すかさず中距離ミサイルを日本側は撃ち込む。

 彼らはこの日をずっと待っていたかのように高揚し、戦意はかつてないほど上がっていた。

「シーカーオープン。FOX(フォックス)2、FOX(フォックス)2」

 F-2改とF-15EJ改二はハードポイント(主翼下に取り付けられた爆弾やミサイルなどの追加武装を取り付けるための懸架器具)から空対空ミサイルを発射する。レーダーには自分の機体から飛んでいくミサイルの形を模した影が逆三角形の敵編隊に向けて飛んでいく。

 その逆三角形と影が接触すると三角形の方が消える。それは撃墜を表していた。その後も、面白いように黒烏(からす)は撃墜されていく。しかし次々と墜ちていく黒烏(シリアルキラー)の姿を見て、空自のパイロットたちは疑問が1つ、脳裏に浮かぶ。それはなぜミサイルが来ているのにも関わらず、ロールをかけず、フレアもチャフもばら撒かないで大人しく撃墜されていくのかと言うことである。

 そうしている間にも、日本側の制空優勢は確実になっていく。日本の方が地の利や戦意などの条件もあり、圧倒的に有利かと思われた。しかし、数時間も経つと、第四帝国軍(ヤツら)の本性見えてきた。第四帝国軍はの目的は、じっくりジワジワと攻める、長期戦に持ち込もうとしていたのだ。それに気づかなかった艦隊は、まんまと第四帝国の策略にハマってしまったのだ。

「こちらバフ4!被弾した、うわぁぁ…!」

「バフ4!こちらながと。応答せよ、応答せよ!」

 F-15EJ改二のバフ隊のバフ4のコードネームのパイロットに応答を求める。しかし、ながとのCICには虚しく砂嵐音だけが響いた。

「全艦に対空戦闘始めと送れ」

 日本国海軍第八艦隊旗艦ながとに乗艦する司令は艦橋からCIC(戦闘指揮所)に場所を移し、随伴するやましろ型ミサイル巡洋艦のふそう、やましろ、いよ、いなば、ちくごにSAM(艦対空ミサイル)を発射するように指示を出した。

「全艦、SAM撃ちー方ー始めー!」

「撃ちー方ー始めー」

 ロケットエンジンを搭載した誘導型の鉄の矢は、随伴巡洋艦から各3発、計15発撃ち出された。

 しかし、指示は遅くあっという間に形勢は逆転された。

 航空機が次々と堕とされていくのだ。しかも、1機2機の話ではない。空自の精鋭航空隊がまるで花火のように火煙を、あるいは爆発四散してその破片を散らしながらドボンドボンと音を立てながら海へとダイブしていくのだ。

 それを見ていた海自と海軍の艦隊の元にも黒烏(からす)の雷撃隊が海面スレスレまで高度を落として接近してくる。丁度護衛艦隊の右の横っ腹を突くような形で突っ込んでくるのだ。その数は前代未聞の30機。

「1番から6番垂直発射装置(VLS)シースパロー、発射!」

やまゆきが計6発の艦対空ミサイルのシースパローを発射する。しかし、やまゆきの武装は62口径76ミリ単装速射砲を1門、Mk.15mod.2高性能20ミリ機関砲、CIWS(ファランクス)を2基にGMLS-3シースパロー短SAM8連装発射基が1基という、30機の航空機を迎撃する能力は全くと言うほどなかった。それでも抗うのは、ここでやらなければ「いつどこで抗うのか、国が滅ぶ危機かもしれない」と言う今そこにある危機を感じていたからだ。

「インターセプトまで10秒!10、9、8、7、6、5、4、スタンバイ!」

 追尾担当士官が迎撃までの時間(インターセプト)のカウントダウンを行う。距離が3000メートル程先でディスプレイから6つの光点(フリップ)が消滅する。

「マークインターセプト!」

 6発全弾が命中し、爆散していくのが艦橋からは見えた。

「こちら右舷艦橋(ブリッジ)。6エネミーズキル」

「よっしゃぁぁー!」

 CIC内が歓喜に包まれる。しかしまだ24機残っている。もうやまゆきのシースパローは2発しか残っておらず、他の艦も主砲やシースパロー、CIWS(ファランクス)を撃って撃墜を試みる。その時だった。

「方位230(フタサンマル)!行動3000から急降下の編隊あり、数40!」

 それは、ミッドウェー海戦時のアメリカの戦法そっくりだった。ミッドウェー海戦でも、雷撃機を囮にして、その対処を行なっている間に急降下爆撃機が日本海軍連合艦隊の上空まで接近し、奇襲によって赤城、加賀、蒼龍の3隻の空母を一挙に失うと日本にとっては言う痛ましい結果を出した海戦だった。

CIWS(シウス)作動、迎撃急げ!」

 やまゆきに搭載された2基のCIWS(ファランクス)が砲座を左へと回転させ、ほぼ真上にその口を向けて、曳光徹甲弾を撃ち込んでいく。もがみやはつゆき、ながとなどの艦も文字通り全力で迎撃を行なっていた。しかし全てを対処できるはずもなく、爆弾の多数が護衛艦の多数に命中する。

 そして、はつゆきは燃え盛る炎の塊へと変貌し、もがみはVLSが誘爆を起こし沈みはしなかったものの、炎上をして戦闘継続能力は残っていなかった。やまゆきは艦首が船体から外れ、大爆発を起こしている。ながとは運よく爆撃が外れて、損傷は至近弾の爆風による艦体のへこみ程で済んだ。そして、次の標的は、こんごうだった。

 海軍の方は、応援に行きたいが他の第四帝国艦隊が行く手を阻み、強行突破をしようと全力で戦闘中であった。

「艦長、我々に攻撃を集中しています!」

「シースパロー発射始め!」

 こんごう砲雷長が艦橋真下のVLSからシースパローを撃つようCICに指示するが、一瞬でCICから返事が返って来た。

「ダメです、間に合わない!」

「それなら主砲で迎撃しろ!それもダメなら、CIWS(ファランクス)だ!」

「主砲攻撃始め!用意、撃てェ!」

 砲雷長の焦り気味な声がCICをこだまする。オートメラーラ127ミリ砲の砲声が艦橋に響き渡るその刹那、爆発音が500mも満たない所でした。

「マークインターセプト!」

 無線でCICから聞こえたその言葉でほっとしたのか、艦長はほっと溜息をき、冷や汗を拭いた。しかし、劣勢なのは変わらない。こんごうにもう一波、砲撃の嵐が来る。今度はシースパロー、主砲で何とか殆どを落とせたが、一部はまだ落とせず、CIWSで対応。しかしそれでも落とせない。もうダメだと『こんごう』の艦長が思った次の瞬間だった。ズガガガーン、と右舷で砲弾の炸裂音がした。艦橋に居る全員が右舷へ顔を向けると、水上を若い少年たちが抜刀をし、小さな航空機を出して駆け抜けていくではないか。その航空機は白に近い明灰色の機体下に増槽を搭載していた。形からして零式艦上戦闘機(通称、零戦)や流星艦攻、彗星艦爆や震電33型と言う噴進式の幻の艦載型の戦闘機まで多種多様であった。

「オラ!くたばれ大四帝国が!」

 薙刀を持った170センチくらいの男が第四帝国の人型戦艦に接近し、上半身と下半身を真っ二つに斬ると、その返り血がその男の顔や服にベットリと付着する。しかし、その男は気にしていないようであった。

「我が刀の切れ味はどうでありますか!?」

 薙刀の男よりも更に低い160センチ代の黒と白のオッドアイの目をした大鎧を着、額当てをつけた侍のような男が人型駆逐艦の頭を叩き割る。その斬りつけられた人型駆逐艦は、真っ二つに割れた頭から赤黒い血を吹き出しながらその場に膠着する。その直後に旧帝国海軍時代の12糎単装砲をその人型駆逐艦の腹部に2、3発撃ち込むと、そこから血を吹き出しながら背負っていた艤装が炎上しながら海の底へと消えていく。

 次々と第四帝国の人型艦艇に突撃をする者もいれば、遠方から支援砲撃する者、ひたすら航空機を出して支援を行う者もいる。武装は背中や肩、腕などに着け、水上を滑ったり、走ったりして第四帝国の海軍に接近して撃滅していく。『こんごう』の艦長たちは夢でも見ているのではないかと思うほどであった。人型艦艇の艦艇の殆どは即座に斬られたり、主砲によって航行不可に陥れられた。その内、その艦隊の旗艦らしき者が、こんごうの艦橋の方を顔だけ向ける。すると艦長と目が合った。目は赤く、薄い水色の長い髪を垂らした女性のような顔立ちの人だった。右腕には何やら重そうな黒い追加装甲(アーマー)を着け、左肩には飛行甲板が付き、しまいには矢筒と弓まで持っていた。彼はこんごうに通信を入れた。

「護衛艦こんごうの皆さん、俺は司令部より『当海域へ出撃し、決戦艦隊を援護せよ』との司令により推参した対馬鎮守府の総旗艦である伊吹だ」と言う言葉に続いて小さく「まぁ軍事機密だったから仕方も無いが…」と聞こえた。

 凛々しく少年の声と裏腹に、10代後半から20代前半の女性に見える、伊吹と名乗る少年は自分の所属部隊を名乗ると共に、なぜここに来たかなどの経緯を話した。その詳細は海上自衛隊が知るわけもなく、人型艦艇と言う存在自体すら、知らない隊員も多くいた。

「おい、対馬鎮守府って…」

「各海域で対第四帝国戦を展開してる新しくできた四大鎮守府の、曾山昭弘(そやまあきひろ)海軍元帥が司令官のとこのだろうか?」

 艦橋内が騒つく中、こんごうの艦長は無線越しに伊吹に問いかける。

「あぁ。俺と曾山司令とは深い中でね。なんせ俺の艦長をやってたからな。まぁそんな話は置いといて、日本は今、危機に立たされている。もはや風前の灯火だ。本当に国を守りたいのなら下手に動家内で欲しい。俺ら日本国軍、人型艦艇で対処する。自衛隊の皆さんには日本近海の警備を行ってほしい。損傷も激しいだろう指揮官を勧める」

 そう言い終わるとプツリと通信は途絶えた。再び伊吹のいた所を見ると、潮風に髪を靡かせながら、指を刺して指示を出す伊吹と、それに従い残党を砲撃や雷撃、航空攻撃で処理していく少年たちが見える。ハッと気づいたその一部が『こんごう』に向けて敬礼をしていた。それに艦橋からこんごうの艦長は返礼する。そして伊吹以下艦隊はこんごう型護衛艦、もがみ型護衛艦、ながと型航空母艦などの決戦艦隊の帰投を見守ると艦隊は対馬へと帰還の途に就いたのだった。朝早くから行われていたが、今は夕陽が輝いている。

 第四帝国との戦いはまだまだ激しさを増すだろう。味方の(轟沈)や、退役もあるだろう。しかし、それも承知の上で戦っていかなければならない。

 対馬の総旗艦として一航戦所属として、その責任と誇りを忘れずに戦っていかなければならない。もう再び第二次世界大戦(あの激動の時代)に戻してはならないと古き記憶がフツフツと蘇ってくるのを、伊吹は感じていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 懐かしの架空戦記的な冒頭部で一気に引き込まれました また、艦船や航空機の描写も読み応えがあります 専門用語モリモリのセリフが飛び交う戦闘描写、大好物です 謎多き敵第四帝国に、人間がどう…
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