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ラクガキ  作者: 白月綱文
1/1

Ω

僕と彼女はほぼ全ての敵を刈り取り、残すところあと一人となった。

2人でいつもの隠れ家に戻り、今はその準備を整えている。

場所はどこがいいか、どのように戦うか、そして、どのように勝つか。

2人で、それを考える。

ガラクタばかりで生活するには忍びない研究室跡は、誰も触ろうとしないものだから、相変わらずキッチンの辺りしか綺麗にされていない。

今日の夕食は何があるだろうか、缶詰が残っていたはずだ。

そう思い、立ち上がる。

そのタイミングで丁度出入り口の扉の方から物音がなった。

ここに居るのは僕と彼女の2人だけだけど用心に越したことはないので気を引き締めて。

案の定、そこには彼女がいた。

その上、手に鎌を携えて。

その光景は、いつ見ても壁が薄汚れた白でゴミで床ができたようなここには切って張りつけたような違和感があった。

少し長い前髪越しにその青く光る真蒼の瞳と目が合った。

彼女はすぐに微笑んで口を開く。

「外、行こうか。」

それから研究所跡のやけに重たい扉を開けて外に出る。

研究所跡はビルの中にあって、電気はとうの昔に通っていない。

世界は終末を迎えて、それでも残った人達が転々と生きているだけになっている。

非常階段を降りて、更に下。4回分下がったところで、どういう訳か空いていた大穴から、倒れ込んだビルへと飛び移る。等間隔にある元は窓があった穴を踏み越えてさらに先へ彼女は進んでいく。

ビルの1階部分の側面にたどり着いたところで窓枠から中へ、足をくじかないように降りた。

そこはどこかの一室で瓦礫だらけだった。

開けっ放しで崩れて固定されてしまった横向きの扉をくぐって廊下の壁の凹凸を掴みながら器用に降りる。

エントランスらしき場所に辿りついて、壁を進みながら崩れた出入口へと進む。

出入り口自体は高低差があって跳ねても届きそうにもない高さだったけど、彼女が元々かけていたのか梯子があった。

それを登って今度はロープがあったのでそれを使って降りる。

そしてようやく、この地球本来の地面へと足を下ろした。

彼女はそこでようやく止まって、上を見上げる。

それにならって上を見上げると、暗くなった空に星がこれでもかと敷き詰められた天の川が見えた。

大きさも光の強さも様々な星が、夜空を彩る様は思わずそこに手を伸ばしてしまいたくなる。

ただ、今だけは素直にそうする訳にもいかない。

なぜなら、今まで味方だったはずの彼女はこの上ないほど殺気立っているのだから。

彼女の方に視線を向けると、同じタイミングで目が合った。

「何があったかは、分かるから聞かない。ただ、叩き切る。それが嫌なら、戦え。あたしを馬鹿にした分、切り刻んでやる。」

そう言って彼女はその頭身よりも長い大鎌を、両手で掴む。その切っ先を、僕へと向けて。

「馬鹿にしたつもりはないよ。ただ、僕の目的にはそうしないとダメだっただけで。君を生かしたのは、君が1番人間らしかったからだ。強気な行動を取る割には気が弱い、力が特に強い訳でも、器用な訳でもないのに君は鎌を使った。そして、ここまで来た。」

「·····流石に、ここでバレるとは思ってなかったけど。そろそろ打ち明けるつもりではあったから、時間が早く来ただけ。」

「··········」

返事はない。ただ睨まれている。

これ以上待たせる訳にもいけなく、僕は武器を解放した。

右手の袖口から、突然一振の大鎌が飛び出してくる。

闇に溶けるように、真っ暗な大鎌が。

それと対照的に、彼女の持つ大鎌は白い。鉄を使っているものだろうけど、手入れを欠かしていないのだろう。金属光沢で夜空の星が反射していた。

もうこの世界には秩序はない。ただ薄れて消え去っていくはずだった暴力があるだけだ。

なら、決着の方法も1つしか有り得なかった。

合図は、必要ない。

僕達は、時が充ちたのを感じ取って2人同時に飛び出した。

50メートルもない距離を一気に駆け抜ける。

そして1秒もなく互いの鎌が届く位置に辿り着いた。

彼女は大鎌を真っ直ぐ上に向けて、真っ二つに切り裂くように振り下ろそうとしてくる。

それに対して僕は大鎌の棒の部分を横にして掲げ、その攻撃を受けて横にずらしその勢いのまま横薙ぎで攻撃する、言わばカウンターの動きをする。

下から持ち上げるようにしてからの大鎌を横にしたため普通ならフェイントも含めてほぼ詰みだろうその状況。

相対する彼女が出した行動は大鎌を振るうでは無く、持ち手の棒の部分を地面に突き立てる事だった。

そのまま彼女は棒高跳びの容量で飛び上がる。

「…なっ!」

背後を取られたのに気づいた瞬間急いで横へと避けながら屈む。

ほぼ同タイミングで大鎌の刃が隣を通り抜け風を着る音が真横で響いた。

心拍数が上がり、死の気配が鼻腔を掠めていく。

それにより緊張感を体が覚えるよりも速く後ろを振り向く、飛び上がってからのすぐの攻撃となると体制的にこれ以上の追撃はない。

ただ、その隙も数瞬で振り返った時には次の一手が迫った。

それを倒れ込むように回避して大鎌の持ち手の棒を地面に刺して倒れるのを無理やり止める。

体制を完全に立て直して攻撃し始めるのと、彼女が次の攻撃をするタイミングは同時だった。

どちらも倒せる前提ではない遠心力が乗らない手と腰の力だけの攻撃、その時初めて刃がぶつかり合う。

弾ける火花と鳴り響く金属音、衝撃を利用しながらそのまま刃をぶつけあった。

武器の性能はこちらの方が上、このまま単純な攻防を繰り返すとなると間違いなく不利なのはあっちだ。

4度目の攻防で彼女は普通に大鎌を振るうのとは違う行動に出た。

持ち手の棒の下先を器用に使いこちらの刃の付け根を抑えてそのまま流れるように刃を抑えたままこちらの首を狙ってくる。

大鎌を使っての対処は不可能。このまま行くなら必ず首を取られることになる。

そう判断してすぐに武器を手放す。

そのまま大鎌から逃れるように踏み込み、彼女へと迫る。そして立て続けに3回殴打。

苦肉の策であるそれも持ち手で器用に防がれた。

すぐにくる大鎌での反撃を刃の付け根の少し下を手の甲で弾くように上に逸らし、そのまま追撃を加える。

これも当たり前のように防がれるが、先程の攻撃と同時に自分の大鎌を蹴りあげて手にしているのでそのまま片手のみで牽制程度に彼女へと振るう。

それを持ち手の棒で先程僕がやったように防いで、彼女はすぐさま距離をとった。



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