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勇者召喚という名の演目

あれから一週間が経過した。


「はいはい、みんな準備して。杖持った?衣装着た? 食べかすとかついてないよね」


私の声が召喚の間に響き渡る。この場にいる全ての者が私の方に視線を向けた。

うん、全員いるみたいね。

衣装もバッチリ!

確認を終えた私は大きく一つうなずく。


「じゃあ、台本通りお願いします」


白いローブを着た集団に指示を出す。

すると白衣の人々 は一斉に動き出した。

魔法陣のセットを中心に円形に並ぶ。


そして中心に立つ女性が手を掲げた。


「行きまーす」


間の抜けた掛け声と共に女性が手を下ろしていく。

それと同時に魔法陣から光が放たれていった。

やがて光は収まり、辺りが再び静寂に包まれる。


「……成功かしら?」


目の前に広がる光景を見ながら私はつぶやく。

魔法陣の中心にいたのは一人の少年だった。

鈴木翔也君だ。


彼はキョロキョロとあたりを見渡している。どうやら状況が飲み込めないようである。

まぁいきなりこんなところに呼び出されたら普通驚くわよね……。


よし! 

それじゃあ早速台本通り行きますか。私は一歩前に出ると、両手を広げ大袈裟な動作で話しかける。


「よくぞおいでくださいました、勇者様!! あなたのような方をずっと待っておりました!」


私がそう言い切ると同時に周囲から拍手が巻き起こった。

突然の出来事に戸惑っていた彼だったが、すぐに落ち着きを取り戻す。


「えっと……」


困ったような表情をしながら口を開く彼に向かって私は言葉を続ける。


「失礼しました。私は女神です」


そう言って頭を下げる私。

もちろんこれは嘘だ。しかしこうやって言えば大抵信じてくれるはず。

現に今だって、彼は驚いた顔をしている。どうやら本当に驚いてくれているようである。

ちょっと演技が下手かもしれないけどそこは勘弁して欲しいところね。


そんなことを考えながら顔を上げると、彼は困惑した表情をしていた。



……やっぱりやりすぎたかな? 少し不安になる私に対して彼は何かを言おうとしているようだ。


「あの、ここはどこなんでしょうか?それに勇者ってどういうことですか?」


彼の口から発せられたのは疑問の言葉だった。

良かった、思ったより混乱していないみたい。

ほっとする気持ちを抑えつつ、私は言葉を続ける。


「ここがどこかと言いますと、地球とは別の世界になります」


「別の世界!?」


「はい、そうです」

驚きの声を上げる彼に私は微笑みかける。

大丈夫だよ、怖くないよという想いを込めて。


それが通じたのか、彼は落ち着いた様子で質問してきた。


「そう……なんですね……。それで僕はどうしてここに呼ばれたんですか?」


おおっ、いい感じいい感じ。この調子でどんどん進めていきましょう。

内心でガッツポーズをしつつ、私は答える。


「実はこの世界を救っていただきたいのです」


その瞬間、召喚の間の空気が変わった。

今までは戸惑いや緊張といった感情を含んだ雰囲気であったが、今は期待や興奮

と言ったものが含まれている。


皆、演技うまいね……。

私は感嘆する。

ここまでのクオリティで演じられるとは思っていなかったからだ。

まぁそれはともかく、台本の続きを言わないと。


「えっと、僕がこの世界の救世主ってことですかね」


「その通りです」


私の言葉を聞いて彼は満面の笑みを浮かべた。飲み込み早いな......

掴みはいい感じではある。

これで後はチート能力を付与すれば完璧でしょ。


「では、まずはこの水晶に触れてください」


私は笑顔を浮かべたまま、右手をかざす。

すると手のひらから淡い光の玉が現れた。この光は触れたものを鑑定することができるという設定だ。


本物は高いので買えませんでした。


ごめんなさい。

心の中だけで謝罪をする。


「この水晶に触れることによってあなたのステータスが表示されます」


「わかりました」


そう言うと、彼は恐る恐るといった感じで近づいてきた。

そして、ゆっくりと手を近づけていく。


彼が水晶に触れた瞬間、私は大きく息を吸う。ここからが本番だ。

いよいよチート能力を与えるのだ。正直楽しみでしょうがない。

私は胸の前で両手を組む。



「す、素晴らしい!!!」

私は彼のステータス(ハリボテ)を見て大袈裟に叫んだ。

周りも私に合わせて

歓声を上げている。

どうやら上手くいったようだ。


「すごいですよ、勇者さん。レベル1でこの数値なんて!」


「そうなんですか!」


「はい! こんな人は見たことがありません!」


私は嬉々として言葉を紡いでいく。

周りの人々も同じようにテンションを上げて話している。

いいねいいね、盛り上がってきました!


「じゃあ、どんなスキルがあるのか教えてもらえませんか?」


「あっ、はい。こちらになります」


私は慌てて手元にある書類を手に取る。

本当は全て知っているのだが、こういうものは演出が大事なのだ。


「えっと、剣術、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、回復魔法、あとは……」


次々と読み上げる私。しかしここでハプニングが発生した。


「それと、えーっと、魅了……」


「魅了?」


「えっ、ああ!なんでもないです! とにかくすごいんですよ!」


危ない、危ない。

危うく本当のことを言う所だった。

私はコホンと咳払いをすると、話を切り替える。


「とりあえず勇者さんには、この聖剣を使って魔王を倒してもらいます」


「おぉ! ラノベみたいだ!」

元気よく返事をした彼を私は見つめた。

うん、いい感じに騙されてくれてるわね。

チョロくて助かった。

まぁこれからもっと騙すんだけど。



「では早速行きましょう! と言いたい所ですが、勇者様はお疲れでしょうし。今日はゆっくりと休んで下さい。 さぁ、みんな準備して!」


私の掛け声とともにメイドA、B、C役が動き出す。

台本通りだ。

そして童貞君を取り囲むと、そのまま部屋を出て行った。


よし、第一段階終了。


■■■■■■


「ふぅ〜」


私は一呼吸置くと椅子へと腰掛ける。そして机の上に置いてあるコップに手を伸ばす。中にはコーヒーが入っていた。それを一気に飲み干すと大きく息を吐いた。


「ふ〜〜......皆んなお疲れ! バッチリだったよ。特に召喚士B役の子、いい演技するね」


「ありがとうございます!」


「他の皆んなも良かったよ!」

「はい!」

「は〜い」

私の声に皆口々に答えていく。

皆満足してくれているようだ。


「それじゃあ次の段取りもよろしくね」


と言った具合で1日目は無事終了したのであった。

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