プロローグ2
「はぁ〜」
大きなため息と共に、空を見上げる。
俺の名前は鈴木翔也。
26歳童貞。職業は無職。
趣味はアニメ鑑賞とゲームプレイ。
好きなものはエロゲーと美少女。嫌いなものは特になし。……うん、特にこれといって語ることがない。
ただ一つ言えることは、俺の人生は非常に退屈だということだけだ。
「……今日も変わらない一日か」
自宅の部屋の中、窓の外を見ながらポツリとつぶやく。
窓から見える景色はいつも通り。
高層ビルが立ち並び、車が何台も行き交う都会の風景が広がっている。
だが俺の心は全くと言っていいほど晴れなかった。……別に嫌なことがあって落ち込んでいるわけでもないのだが。
強いて言えば『つまらない』という感情が一番近いだろうか? 俺は昔から刺激的なことが好きだった。
例えば恋愛ドラマとか見ているだけでドキドキするし、ラノベを読んでいる時はワクワクする。
子供の頃から常に何か新しい事を求めていたのだ。
だからこそ就職してもすぐに辞めてしまった。
仕事というものに興味がわかなかったからだ。
しかし今の世の中は不況でなかなか再就職は難しい。
そのため仕方なくフリーターとして過ごしている。
「そろそろバイトの時間だな」
スマホの時計を見ると時刻は既に16時を過ぎていた。
今日は夕方からのシフトに入っている。
まだ時間は十分にあるが、早めに行って準備しておいた方がいいだろう。
俺は部屋着を脱ぎ捨てると、着替えるためにクローゼットに向かう。
そして適当に服を選び、素早く身に付けていく。
最後に伊達眼鏡をかけて完成だ。
「よしっと……。じゃあ行くか」
■■■
「チッ、早く終われ」
俺は商品を並べながら小さく舌打ちをした。
現在、俺がいる場所はコンビニだ。
ここは家から徒歩10分程の場所にある。
近くには大型ショッピングモールがあり、多くの客が買い物に来る場所でもあった。
(怠い、帰ってゲームしたいわ)
そんなことを思いながら商品を棚に並べていると、一人の女子高生らしき人物がこちらに向かって歩いてきた。
年齢は多分17,18くらいだと思う。
少し長めの髪と制服姿が良く似合っている子だ。
「……え?」
彼女は店内に入ると真っ直ぐ雑誌コーナーへと向かっていく。そしてそのまま立ち読みを始めた。
おい、マジかこいつ。堂々と立ち読みしてるぞ。しかも凄い真剣な表情だし……。
あまりの堂々っぷりに思わず見入ってしまう。
すると彼女が突然口を開いた。
「なるほど。こういう展開になるんですね。勉強になります」
「……」
いや、何の勉強だよ。っていうか独り言凄いな。
ツッコミどころ満載の彼女の行動に呆れてしまう。
なんなんだこいつは。
その後も彼女は熱心に読書を続けている。
どうやら気に入った本があったらしく、かなり夢中になっているようだ。
まぁ他人の趣味だから別にどうこう言うつもりはないけどね。
でもせめてバレないようにやってほしいものだ。
それからしばらくして、店内に男性が入ってきた。
ヤンチャしてそうな金髪男だった。
嫌だ嫌だ、関わりたくない。そう思って目を合わせないよう作業に集中する。
「おい! 何読んでんだよ!? 今日は俺の家に来る予定だろ!」
そう言って男は先ほどの女子に詰め寄った。
どうやら知り合いのようだ。
女の子は困ったような表情を浮かべており、助けを求めるように辺りを見回している。
しかし、周りの人間は見て見ぬふりをするばかりで誰も助けようとしない。
まぁ当然といえば当然の反応かもしれない。
こんな面倒事に自ら巻き込まれに行く奴なんて普通はいないだろう。
だが俺は違った。
ラノベを読み漁った俺ならわかる。
これは彼女を助けて、良い関係に発展するイベントなのだ。
「お客様、どうかされましたでしょうか?」
俺は出来るだけ平静を装いながら、二人に声をかける。
その瞬間、男が鋭い視線を向けてきた。
「あぁん? てめぇ誰だ! 邪魔すんじゃねぇよ!」
いきなり怒鳴ってきたよこの人。
ちょっと怖いんだけど。
しかしここで怖気付いてはいけない。あくまで冷静に対応するんだ。
「申し訳ございません。店内で騒がれますと他のお客さ……」
「うるせーんだよ!黙ってろ!!」
俺の言葉を遮って再び怒声を上げる男。
うわっ、もう帰りたい。
しかし、ここで負けるわけにはいかない。
「あのですね、私はただ注意をしているだけであって……」
「だからうるせーっつってんだろうが」
男は顔を真っ赤にしながら俺の胸ぐらをつかんだ。そして力任せに揺すり始める。
ちょっ、ヤバいっ、吐き気が……。
「止めてください、苦しっ」
「ああん?」
俺の声に反応する男。
その顔からは怒りが消え失せていた。
その変わりに浮かんでいるのはニヤニヤとした笑み。
何を考えているんだろう。
「お前ムカつくな......良いこと考えたぜ。ちょっとこい」
「……はい?」
「いいから来いって」
そう言い放つと、男は俺の腕を掴んだ。
痛っ、離せよっ。
抵抗するが、男の力は強く振り解くことが出来ない。
「来いって言ってんだろ」
その言葉と同時に腹に鈍い痛みを感じた。
殴られたのだと理解するのに数秒かかった。
くそっ、この野郎ふざけんな。文句の一つでも言おうと思ったが、口から出たのは掠れたような小さなうめき声だけだった。
「ほら立てよ!」
強引に腕を引っ張られ、店を連れ出されていく。
ちくしょう、まじでムカつく。
女の子を見るとまた本を読んでいた。
なんだこいつ! 助け損じゃねぇか!
そんなことを思いつつ、
車の方へと連れていかれる。
助手席の扉が開けられたところで、中からイカツイお兄ちゃんが出てきた。
「兄貴、こいつ埋めたいんすけど、良いすか?」
「あ〜、好きにしていいぞ」
「あざ〜す!」
おいおい嘘だろ。
まさかこのまま埋められちゃうのか? 冗談じゃない。
必死に抵抗するが、全く意味がない。
結局俺は車に乗せられてしまった。
■■
「おら、降りろや!」
見たことのない山道を散々走った後、車の中で待機していたチンピラに車外へ放り出される。地面に叩きつけられて、全身に強い衝撃を受けた。
「ぐふぅっ」
痛みに耐えきれず口から情けない声が出る。
だが、そんな事を気にする余裕はなかった。何故なら目の前にスコップを投げられ、穴を掘れと言われたからだ。
うそ……だろ?
これ本気で言ってんの?
信じられない気持ちで一杯だったが、拒否すると殴られるので、俺は言われるままに穴を掘り始めた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
どれくらい時間が経っただろうか? 俺はひたすら無心で土を掘っていた。
額には大量の汗が流れており、息も絶え絶えの状態だ。
疲れた。本当にしんどい。
なんで俺がこんな目に遭わないと行けないんだ。
しかし、そんな疑問も疲労によって徐々に薄れていく。
「はぁ……はぁ……はぁ」
「このくらいで良いだろ。おい! ガムテ持ってこい」
「はいよ」
穴が完成した。
俺は言われるまま、その場に仰向けに寝転がる。
すると手足を縛られた状態で、穴に固定された。
「じゃあ埋めるか」
「うぃ〜」
おい! やばいって!! 殺される! 俺は慌てて体を起こそうとするが、手は拘束されているし、足には重しがついているため、上手く身動きが取れない。
「誰か助けてくれ!!!」
精一杯叫んだつもりだったが、声はほとんど出てい
ない。ただ口をパクパクさせているだけだ。……終わった。
男たちに埋められていく。
苦、苦しいっっ.....。
そこで俺の意識は途切れた。
読んでくださりありがとうございます。
次話から話が動き出します。