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灰色の人が来た
ドアチャイムが約束通り2回続けて鳴った。
開けたところに立っていたのは、灰色の男のひとだった。
先ほど帰った楓さんが着替えて戻ってきたのか、といっしゅん思ったほど、優しい感じと控えめな立ち姿が彼と似ていた。
灰色の人は、文字通り全身灰色にみえた。目深にかぶった帽子とコートも、口元を覆うマフラーも、靴も灰色だ。
「キリタニさんのお宅ですね」
私が答える前に、彼はこう続けた。
「ウキオロシに、参りました」
控えめな声と、わずかにのぞいている優し気な目からは、若い男のように思えた。
そしてどちらも、かすかに灰色をしているようだった。
「上がってもいいですか」
「は、はい」
彼は夜の冷気をまとって中に入ってきた。
手には小さな革製のトランクのようなかばんを下げていた。旅慣れた人が持っていそうな、使い込まれた飴色だった。




