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俺を殺しに来た天使が許嫁になったんだが……?  作者: 卯村ウト
第1章 ある日天使がやって来て
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#091 もう誰も



 約十三分間の観覧車の旅が終わった後は、名残惜しいがこの遊園地からおさらばしなければならない。

 俺たちは観覧車から降りると、どんどん人が疎らになっている道を、駅の方の出口に向かって歩んでいく。


「今日は楽しかったね~」

「ああ、そうだな」


 これまで何回か遊園地に行ったことはあったが、今回が一番楽しかったと断言できる。こんなに遊園地って楽しかったんだ……と改めて気づくきっかけになった。


「それにしても、結局アレは見間違えだったのかな……?」

「ああ、水無瀬と姉ちゃんか。でも、俺たちが降りた時にはいなかったよな?」

「……でも、入れ違いで観覧車に乗っていっちゃったかもしれないよ?」

「まあ、その可能性は否定できないな。俺は見間違いだと思うが」


 そんなことを話していると、不意に五十嵐が俺の前に走って出て、そしてクルッとこちらに振り返った。


「言い忘れていたけど……今日は付き合ってくれてありがとう、慧」

「お、おう……。こっちこそありがとな」


 突然だから、ちょっとビックリしてしまった。


 それに、このデート、元はと言えば、姉ちゃんが提案してくれたんだよな。こういう機会を作ってくれたという面で言えば、最初に提案してくれた姉ちゃんにも感謝しなければならない。


 ……というか、ここで感謝の言葉を交わすというこの状況、俺たちがこの駅で別れて帰るみたいな状況に感じられる。実際は家まで同じなんだけどな。


 俺たちは係員から『ありがとうございました~』と声をかけられながら、遊園地のゲートを潜り抜けた。

 駅はすぐそこ、道路を挟んだ向かい側だ。赤信号で俺たちは一旦立ち止まる。

 と向かい風に乗って、微かに駅メロとアナウンスが流れてきた。


『間もなく、二番線に、快速・新宿行きが、十両編成で参ります……』

「ヤバい! 電車来ちゃった!」


 五十嵐が焦った声を出すと同時に、目の前の歩行者用信号が赤から青になる。


「そうだな……おい、走るなよ!」


 青になるや否や、五十嵐は走って駅の方に駆け出す。俺は苦笑しながら後を追いかけようと一歩を踏み出した。


 だが、次の瞬間。盛大にクラクションが鳴る。


 反射的に音のした方向を見ると、赤信号を強引に通過しようとしたのか、一対のヘッドライトが猛スピードでこちらに向かって来ていた。


 それがもうすぐ通り過ぎるだろうその場所に、今まさに五十嵐が差し掛かろうとしていた。


 俺の視界に、あの日の光景が重なる。


 ……もうそんな光景は見たくない。だから俺にやれることは全力でやる。あの日、強くそう心に誓ったんじゃなかったのか!


 その思いが弾けた時、俺は全速力で駆け出していた。

 間に合うかどうかは分からない。けど、このまま何もしなかったら絶対に後悔する。


 そして、俺の喉は勝手にその名を叫んでいた。


「ひかりーーーー‼」



 次回、2022/06/10 07:00頃投稿予定!

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