#007 アレな本の隠し場所
「はぁ……」
二階の自室に入るなり、俺はベッドにドサリと腰を下ろした。
なんか今日は色々とありすぎて疲れた……。
激動の今日をハイライトで振り返ってみよう。
まず朝にランニングをしていたら天使がやって来て、俺を急に殺そうとしてしそこねた。ここから既に意味が分からない。
次に夕方になって、天使が家にやって来て、衝撃の『家に置いてください!』発言。さらに虚偽の恋人宣言までされて姉ちゃんに誤解された。
「解せぬ」
もういったい何なんだ! まさか今日あったことは全て夢だったりして。
というわけでギューっと頬をつねってみるが、起こったのは痛みを伴う顔の筋肉の変形のみ。間違いない、ここはリアル・ワールドだ。
それにしてもセラフィリ、いや五十嵐ひかり……。奴はなんてことをしてくれたんだ……。
この名前を思考の中に出す度、心の奥底がいちいちチクチクする。おそらく奴はわざとではないだろうが、それでも俺の思い出したくない記憶が引っ張り出されそうになる。
「ま、どうにかして天界にお帰り願いたいものだな……」
「何か言いましたか?」
「うわっ⁉」
突然近くから他人の声がして、思わず声を出して振り返った先にいたのは五十嵐。
いつの間にか気配を消して、俺の部屋の入口に立っていたのだ。
そして、俺がしばし呆然としてる間に、五十嵐は何の躊躇いも断りもなく、俺の部屋に足を踏み入れてきた。
「おいおいおい、ちょっと待てーい!」
俺は慌ててベッドから立ち上がると、五十嵐の前に立ちはだかる。
「何ですか?」
「『何ですか?』じゃねーよ! 人様の部屋に勝手に入るなよ! プライバシーの侵害だろうが!」
しかし、この俺の当然の権利の主張に対し、五十嵐はこう回答した。
「プライバシーの侵害って……わたしの前ではそれは意味をなさない気がしますよ」
「……どういうことだ」
そうですね、と五十嵐は俺の部屋をゆっくりと見渡す。そして、すぐに何かを確信した口調でこう言った。
「本棚の上から三段目に入っている百科事典第三巻付録冊子カバーの中身」
「……お前、この部屋に入るのは今日で本当に初めてなんだよな⁉」
「もちろんですよ?」
コイツ、俺のアレな本の隠し場所を知ってやがる!
何故だ⁉ あの姉ちゃんにさえも知られていないはずなのに!
くそっ……。やっぱり俺のプライバシーは天使の前には無力だったらしい。俺はガックリと両膝をつく。今だけはコイツが天使ではなく、俺の個人情報を何でも握っている悪魔に見える。
と、階下から小さく玄関のドアが開く音。雨宮家に、俺の予想よりもだいぶ早く、残りの一人が帰ってきたようだ。
「母さんが帰ってきたな」
「……行きましょうか」
俺たちは残った問題を話し合うため、階下の母さんのもとへ向かった。
次回、2022/04/30 20:00頃投稿予定!