#003 帰れ!
いつものように学校で過ごして、いつものようにまっすぐ帰宅する。
自室で宿題をしている合間、俺はため息をついて背もたれに寄りかかった。
今朝からずっと、俺を殺しに来たという天使セラフィリのことが、頭から離れないのだ。そのせいで授業もあんまり頭に入ってこなかったし、友人に、『なんだかボーっとしてるぞ』と言われたし……。
せっかく時間もあることだし、少し落ち着いて考えてみよう。
まず、この世界には天使や神などがいるという前提で考えよう。
今朝、セラフィリは俺に向かって、『神の名において貴方を殺しに来ました』と言った。つまり、神がセラフィリに俺を殺すように命令したということだ。そこには神の『俺を殺したい』という意思が働いていることになる。
じゃあ、何故神は俺を抹殺しようとしたんだ? 理由も無しに神が俺を殺すとは到底思えない。神が軽く人を殺すような横暴者でなければ。
俺は自分のことを、ごく一般的な高校生だと思っている。過去に特に何か悪いことはしていないし、何か事件を起こしたことも、事件に巻き込まれたこともない。
いや、正確に言えば、二年前に一度だけ、事故の現場に遭遇してしまったことはあるのだが――
……いかん、思い出すのは止めよう。深呼吸深呼吸。
深呼吸で心を落ち着かせた後、俺は思考を再開する。
こんな青春を謳歌しているただの高校生に、いったい神が何の用なんだ? 全然分からん。
「やっぱ、神の思考は凡人には理解できませんねぇ……」
うーん、と伸びをして、結論の出ない思考にとりあえず終止符を打つ。ちょうどそのタイミングで、ピーンポーンと階下でインターホンが鳴った。
もう帰ってきたのだろうか? それにしてはずいぶん早い。わざわざインターホンを鳴らすなんて、また家の鍵を忘れてしまったのだろうか。
「はーい」
俺は机から離れると、階段を下りて玄関へ向かい、ドアを解錠する。
そして、ガチャリと開いたドアの向こうにいたのは――
「お久しぶりです、雨宮慧君」
まさかの、今朝俺を襲って殺しに来た張本人、天使セラフィリだった。
しかし、今朝とはだいぶ様子が異なる。頭の上に天使のリングは浮かんでいないし、背中からデカい翼も生えていない。それに、服装はカジュアルな、そこら辺の女子高校生がしていそうなものになっている。それでも、俺はコイツの顔を見た瞬間、あのセラフィリだとすぐに理解した。
とりあえず色々ツッコみてぇ……だがツッコみたいところが多すぎて、どこからツッコめばいいのやら……。
俺が固まっていると、セラフィリは天使の笑顔でこう宣った。
「もしよろしければお宅に入れさせていた」
「帰れ」
もちろん、俺は即座に拒否して全力でドアを閉めた。
次回、2022/04/29 21:00頃投稿予定!