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#231 お花見



「おーい、こっちだぞー!」

「フンフツィヒ・シュツルム、レーゲンパラスト……これで役者は揃った……」

「遅いわよ、二人とも!」


 三月三十日金曜日。川沿いにある近所の公園に、俺と五十嵐はいた。指定された集合場所に到着すると、既にもっちー、水無瀬、アリスの他の三人は到着していて、桜の木の下、大きく広げたレジャーシートの上で、花見の準備を始めていた。


「すまんすまん、皆もう来てたか」

「ごめんね、遅れちゃった」


 俺たち二人は靴を脱いで、レジャーシートに上がる。荷物を降ろして端に寄せていると、水無瀬が口を開いた。


「フフフ、我、時を駆けしヴァイオレント・ウォーターレスシャロウより皆の者に土産がある……」


 そう言って、水無瀬が自分のバッグから取り出したのは、デカい箱。表には何やら文字が書かれているが、ドイツ語なので読めない。


「おお、これは期待だな!」

「じゅるり」

「楽しみ~!」


 この前の旅行のお土産か! 終業式のときに、お土産を買ってくる、って宣言していたもんな。中身はいったい何だろう? 既にアリスは食べ物だと思っているみたいだが……。


「いざ、封印解除!」


 謎の掛け声とともに、水無瀬は勢いよく蓋を開いた。

 箱の中にあったのは、個包装のチョコレートだった。


「食べていいのか?」

「当然」

「ん~~美味しい!」


 水無瀬がそう言う前から、アリスは早速チョコレートを口に入れていた。そして、目を輝かせながら感想を漏らしていた。


 俺も一つ手に取って口に入れる。


「……美味い」


 確かに美味い。日本の市販のチョコレートとはまた違った風味がする。

 皆も同じような感想を抱いたのか、チョコレートを取る手は止まらず、あっという間に箱の中身は空になってしまった。


 たが、皆が持ち寄って来たお菓子を次々と開けたため、お菓子が無くなることは無かった。そのまま、誰かが宣言することも無く、お花見が始まる。


 皆で飲み食いしながら、色んなことをあーだこーだ言って、桜の花びらが舞い散るのを眺める。この、何でもないような時間がとても愛おしいと、俺は会話の合間に、ふとそう感じた。


「ありゃ……もうないのか」


 どれくらい時間が経っただろうか、ふと紙コップを持って飲み物を飲もうとしたが、水滴は落ちてこなかった。辺りを見渡すと、ジュースのペットボトルのほとんどが空になっていた。

 これからまだしばらくは花見を続けるだろう。俺は、立ち上がって皆に一言断る。


「ちょっとジュース無くなったから、買ってくる」

「わり、頼んだ慧」

「おう」


 もっちーの声を背に、俺は財布を確かめながら靴を履くのだった。



 次回、2022/08/20 07:00頃投稿予定!

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