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#222 わたしは誰?



 それを見た瞬間、わたしの頭に強烈な痛みが迸る。


 それに耐えていると、不意に、記憶の中のある光景が脳裏に浮かび上がってきた。


 まるで古いフォルム映画でも見ているかのようなモノクロの景色。音も匂いも何も思い出せない。だが、景色は今見てきたみたいだった。


 今、わたしは学校から出て行こうとしている。もちろん、今通っている高校ではない。見たことがあるはずがないのに、どこか懐かしい。わたしは今よりも少し幼い顔の慧と、何やら話しながら一緒に出ていく。


 校門脇に『中学校』と書かれている。明らかに通ったことがない学校だ。しかし、確かにわたしはそれを経験していたかのように――いや、経験している。


 決してわたしには存在しえない記憶だ。でも存在している。いったいどういうこと……?


 見覚えが無いはずなのに存在しているという矛盾を孕んだ記憶、そして頭痛の中で、わたしは混乱する。

 すると、何の前触れもなく、脳裏に浮かぶシーンが切り替わった。


 まだ一度しか経験したはずが無い大雪。雪が厚く降り積もっていく中、私の隣で慧が雪だるまをせっせと丸めている。


 おかしい、と理性が叫ぶ。だって、大雪の時、慧はわたしと雪合戦をしただけで、雪だるまは作っていない!


 しかし、これは事実だと、わたしは直感的に分かった。モノクロがかかっているが、これは実際にあった出来事だ。


 そしてそれからは数秒ごとに記憶のワンシーンがどんどん移り変わっていく。


 桜が穏やかに散る中で慧と一緒に登校したある春の日。


 太陽がぎらつく中で慧と一緒にプールに行ったある夏の日。


 紅葉が生える中で皆とバーベキューをしたある秋の日。


 雪がちらちら舞う中で慧と一緒に下校したある冬の日。


 まるで記憶の堰が一気に切られたかのように、ものすごい勢いで次々と記憶が流れていく。

 わたしは体験したことが無いはずなのに、何故か存在する記憶。


 ……いや、違う。


 見たことがないが、見たことがある。


 これは紛れもない、全部、わたし自身の記憶だ。


 この瞬間、わたしはようやく思い出した。自分が何者なのか、これまで見た既視感は何だったのか。


 わたしは、五十川光だったんだ。



 次回、2022/08/15 19:00頃投稿予定!

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