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#220 分け入っても分け入っても



「……急にどうしたんだよ、五十嵐?」


 昨日の昼、お墓参りに行くと俺が言った直後、五十嵐も行きたいと言い出した。

 俺が墓参りに行くのには、故人とは深い関係があって、しかも目の前でその最期を目撃した、という事情があるからだ。もっちーや水無瀬も、故人とそれなりの関係を築いていたので、彼らが墓参りに行きたいと言っても納得はできる。

 しかし、五十嵐はどうだろうか。故人とは会ったことがないし、話したこともない。ましてや、親族関係にあるわけでもない。名前が同じだという共通点は存在するものの、それだけだ。関係のない人を墓参りに連れて行くのは、どうなのだろうか。


 俺が躊躇していると、五十嵐が言う。


「……わたしは、慧の許嫁として、光さんにきちんと報告したいな、って思うの。あなたがずっと見てきていた慧は、こんなにも素敵な人になったんだ、って、光さんにわたしからも伝えたいんだ」

「…………」

「慧、連れて行ってあげてもいいんじゃない」

「母さん……」


 母さんは、俺の思考を読んだかのように言った。


「ひかりちゃんは、確かに関係がない人かもしれないけど、親族や友人以外がお墓参りしちゃダメ、っていうルールはないわ。ここはひかりちゃんの意志を尊重してあげなさい」

「……分かった」


 五十嵐の気持ちを無碍にすることはできない。俺は、母さんの言う通りに、五十嵐を連れて行くことに決めたのだった。


 そんなことを思い出していると、電車はいつの間にか終点に到着していた。山に囲まれた、小さな駅だ。

 数年ぶりにそのホームに降り立つと、俺たちは道順を確認して歩き始める。


 交通量の少ない、広い峠道をゆっくり上っていく。分け入っても分け入っても青い山。こんなところに、本当に霊園などあるのだろうか、と少し疑ってしまう。

 しかし、しばらく歩くと、突然森がなくなり丘が現れた。入り口の奥にはお墓が並んで立っているのが見える。


「……ここか」


 間違いない、地図アプリと照らし合わせても、ここで合っている。五十嵐を見ると、少し息を切らして疲れているようだった。てっきりこの道くらいなら余裕だろう、と思っていたのだが、そうでもなかったらしい。


「大丈夫か? 少し休憩するか?」

「……いや、いいよ。このまま進んじゃおう」

「分かった」


 俺たちはそのまま霊園の中に入る。


 霊園は広かった。何百、何千、いや何万もの墓がびっしり立っている。思わず足がすくみそうになるが、目的地まであと少し、ここで引き返すわけにはいかない。


 黙ってお墓の間を進んでいくこと数分。俺たちは立ち止まった。目の前の墓石に刻まれた文字を読む。


「『五十川家之墓』……」


 俺は、遂に二年ぶりに、彼女……五十川光に対面した。



 次回、2022/08/14 19:00頃投稿予定!

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