表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/237

#218 このままではいけない。



 大荷物を持って、俺たちは家路につく。

 えっちらおっちらと、春先なのに少し汗をかきながら、俺はゆっくり歩いていく。一方の五十嵐は同じくらいの荷物を持っているのに余裕そうだ。


「大丈夫? 少し持とうか?」

「い、いや……自分の荷物は自分で持つよ」

「そう……大変だったら遠慮なく言ってね」

「ありがとう……」


 五十嵐に心配されるなんて、自分が情けない……。春休みから筋トレでも始めようかな……。

 そして、やっとのことで俺たちは家に到着する。


「た、ただいまー」

「ただいま」

「お帰りなさい」


 すると、玄関の奥からは、この時間に家にいるはずのない人の声がした。少々意外さを覚えながら、俺は荷物を廊下の脇に一旦置くと、リビングに入る。


「母さん! 今日、仕事じゃないの?」

「ええ。けど、有給が残っていたみたいで、それを消化してほしい、って上司に帰されたのよ」

「そうだったのか……」


 だから、こんなに早く帰って来ていたのか。今までブラックだと思っていたけど、きちんと有給は存在するんだな。よかったよかった。


 俺はお昼ご飯を食べた後、しばしの小休憩を挟む。春休みとはいえ、課題が全く出ていないわけではない。この休憩の後から、少しずつ取り組むつもりだ。


「慧」

「ん? どうしたの母さん」


 ソファーでダラっと座っていると、不意に母さんが話しかけてきた。


「一応確認なんだけど、今年は行くの、行かないの?」

「何に?」

「……光ちゃんのお墓参りよ」

「……」


 その瞬間、お気楽ムードが一気に吹っ飛んだ。

 そうか、もうその時期になってしまったのか……。


 あの事件から、もう二年が経過する。去年は、行けなかった。いや、行かなかった。俺自身の心が弱かったせいで、何もすることができなかった。


 しかし、このままではいけない。このままずっと、何も行動を起こさないままでは、俺はそのことをずっと後悔し続けるだろう。

 それに、心に決めたはずなのだ。変わっていこうと。このことに、決着をつけるのだと。今こそ、それを実行するチャンスなのではないのか。


「……行くよ」

「……え?」

「俺、今年は行くよ」


 俺は天井を見つめながら言った。

 俺のこの姿が母さんにはどう映ったのかは分からない。ただ、母さんは何かを感じ取ったようだった。


「……そう、なら、後でお墓の場所を伝えるわね」

「分かった」


 首が疲れてきたので、不意に横を向くと、リビングの入り口のところにいつの間にか五十嵐が立っていた。そんなところで立ち止まって何をしているんだ? と一瞬疑問を抱くが、さっきの話を聞いていたのだろう。彼女は両手をギュッと握りしめて、真剣な表情をしたまま立っている。


 そして、次の瞬間、彼女の口から予想だにしない言葉が飛び出した。


「慧……そのお墓参り、わたしもついて行っていいかな……?」



 次回、2022/08/13 19:00頃投稿予定!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ