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#214 二面性生徒会長



 翌日、三月十四日。平日の水曜日なので、普段は授業があるのだが、今日は一切の授業が存在しない。なぜならば……。


「それでは、これから第七十一回、卒業式を挙行いたします。一同、礼!」


 今日は三年生の卒業式だからだ。

 卒業式には、三年生はもちろん、二年生や一年生も全員出席する。とはいえ、普通の一年生や二年生がやることは、いいタイミングで拍手をすることや、校歌を歌うことくらいしかない。あとは黙って静かに座っているだけだ。三年生にとっては、自分達の門出なので色々思うところはあるだろうが、一部の下級生はきっと『早く終わってくれ〜!』と思っているだろう。


 俺は帰宅部だし、放送委員会で特に仲のいい先輩もいないので、三年生との繋がりは非常に薄い。ただぼんやりと、前の方に座っている三年生の先輩方の背中を見つめていた。

 このまま順調にいけば、二年後俺もあの場所に座ることになる。そのとき、俺は何を思っているのだろう。そんなことをなんとなく、考えていた。


 式が始まってしばらくすると、在校生代表の式辞を読む時間になった。名前を呼ばれて、姉ちゃんが立ち上がり、壇上へと進む。


 普段の家での様子とは違い、その姿は非常に堂々としていた。これが本来の姉ちゃんなのか、それとも家での姿が本来の姿なのか、分からなくなってくる。ただ、今の姉ちゃんの姿は、確かに『カリスマ生徒会長』と呼ぶにふさわしかった。


 姉ちゃんの式辞の後は、都の教育委員会のお偉いさんの式辞、PTA会長の式辞、校長の式辞など、長ったらしい式辞があり、それからやっと、午前が終わる頃にようやく卒業式は終了した。先輩方の退場を拍手で見送った後、俺たちも体育館を後にして教室に戻る。


 卒業式が終了したので今日はこれで解散だ。生徒たちが続々と教室を後にする。ただ、一部の運動系の部活に参加している部員は、卒業式の会場の片付けに向かっていた。バスケ部のもっちーはそのうちの一人で、荷物を置いたまま急いで教室から飛び出していった。


 本来ならこのまま帰っても問題ないのだが、俺にはまだこの学校に残ってやるべきことがあった。

 俺は、周囲を見渡すと、帰ろうとまさに教室を出ようとしている人物の背中に声をかけた。


「水無瀬、五十嵐、ちょっと待ってくれないか?」

「……何用?」

「……どうしたの?」


 彼女たちは不思議そうに俺の方を振り返る。そして、五十嵐にひっついているアリスは不機嫌そうな顔をする。


「早くしなさいよね」

「分かってる。一分で終わるからさ」


 俺は自分のバッグの中を漁ると、目的のものを引っ掴む。触った感触からすると、割れてはいないようだ。


「今日は三月十四日だろ? だから、この前のお返しだ」


 そう言って俺が二人に差し出したのは、クッキーの入った袋だった。



 次回、2022/08/11 19:00頃投稿予定!

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