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#207 球技大会だ! 



 週明け、月曜日。俺は、朝から体育館にいた。

 この場にいるのは俺だけではない、一年生八クラス全員だ。朝の寒さに耐えるためにほとんどの生徒がジャージ姿だが、一部元気が有り余る女子や男子はジャージではなく、体育祭の時に使ったクラスTシャツを曝け出していた。例えば、俺の隣にいるもっちーは、まさにその一人である。


「いやー、楽しみだなぁ! お前もそう思うだろ、慧!」

「お、おう……」


 寒さを吹き飛ばすほどの暑苦しさを纏いながら、もっちーは俺の肩をバシバシと叩いてきた。


「遂にこの日が到来した……」

「大丈夫かしら……」

「大丈夫だよ、二人とも! いっぱい練習してきたでしょ!」


 俺の後ろで、不安がっている水無瀬とアリスを励ます五十嵐。実際、金曜日の練習では二人はそこそこレシーブができるようになっていたので、試合になってもそれなりにボールを回すことはできるはずだ。


『あー、あー』


 チャイムが鳴ると同時に、体育館の舞台の前に、マイクを持った学級委員が現れる。俺たちはクラスごとに整列して座る。

 遂に今学期の学年レクリエーションの始まりだ。学級委員が、改めてルールの説明を始める。


 競技は六人制バレーボール。一セット二十五点の一セットマッチだ。クラス対抗で、トーナメント形式で試合は行われる。また、順位をちゃんと決定するために、三位決定戦はもちろん、一回戦で負けた四チームも試合を行い、五から八位を決定する。そして、最終的に順位に応じてポイントが割り振られる。これを男女別に行い、男女のポイントを合算して一番ポイントが高かったチームが優勝、という流れだ。


『それでは、学級委員の指示に従って移動を始めてください』


 説明が終わると、早速移動開始だ。学級委員の指示に従い、生徒たちが動き始める。

 最初、俺たちは試合ではないので、舞台に上がって待機となる。


 すると、早速五十嵐が話しかけてきた。


「慧〜、わたしたちは最初、どこと戦うの?」

「女子はA組だったと思うぞ」

「男子は?」

「F組だな」


 トーナメントでどこと戦うかは、事前に学級委員がくじで公平に決めている。第一回戦、男子はF組と、女子はA組と戦うことになっている。


 まずは男子の第一回線。その四戦分全てが終わったら、次は女子の第一回戦四戦分となる。俺たちC組の出番はこの次だ。


 ネットを張り終わり、審判役の学級委員がつくと、いよいよ試合開始だ。短くホイッスルの音が鳴り、歓声とともにバレーボールが宙を舞い始めた。


「皆、なんか必死だね」


 試合の様子を見て、五十嵐が呟いた。


「そりゃあ、最初の試合が一番肝心だからな」

「……どういうこと?」


 隣を見ると、本当に五十嵐は分かっていなさそうな顔をしていた。俺は説明する。


「……例えば、試合の結果が『勝ち、勝ち、負け』だとする。この場合、何勝何敗だ?」

「はいはい! 二勝一敗!」

「そうだな。この場合、最終的な順位はどうなる?」

「えーっと、二回勝って決勝に行って、そこで負けるから……二位?」

「その通りだ。じゃあ、もし『負け、勝ち、勝ち』だったら?」

「……あっ、勝敗が全く同じなのに五位になる」


 五十嵐はようやく気づいたようだ。


 今回の試合形式だと、勝ち負けの数が全く同じでも、その順番によって順位に大きな差が出てきてしまうのだ。そして、順位を大まかに決定づけてしまうのは、最初の一戦。これに勝つか負けるかで、上位半分に入るか、下位半分に入るかが決まってしまう。勝ってしまえば五位以下になることはないし、負けてしまったら四位以上になることはありえない。最初の一戦で皆が必死になるのは必然なのだ。


「公平性を重視するなら総当たり方式がベターなんだが、体育館の広さと、時間的な制約でこうせざるをえなかったんだろうな」

「なるほどね……」


 この体育館は、せいぜいバレーボールコート二面分の広さしかない。つまり、一度に二試合しかできないのだ。

 それに、時間の問題もある。男女合わせて五十六試合なんて、一セットマッチにしても一日じゃとても終わらない。このトーナメント方式でも、男女合わせて二十四試合行うのはかなりキツいはずだ。


 しばらくすると、第一回戦の前半二試合が終了した。両方とも白熱した戦いが繰り広げられ、そして僅差で決着がついた。


 遂に次は俺たちの番だ。舞台から降りようとしたその時、五十嵐が声をかけてきた。


「慧、頑張ってね!」

「……ああ」


 その何気ない励ましが、俺にとっては、心強く感じるのだった。



 次回、2022/08/08 07:00頃投稿予定!

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