表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺を殺しに来た天使が許嫁になったんだが……?  作者: 卯村ウト
第1章 ある日天使がやって来て
18/237

#018 究極のドMではない!



 道には色づいた葉がかなり落ちていて、本格的に冬がそこまで迫ってきていることを教えてくれる。

 そんな道を、一度は俺を殺そうとしてきた天使と一緒に歩いているとは、なんと数奇な運命なのだろうか。


 定期券で自動改札を通り抜けると、俺たちはちょうどやって来た電車に乗って席に座る。当然、五十嵐は俺の隣に座る。


 そういえばコイツって何故俺を殺さないんだ? ガラガラの車内を眺めていると、いつだったか一度は考えた疑問がぶり返してきた。『慧君を殺すことはまずない』と言質を取ってはいるが、何故そう方針転換したのかはまだ聞いていない。

 他にも気になることはある。コイツが天使の姿で俺の前に現れたのは最初の一度だけ。それからは、天使の力を使ったとしか思えない場面は何回もあったが、天使の姿になっているところは見たことがない。これも、いったいどういうことなのだろうか。


「なあ五十嵐」

「どうしたの、慧?」

「何故俺を殺さないんだ?」

「……殺してほしいの?」


 五十嵐はそう言って拳を握り締める。気のせいか、五十嵐から何か強大なオーラが滲み出ているような気がする。


「いやそんなことはこれっぽっちも思っていませんが」


 危ねぇ……。というか、これじゃ俺が自殺志願者か究極のドMみたいじゃないか。

 俺が今言いたいのはそうではなくて。


「お前さ、最初に会った時俺を殺そうとしてきたよな? じゃあ今はなんでそうしないんだ?」

「それは……」


 五十嵐は口ごもりながら電車の床に視線を落とす。思ったより話しにくい事情でもあるのだろうか。

 数秒間考えるように黙ると、五十嵐は小さな声でポツポツと語り始めた。


「まず、わたしがこの世界に来たのは神の命令によるものだ、っていうのは知っているよね?」

「ああ」


 初めて会った時に『神の名において~』って言っていたからそれは間違いない。


「本来なら、慧と接触したその日に、慧を殺すはずだった」

「……だけど、弓矢の扱いが下手すぎて俺を殺せなかった」

「……うん」


 あれ? もしかして弓矢の扱いが上手くないことはコンプレックスだった?

 どうやらそれは当たっていたらしく、五十嵐はちょっとこっちを睨んできた。視線で射殺されそう。

 五十嵐は咳払いをして話を続ける。


「貴方の抹殺に失敗したわたしは、神のもとへ戻って報告をしたの」

「それで、神が怒って天界から追い出されでもしたのか?」

「……ちょっと違うけど、まあそんな感じかな」


 天使も色々と大変なんだな。


「じゃあ、天使の姿にならんのは何故だ?」

「力をもう全部使っちゃったから」


 ……つまり、天使は力を使うことで超自然的な働きができる。だけど、五十嵐は姉ちゃんや母さんの洗脳だったり、学校の入学準備だったりでその力を使い切っちまった、と。


「じゃあ、今のお前は一般人だと」

「そういうこと」

「ふーん……じゃあ、俺はお前に弓矢で殺されることはないと?」

「今の所はね。慧を殺す予定はないよ」


 そう言って五十嵐は手をヒラヒラ振る。……安心していいのかコレ?


「でもなんだったのでしょうか……。神の最後の不可解な命令は……」

「神の最後の不可解な命令?」

「え⁉ な、何でもないよ!」


 怪しい……。今ばっちり独り言が聞こえていたぞ。『神の最後の不可解な命令』って何だろう。


 まあ、俺が今考えても結局は無駄なことだろう。五十嵐は聞いても教えてくれないだろうし、かといって神に聞けるわけでもない。


 ブシューとドアが閉まると、電車はゆっくりと発車した。



 次回、2022/05/04 09:00頃投稿予定!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ