裁判
冒険者達は眠り込むと、夜中に宿でガサッと音がした。
起きてみると、黒いフードを被った男が杖を奪い取った。
「誰だ 杖を返せ」
囚人は、取り返そうとやっきになった。
魔術師「これは、わしの杖じゃ 返してもらう」
昨日の魔術師だった。
裁判長「これは何事じゃ」
宿に泊まっていた裁判長と裁判官が起きてきて冒険者に尋ねた。
事情を聞いた裁判長は、「それではその杖の所有者を裁判で決める事とする。」と言った。
裁判が始まった。
裁判官 「被告人 お前は冒険者の杖を盗もうとしたな その事に間違いはないか」
魔術師「盗むも何も、その杖は、元々私のもの そこの囚人に奪われたのです。」
裁判官「囚人 それは本当か お前は仮釈放中の身でありながら盗みを働いたのか? 」
囚人「盗んだ事について否定はしやせんが、その魔術師が草原を移動している、あっしらに火の玉を撃ち込んでくるのでやむなく奪ったのです。」
裁判官「魔術師 それは本当か? 冒険者に火の玉を撃ち込んだのか?」
魔術師「はい 撃ち込んだ事について否定しませんが、冒険者の背中に毒虫が張り付いていたのです。このままでは、命の危険があると虫を焼き払おうと咄嗟に火の玉を撃ち込んだ次第に御座います。」
裁判長「うむ それなら魔術師に杖を返却し裁判を取り下げる事にするかのお」
「嘘だ あの草原には毒のある虫なんて生息していないぞ」傍聴席にいた男の子が叫んだ。
裁判長「傍聴は、静粛に!今は魔術師側の発言時間じゃ」
裁判官「魔術師 それでは、その杖があなたの物であるという証明はできますか?」
魔術師「その杖には、取手に金銀の細工が施してある。それは証明じゃ」
裁判官「それは見れば分かります。それでは証明にはなりません」
「裁判長ー!」書記官が遅れて駆け込んできた。
裁判長「どうした 遅れてきて騒がしい」
書記官「あの男は各地で冒険者を襲い金品を巻き上げているヴィランです。」
裁判長「なんと・・・」
裁判長「判決 杖は冒険者の物 魔術師は懲役三年 これにて閉廷」
魔術師は警察に連行され、裁判は無事閉廷した。
シタカ「男の子 さっきは、ありがとう 君の証言があったからこそ裁判を長引かせて、ヴィランを逮捕することができた。君のお手柄だよ。お礼に杖は君にあげるよ。」
男の子は杖を手に取ると、金銀細工の取手を左に回して、杖を分解し取手と杖の二つにわけた。
少年は、空洞になっている杖からカメオを取り出した。
少年がカメオを開けると中から少年と両親が写っている写真が出てきた。
男の子「僕の父親は、立派な魔術師で、あのヴィランと魔術研究所の同僚だったんだけど、魔術師のヴィランが父の功績を妬んで、深夜に僕の家に侵入し両親を刺し殺したんだ。僕は洋服ダンスに隠れてたから、運良く助かり、裁判所に魔術師ヴィランの悪行を訴えたんだけど証拠不十分で、無罪になってしまったんだ。今回の懲役三年には納得いかないけど、しばらくの間、悪魔の脅威に晒される人が減るだけでも感謝しないとね」
シタカは少年の健気な返答に涙を流した。
シタカ一向は、さらに次の街へと向かうため、次の街を後にした。
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