心身一如
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大地を流れるエネルギーである地脈。
そこに刻まれた記憶からよみがえった古の戦士の鎧の下は、もはや普通の肉体ではない。エネルギー塊そのものだ。だが、アンジェラは戦士をかき抱いたまま離そうとしない。
彼の肌に接触している彼女の法衣が燻り白煙をあげた。
並みの炎なら寄せつけない強化服が焦げるということは、尋常ならざることだった。
戦士は叫んだ。おそれを知らぬ彼が恐怖していた。
自分のために泣いてくれたこの少女が……その優しさゆえに身を焼かれている!
「 よせ! 今の俺の身体に直接触れてはいかん! 手を離せ! 離してくれ! 」
「 断ります! あなたのつらさ、哀しみ、その思い、すべて私が…受け止めます! じかに肌に触れずして、どうしてその気持ちを理解できましょうか!! 」
過去視ですべてを知ったアンジェラは、彼を抱きしめずにはいられなかった。
せめて、せめて、八代目の聖女ホワイト以外にも人のぬくもりがあるということを伝えねば、彼の人生があまりにも報われない…!
戦士が振りほどこうにも、使命感につき動かされる彼女の細い腕はまるで万力のようだった。
へし折るつもりでいかないと押しのけることが出来ない。
「 やめろ! アンジェラ嬢! 」
「 燃えちまう! やめてくれ! アンジェラさま! 」
たまらず駆け寄る警備隊員達が総出で取りつき、必死に引き剥がそうとするが、アンジェラは足に根が生えたように動かない。
とうとうアンジェラの法衣に火がついた。
それでもアンジェラは戦士から手を離さない。
「 やめろ! あんたの気持ちは伝わった! もういい! だからやめてくれ! 頼む! 」
悲痛な叫びをあげ戦士が哀願する。
「 まだです!! これしきの炎! これはあなたに相対する資格があるかどうか、神が私に与えた試練 」
一度ついた炎のまわりは早かった。
あっという間にアンジェラの全身が火柱に包まれる。
「 見くびらないでください。聖女ホワイト門下は、泣くことも出来ないほどの哀しみを背負った武人を、なにがあっても決して見捨てたりはしません 」
だが、アンジェラは微動だにしない。その顔には慈母のような微笑さえ浮かんでいる。
「 こんな醜い俺を友と… 」
「 たとえ志半ばで果てようと、道に殉じた輝きは死でさえ汚すことかなわず! あなたこそ、我らと同じ道の先をいくまことの武人! 」
そしてアンジェラは炎に包まれたままほほえんだ。それはまるで炎の女神だった。必死の救出活動にあたる警備隊員達でさえ一瞬目を奪われる、壮絶な覚悟と美しさ。
「 やめろぉぉぉッ!!! 」
絶叫する戦士。ついにその目から涙がこぼれおちた。
外見にとらわれず友と呼んでくれた彼女。命懸けで心を救ってくれようとするその聖職者の少女の優しさは、彼の心を強くうった。
裏切られ、閉ざしていた彼の心の痛みが、再びよみがえっていた。
「 やっと、泣いてくれましたね……。自分のためには泣かないのに、他人のためならたやすく泣いてくれると私にはわかっていました。あなたは…やさしい子… 」
穏やかなその声は、母と慕う八代目を思い出させた。
なんという…なんという少女だ……!!
戦士は圧倒されていた。
八代目様も、アンジェラというこの少女も、真に優しい女性というのは、こんなにも俺の心をうつほどに強いものなのか……!!
「 この炎は、きっとあなたの痛み、苦しみ…されど 」
アンジェラの炎で舞い上がる髪。半眼にされたまなざし。
彼女の唇が、言の葉をつむぐ。
「 されど…我が魂は炎よりも熱く…! 」
心身一如という仏教の考えがある。
こころと肉体は同一であるという教えだ。
今、アンジェラは瞑想によって、自分が炎であると強くイメージしていた。
その強靭無比な精神力は肉体にまで影響を及ぼす。
強化法衣を燃やす地脈の電光も、今のアンジェラの肉体を焼くことはできない。
無意識に呟くアンジェラの言葉は、ジオウ語ではなく、いつもの言葉だった。
だから、警備隊長たちにもはっきりと伝わった
……なんという聖職者としての愛!
この少女はいったいどれほどの慈愛を、この小さな身体に秘めているのか。
全員の心がうち震えた。
……ルビは同じ「おもい」でも、魂と愛ではだいぶ方向が違うのだが…。
「 たとえ大地を揺るがす力だろうと、我が魂と身を焼くには値せず…! 」
言葉だけでなく、実際にアンジェラの肉体そのものに傷一つついていないことに霧の戦士は気づき、愕然とした。
それはかって聖女ホワイトが見せてくれた技だった。
畏怖と戦慄が戦士の胸のうちに広がる。
心身一如の境地!? こんな年端もいかぬ少女がか!?




