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父さまのちょっと過剰な愛情

 

 いつか私が奴を吹っ切れるまでは女官として後宮で働いて、そしてもういいかと思えたら、その時は後宮を出ればいい。

 お仕事であれば辞めて出ることも出来る。


 幸い今世は裕福な父さまの元で商売にも手を出して、自分で蓄財した財産がもうすでに山ほどある。それに後宮を辞した後も特に仕事には困らないだろう。商売の種はどこにでもあるものだから。


 どうせ前世も前回の人生も結婚出来なかった私は、女性としての魅力もたいしたことはないとわかっている。

 ならば好きなだけ仕事して、山ほど稼いで、一人で自由に生きていこう。

 そう考えたら少しの期間、後宮で今までとは違う境遇でお仕事をするのもいいと思えたのだ。


 そう伝えたら、父さまには泣かれたけれど。


「春麗~! パパを捨てて後宮なんて、どうして! ああ春容~~! 私たちの娘は可哀相なパパを見捨てるそうだよ……! 結婚して出て行くならまだしも、後宮なんて! 春麗は綺麗だから絶対に皇帝のお手つきになる! そうしたらもう一生帰ってこれないかもしれないのに……そんなの許せない~~!」


 と、いまだ何処にでも持ち歩いている母の肖像画に向かっておいおい泣き始めてしまったけれど。


 でも父さま、私がお手つきとか、ナイから。

 今までの記憶なんて人生三回分もあるのに、モテた記憶なんて全くないから!


 自分で言っていて悲しくなったが、本当にそんな心配なんてしなくていいから……。


「大丈夫、何年か働いて後宮に飽きたら出てくるからさ……だから父さま、泣かないで?」


「でもパパはお前には幸せになってほしいんだよ……。後宮で働いているうちに、婚期を逃してしまうかも……そうだ! 今からでもパパが将来性のあるいい男を見繕ってやるから、その男と所帯をもつのはどうだ? お前の好みの男を言ってくれればこの王嵐黎、どんな男でも連れてきてやるぞ!」


「えええ、人をそんな取引の商材みたいに言われても……。父さまだったら本当に最高の人材を連れてきそうで怖い。でもその人が私を好きになってくれる保証もないのにそんな結婚なんて嫌よ。好きでもない女と結婚させられるなんて、そんな可哀相な人を作らなくていいの。それに私、結婚したいとか思っていないし」


「でも恋をしたらわからないじゃあないか。パパとママのように熱烈に愛し合える相手が、春麗にも現れてほしいんだよパパは……」


 と言われても、すでに長い長い片想いを終わらせられていない、とはさすがに言えないしな……。

 そしてその恋を忘れるために後宮に行きたいのだとも、なかなか親には言いづらく。

 だから。


「きっとすぐに飽きると思う。でも、ちょっと後宮なんて華やかな所も見てみたくて。それに新しい商売のネタが拾えるかも?」


「……すぐに帰ってくるんだぞ? パパが傷心で死んでしまう前に」


「そんな弱くはないでしょうが。手広く山ほど商売している誰よりも活動的な人が何を言っているの。うん、でもきっとすぐに帰ってくるよ。手紙も書くし。だから元気でいてね?」


「っ……春容~~! 春麗が冷たい! まさか僕たちの愛する娘がパパにそんな冷たい事を言うなんて~~! ずっと僕たちの可愛い娘でいて欲しかったのに!」


 おいおいおい。

 さめざめと泣く実は泣き虫の父さまだった。


「いや父さま、私、もう大人だからね…?」


 そう、来年はあの綺麗な奥さんにデレデレと鼻の下を伸ばしていた奴を見つけた、あの年になってしまう。

 ということは、このままふらふらしていたら、またあの光景を見ることになる予感がする。

 だからその前に、早くそんなものを見なくていい場所に行ってしまわなければ。




 王嵐黎という人は、家族にはデレデレと情けない姿を惜しげもなくさらすけれど、基本は有能な商人であり、今や大変な金持ちである。


 なので、もちろん後宮の女官として働くための身元の審査はあっさりと合格して、早速私は後宮に行くことになった。


 父さまは何かとすぐに母(の肖像画)にグチグチと文句を言いつつも、それでも私が不自由しないようにと準備を整えてくれた。


 金子、着替え、身の回りの最低限必要なもの、と、そうではないけれど父さまが持たせたかったもの全て。

 あまりの高級品の山に、私は呆れて言った。


「ただの使用人がこんなに豪華な持ち物を持ち込めるわけないでしょう。最低限でいいのよ。そしてその最低限もほとんどは支給されるんだから、持ち物なんてほとんどいらないの!」


「そんなことを言っても春麗……粗末な服なんて君に着せるわけにはいかないよ……」


「使用人だからそれでいいの。制服は支給されるし、私服を着る時なんてきっとほとんどないんだから」


「あ、じゃあ、いっそ妃嬪になるか? 今ちょうど審査しているし、役人に金を積めば下の方なら簡単に買えるぞ? そして後宮では働かないでのんびりすればいい」


 ぱああっと明るい表情になって何を言い出すかと思えばこの父さま、一体何を考えているのやら。


「私に皇帝の奥さんになれと?」


「でも後宮なんてどうせ下の方の妃嬪はまず放っておかれるものだ。いくら春麗が綺麗な娘だとしても、静かに目立たないようにしていればきっとなんとか……。それで後宮に飽きたら今度はちゃんとパパがお前を出してもらうようにしてあげるから。もちろん目立とうとはするなよ? 目立ったら最後、きっと手つきに……なったらその時は全力でパパが押し上げてやるからな!!」


「父さま、途中から話の方向が逆ですよ……でもナイから。それは絶対にナイから!」

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