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幻と知りつつも


 周皇太后が叫ぶ。しかし白龍はあくまで冷静に答えるのだった。


「桜花には神獣が見えないからです。それは生まれ持った性質で、後からどうこう出来るものではありません。神獣が見えなければ、本当のこの国の王である白虎と意思疎通ができないので白虎は憑かない」


「っ……! しかし、遺言があるだろう! 先代の皇女を娶らなければ皇帝を認めないという!」


「先代の遺言よりも、白虎の意志が優先されるのですよ。いくら遺言があろうとも、そのせいで私が皇帝ではなくなったとしても、この国の真実の皇帝位は揺らがない。たとえ私が皇帝を名乗らなくても、白虎はこの先も私とともにあるのですから」


「白虎は自分の選んだ者が皇帝でないときは、その皇帝を詐称する者を殺すでしょう。白虎がこの国の真の王なのですから。なのに皇帝陛下が兄上の遺言を無視しないのは、ただ単に神獣が見えない者たちにも納得できるようにしたいとの皇帝陛下のご配慮でしかありません」


 李夏さまが言った。

 白龍は、ひたと周皇太后を見据えながら言った。


「白、来てくれてありがとう。周皇太后もきっと納得してくれただろう。真の王が誰なのかを」


 ――またいつでも呼んでくれ。


 白は白龍の体にまたすりっと体をこすりつけてから、ふっと消えたのだった。


「きゅう……」


 なんだか私の足下からは、安堵したようなため息が聞こえてきたぞ。


 周皇太后が、唖然としたまま白龍を見ていた。

 白龍は、涼しい顔をしたまま、ちらりと李夏さまの方を見て頷いた。

 すると李夏さまは。


「それでは周皇太后さまには、ぜひ私の神獣もご紹介させていただきましょう」

 

 そう言って突然、周貴妃の寝室の扉を開いたのだった。

 すると。


 なんとそこには、懐かしい私の母さまが立っていた。


「え…………?」


 思わず動揺して唖然と立ちすくむ私。

 それは、懐かしい私の母さまだった。私がこの世に生まれて最初の頃の記憶にあるような、とても若い母さま。絶世の美女で、愛情深くて、なのに筋肉のあるちょい悪の男にはすぐに目がハートになる、そんな私の母さま。


 どうして……?


 と、思った時、その母さまが私の方を見て、ちょっとだけ申し訳なさそうな目をしたのだった。

 あ、あれは……。

 あの目は、知っている。李夏さまの九尾の妖狐の紺だ……!


 ということは、今は私の母さまに化けているということか。

 

 しかしそれは、あまりにも母さまの姿そのものだった。

 

「春容……ああ、春容……!」

 

 そんな妖狐が化けた母さまを見て、楊太師が泣きそうな声になっていた。

 そして、もう一人。

 意外にも激しく動揺している人が。


「姉さま……? なぜ……? なぜ! 姉さまは死んだはずなのに!」


 それは、周皇太后だった。

 そういえば、二人は従姉妹同士だった。

 年も近いから、母さまのことは姉さまと呼んでいたのかもしれないと思った。


「死んでいますよ。しかし私の神獣は、死者を黄泉の国から呼び戻すことが出来るのです」


 李夏さまが、涼しい顔でしれっと言った。


「そんな……馬鹿な! 死人を呼び戻すなど……!」


 しかし母さまに化けた妖狐は静かに私の前まで歩いてきて、そのままふわりと私を抱きしめた。

 私は思わず抱きしめ返して言う。


「母さま……!」


 それはお芝居でもなんでもなく、妖狐だと頭ではわかっているのに、それでも懐かしい母さまに抱きしめてもらったような気がして出た言葉だった。


「春麗、この女性がお前の母で間違いないな?」


 白龍の問いに、私は力一杯頷いて答えた。


「母さまです。私が十の時に病気で死んだ母さまです!」


 幻でも、また母さまに会えるなんて。

 その時、楊太師も感極まったように駆け寄ってきて、私と母さまの姿の妖狐を抱きしめたのだった。


「春容……春容……!」


 そう言いながら。


「嘘だ! 姉さまは死んだ! 子は生まれなかった! その前に毒で死んだはずなのに! なんで姉さまの子が生きているの!」


 周皇太后が悲鳴のような声を上げた。その時。


 リーン――――


 透き通るような涼やかな鈴の音が響き、母さまの姿をした妖狐がふっと周皇太后を見た。


 リーン――――


 ふと見ると、香炉を持っている李夏さまが、もう片方の手に持った鈴を鳴らしていた。


 リーン――――


 美しい天女のような李夏さまが静に香炉と鈴を持って立つ姿は、なんだか現実離れした雰囲気で、とても幻想的とさえ言えるようなたたずまいだった。


 神秘的な香りの香が濃厚に香る部屋の中。心なしか煙りがますます充満してきて少し煙い。

 そこに鈴の音がまるで天上から降りてきたような澄んだ音を響かせる。


 そんな空気の中、母さまの姿をした妖狐の紺が、ふわりとした足取りで周皇太后の方に足を踏み出した。


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